Amazonプライム会員の人は、Amazonプライムリーディングというオマケサービスを利用出来るのをご存知だろうか。
Kindleの読み放題サービスの選べる本の範囲が少ない版みたいなものだ。正直いって、ラインナップとしては相当少ない。といっても、プライム会員ならば、追加のお金を払わずに使えるものなので利用しない手はない。
漫画だってタイトルは少ないけれど、そこそこは読めてしまう。長編マンガの最初の3巻以内が無料という「試し読み」的なものが多いが、その中で狙い目なのが、「一話完結の読み切り型」の作品と、「一冊で完結」の作品だ。
前者だと、例えばラズウェル細木『酒のほそ道』が1~3巻まで手に入るというのが都合が良かった。ただしこれは現在ではラインナップから外れている。(対象タイトルは定期的に入れ替えされるので欲しいやつは、そのタイミングでダウンロードしておく必要がある。10冊まで保持可能。)
現在読めるなかで面白かったのが『不妊治療、やめました。~ふたり暮らしを決めた日~』というマンガだった。いつまでラインナップされているのかわからないので、みなさんがこれを読んだタイミングでは有料かもしれない。そのへんはご了承いただきたい。とりあえず僕はプライムリーディングで無料だった。
これを読んだ理由としては、プライムリーディングのラインナップだったからというのと、一冊で完結する本だったからというだけであって、不妊治療にも興味なければ、著者の方々も全然知らなかった。かなりキャリアのある漫画家さんらしい。本当にあった◯◯みたいな漫画雑誌に長年描いているようだ。誰にでも読みやすくて達者な絵柄だった。最後まで抵抗なくすらすらと読めてしまう。
タイトルでネタバレしてしまっているが、漫画家夫婦が不妊と言われて、治療に取り組み、諦めるまでに至った経緯を綴った内容になっている。いわば闘病記マンガに分類される作品だ。闘病記系の一冊完結のマンガ作品は、わりに話題になりやすく、今や人気ジャンルといえるのかもしれない。この作品もそういう流れにのって出たのだろうと推察する。
妻の病をきっかけに子作りを始めた夫婦が、不妊を疑い始めるところから長い闘病生活が始まっていく。その経緯が本編の中核をなしているところなんだけど、一般的な病院の話が出て来るのは最初だけで、途中からは何だか怪しい感じの医者しか出てこなくなる。医療系の体験談というより、オカルトじみた話に進んでいくのがなかなか怖い。
不妊治療生活の最中、夫がステロイド剤をやめてしまったせいで、アトピーの症状が悪化して大変なことになるというエピソードがある。泣きっ面に蜂とはこのこと。苦しんでいると、たまたま漢方薬の医者を知って、セミの抜け殻とか石とかを煮込んだ「魔女の薬」みたいなものを処方される。それを飲むようになってしばらくすると、夫のアトピーの症状は緩和されていく。
冷静に考えれば、「魔女の薬」がアトピーの治療に効くわけがない。プラセボ効果と単なる時間経過によって症状が治まっただけというのが無慈悲なまでの現実だったりする。しかし高価で不思議な治療を受けている側はそうは考えない。ここで夫婦は漢方薬という怪しい世界にのめり込んでいく。
現代医学では効果の上がらない不妊治療も漢方薬ならば…と藁にもすがる思いで、勧められるままに高価な薬に手を出したりする。常識的に考えて、鹿の角に不妊症を治す効果が認められているならば、現代医学にも取り入れられているはずだ。取り入れない理由が無い。うまく行けば鹿の角のどの成分が効くのかを分析して、安い薬の精製に成功するかもしれない。分析しきれなくとも、効果があるなら鹿の角を飲ませてみようという話にはなるはずだ。
もちろん現代医学は万能というわけではない。しかし漢方薬とか民間療法とか怪しい宗教はもっと万能じゃない。でもなんとなく「そうかな」という気にさせる。「これだけ高いお金を払ってるんだから」というのが重要だ。あと「信じている人が多い」というのも。
このマンガの夫婦も「ここで止めたら今まで払ったお金が無駄になる」とギャンブル依存症的な思考に陥りそうになるが、なんとか踏みとどまる事に成功する。が、読んでいてすごく辛い。
その後もいろいろの医療機関を試していくが、ことごとく嫌な奴しか出てこないのが辛い。子供が欲しいと願う夫婦の弱みに付け込んめば、やりたい放題が出来るのかと、義憤にかられてしまう。弱みをもった人間は、よってたかって喰われてしまうのが世の中なのか。世の中は荒野かサバンナか。もうやめろ!やめてくれ!と思いながら読む。
あかん、泣けてきた。
この本の結論はどうなるのか。夫婦の選択は。タイトルですべてネタバレしてるとはいえ実際に読んで確かめてみて欲しい。
自分は40過ぎているが、今まで一度も子供が欲しいとは思った事はないし、結婚すらもしていないが、どうしても子供が欲しいと考えている人は多いみたいだ。結婚の目的が子作りとまでわりきっている人もいるくらい。そうした人からしたら不妊治療というのは、生き甲斐を左右するくらいの問題と言っても大げさでないかもしれない。不妊治療ビジネスが怖いものになっていきがちなのも何となくわかる。
このマンガの著者がどれくらいの気持ちだったか本当のところはわからないが、描かれている不妊治療にかけた労力を考えれば真剣に取り組んだのは疑いようがない。こういう世界もあるのかと考えさせられた。
それにしても一冊で終わるマンガって本当にすばらしい。
調べたらインタビューがあった。
親の介護、はじまりました。 (上) (本当にあった笑える話)
- 作者: 堀田あきお&かよ
- 出版社/メーカー: ぶんか社
- 発売日: 2016/08/18
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他にもいろいろ描いてはるみたいだ。こちらはKindleアンリミテッドにお金さえ払えば無料で読めてしまう。
Amazonプライムリーディングのオススメ本はこれからも紹介していきたい。