活動の概要
背景と課題
パートナー企業について
- 本分析において、パートナー企業として参加しデータ提供と問題提起をしてくれるのは、プリント関連機器と消耗品(以降:サプライ)の開発・製造・販売・保守を一貫して行っており、世界190以上の国や地域の学校・企業・自治体などで幅広くサービスを提供している企業である
- パートナー企業では、プリント関係機器とサプライをお客様へ提供するための独自の配送システムを持っている。中で、サプライの配送においては、サプライの受注情報に基づいて、工場でものを製造し、配送拠点に送り、配送拠点でサプライの振り分けした後、お客様へ届ける流れになっている
- そこでは、物流業界における「2024問題」を始めとする様々な課題が存在し、お客様により良いサービスを提供するにはこれらの課題に対してどう対応していくかについては大きな意味を持つ
分析の課題と目的
- パートナー企業から提供される「出荷実績データ」を用いて全体のサプライ配送状況を把握し、再送フローを確認する
- パートナー企業が移転を検討する配送拠点(以降:対象拠点)に着目して、配送の実態を把握した上で、移転の可能性と候補地について検討する
- 最後には、「配送拠点の移転における配送費用の効率化」について考察する
分析方法
使用データ
- パートナー企業から2023年の一か月分の「出荷実績データ」を提供いただき、分析を試みた
- 「出荷実績データ」については、合計で32の属性情報と約13万の配送レコードを有するデータである。中に、サプライの配送を区別するための属性や、受注数を算出するための属性や、位置情報に関する属性等を選別して分析に使用する
分析の指標
- 「配送拠点の移転における配送費用の効率化」を検討するため、「出荷実績データ」に基づいて新たに配送コストと配送費用を定義して算出する
- 配送費用の算出に用いる配送数量の定義は、パートナー企業との綿密な議論を重ねていく過程で、実際のサプライの出荷または配送に近い指標にした
配送費用のシミュレーション
- 対象拠点に対して、以下の3ケースにおいて配送費用のシミュレーションを行う
- ケース1:現状配送エリアにおける対象拠点の移転
- ケース2:ケース1をベースに対象拠点から比較的に離れている2県を除く
- ケース3:ケース2をベースに対象拠点から比較的に近い1県を追加する
- 各ケースを評価するには、対象拠点の現状配送費用を標準値とし、標準値の1.5倍値と共に配送費用の許容範囲としてシミュレーションの結果と比較して移転における費用の効率化を明らかにする
- シミュレーションの方法については、移転①・②・③ 等(下図に示される通り)における移転後の配送費用を繰り返して求めて行き、求められた結果を配送費用の許容範囲と比較・検討を行う
分析結果
- 対象拠点における「出荷実績データ」の分析結果については、配送費用の結果で兵庫県と大阪府(対象拠点の現在地)の大小関係が逆転することから、兵庫県に対象拠点の移転候補地が存在する可能性を示唆する
- 図 ー4に示されている通り、標準値から1.5倍値は配送費用の許容範囲であり、各エリアの箱ひげがこの範囲と重なると、そのエリアに許容範囲内の移転候補地が存在することを意味する
- 結果的に、大阪府の場合は現在の位置をも含めて多くの新しい移転候補地が確認できる。そして、奈良県と兵庫県にも許容範囲内の移転候補地が確認できる
- 特に、兵庫県においては、配送費用の最小値が標準値のラインに極めて近いことから、兵庫県に対象拠点の現在地と同じレベルの配送費用が可能な移転候補地が存在すると考えられる
- 図 ー5に示されている通り、ケース2のシミュレーション結果に関しては、2県を除いたことによって配送費用が下がったことが確認できる
- そして、結果的に、大阪府・兵庫県・奈良県における許容範囲に入るエリアが拡大されたことを意味し、結果に、「配送拠点の移転における配送費用の効率化」の検討においては配送エリアの再編成が有効であるといえる
- 図 ー6に示されている通り、ケース2の結果をベースに1県を追加した際、全体的に配送費用が上がったことが確認でき、全エリアにおいて配送費用が許容範囲外になっている
成果と提案
- 各ケースのシミュレーション結果からは、「配送拠点の移転における配送費用の効率化の検討」においては、本分析で提示して手法によって配送拠点の移転における配送費用の評価と移転候補地の把握に関して定量的に検討できるといえる
- さらに、下図に示されている通り、シミュレーションの可視化結果は、実際に移転候補地の選定について議論する際、有効なコミュニケーションツールであろう
- 最後に、本分析で行われた「配送拠点の移転における配送費用の効率化の検討」の結果を踏まえて、パートナー企業の配送システムに対し、自動化や最適化などについて本分析で活用した手法になるMDA的なアプローチ(数理・データサイエンス・人工知能のアプローチ)を用いたさらなる検討を提言したい
謝辞
- 本分析では、執筆者、異分野の学生1名、パートナー企業からの社員6名、実社会のデータサイエンス1名、システム情報系教員1名の計10名からなるチームを作り、パートナー企業の課題に対して実効性のある解決策の検討と提案に向けて、3ヶ月間のグループワークに取り組んだ
- パートナー企業のデータ提供を始め、チームメンバーから様々な形でのサポートと貴重なご意見をいただいた。ここに記し、感謝の意を表す
参考資料
- パートナー企業提供のデータと資料
- 新しい数理最適化-Python言語とGurobiで解く.久保幹雄ほか(共著).近代科学社.2012
- Pythonによる実務で役立つ最適化問題100+1-グラフ理論と組合せ最適化への招待.久保幹雄(著).朝倉書店.2022
- Pythonによる実務で役立つ最適化問題100+2-グラフ理論と組合せ最適化への招待.久保幹雄(著).朝倉書店.2022
- Pythonによる実務で役立つ最適化問題100+3-グラフ理論と組合せ最適化への招待.久保幹雄(著).朝倉書店.2022
- Pythonによる数理最適化入門.並木誠(著).朝倉書店.2018