1984年10月、「日経トップリーダー」の前身である「日経ベンチャー」が誕生した。そこから今に至る40年間は、80年代後半こそバブル景気に沸いたものの、その後はバブル崩壊、金融危機、リーマン・ショックなどが続き「失われた30年」となった。山一證券など姿を消した名門企業が続出する中、企業の99%を占める中小企業はより苦難の時期が続いた。そんな苦境の中、経営のかじ取り失敗や予想外の事態で窮地に陥りながらも、逆境から立ち上がり復活を遂げた企業がある。今回の日経トップリーダー創刊40周年記念特集では、「どん底」から復活した5社の経営者に経緯や思いを赤裸々に語ってもらった。経営の成功と失敗は背中合わせ。経営者の失敗や誤算とそこから脱した経験から学べることは非常に多い。ここから今後の経営のヒントをつかみ、社業の発展や事業承継などに役立てていただきたい。さらにスペシャルインタビューとして、アイリスオーヤマの大山健太郎会長や脳科学者の茂木健一郎氏に、経営者の心得や心の持ちよう、「生きがい」や死生観などについて語ってもらった。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

<特集全体の目次>
・アイリスオーヤマ 大山健太郎会長「ポジティブシンキングでこそ道は開ける」

・八天堂森光孝雅代表 無理な拡大路線で廃業の危機に 「くりーむパン」一品集中で躍進(10月3日公開)
・深中メッキ深中社長 兄の失踪と父の急逝で崖っぷち 中学の教科書から学び直し新技術開発(10月4日公開)
・IKEUCHI ORGANIC池内計司代表 連鎖倒産で天国から地獄へ それでも熱狂的ファンがいた(10月8日公開)
・エレコム 葉田順治会長 「間違ったことはしていない」 暗黒の3年間を支えた信念(10月9日公開)
・ラクト・ジャパン三浦元久社長 大型倒産後に〝傍流〟メンバー再結集 初めて考えた自社の存在意義(10月10日公開)
・脳科学者茂木健一郎氏 AI社会は「生きがいリスク」が問われる(10月11日公開)

アイリスオーヤマ 大山健太郎会長
最悪のことを考えるのが経営者の常だが、ポジティブシンキングでこそ道は開ける

人材不足で悩むのは、経営者の誰もが通る道。大山会長は「幹部研修会」で社員の目線を引き上げてきた。悲観でも楽観でもない、ポジティブシンキングを経営者に求める。

本誌「日経トップリーダー」は創刊40年を迎えました。大山さんには以前から愛読してもらっています。

大山氏:私は、日経トップリーダーが「日経ベンチャー」という誌名だった頃から読んでいます。創刊時の私は39歳で、松下幸之助さんや本田宗一郎さんなど、著名なオーナー経営者の記事にたくさんの刺激を受けたものです。まだ社名は大山ブロー工業所(1991年にアイリスオーヤマに変更)。プランターやホースリールなど需要創造型の新しい園芸用品を市場に送り出したので、いくら作っても足りない時代でした。

 時代は違えど、中小企業経営者が抱えている課題は基本同じです。当時の私は、会社の成長に人材のレベルが追いつかないことが一番の悩みでした。会社がそこそこ大きくなり、学生や社会人が認知してくれるまでが大変でしたね。でも、そこをどう突破するかが、経営者の手腕です。

 松下電器産業(現パナソニック)のような大手企業には就職できない若者しか応募してきません。でも、人材のえり好みはできないので、よほど変な人でない限りは採用していました。そうして入ってくれた人たちが、役員になるなど今も頑張ってくれているのです。

「いい人が来てくれない」と経営者はよく言いますが、それは大山さんも同じだった。

大山氏:経営者は高い志を持っている。同じレベルの社員を雇えると思うほうが間違いです。社員を育てることが経営の醍醐味なのです。成長の場とミッションを与えれば人は育ちます。会社の歴史を振り返ると、一番の肝だったのは「幹部研修会」だったと思います。社内のあらゆる情報を社員と共有し、四半期ごとに経営課題を皆で考える場で、私が35歳の頃から続けてきました。社員は確実に育ち、全体最適の議論ができるようになりました。

 社内情報をオープンにし、経営課題の解決を皆で目指そうとすると、付いてこられない人が出てきます。でも、ハードな経営でよかったと思う。社員の不満を優しく聞いて、午後5時には帰りましょうといった経営だったら、意欲のある人たちは残らなかったかもしれない。

会社は厳しくて当たり前

難しいところですよね。今はどうですか。転職サイトを見ていると、アイリスオーヤマは厳しい会社だという声もありますが。

大山氏:厳しくて当たり前ですよ。ラクしていい給料をもらって、将来も安泰だなんて、そんな夢みたいな会社はありません。企業の原点は競争でしょう。オリンピック選手も他の選手より、高いレベルの練習を多くしたから勝つのです。

 アイリスオーヤマでは今、入社してきた社員は3年で1割ほど辞めます。自然な姿だと思う。しがみついて、社員がほとんど辞めない会社のほうが困る。3割も辞めたらあきません。1割なら正常です。

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