米国時間11月5日、米大統領選の投票が始まった。経済から安全保障まで超大国の行方に世界が注目する一方、米国で事業を営む企業にとっては直後に起こり得る混乱への対応が目下の課題となる。従業員の欠勤や生産性の低下、職場での衝突にどう向き合うか――。社会の分断が深まる中で「選挙後の職場」への警戒が広がっている。

 「失われた1週間だった」。世界最大の人事専門家団体であるSHRM(米国人材マネジメント協会)のジョニー・C・テイラーCEO(最高経営責任者)は2016年の大統領選直後の職場の様子をこう振り返る。

 この年の大統領選では民主党のヒラリー・クリントン氏と共和党のドナルド・トランプ氏が競い、投開票日の深夜にトランプ氏の勝利が確実となった。翌朝、テイラー氏が当時の職場で目にしたのは取り乱し、泣いている人たちだった。それどころか「(ショックで)仕事に来られない人もいた」(テイラー氏)。にわかに結果を受け止められない同僚が多く、仕事に集中できない日々が1週間ほど続いた。

 テイラー氏の体験はデータでも示されている。カナダにあるウォータールー大学のジェームズ・ベック准教授(心理学)の研究によると、16年の大統領選で勝った候補(トランプ氏)に投票した人の仕事への意欲は投開票日の前後でほぼ変わらなかったが、敗れた候補(クリントン氏)に投票した人の意欲は大きく落ち込んだ。影響は1週間以内に収まったものの、投開票日の翌日だけで生産性の低下によって7億ドル(当時の為替レートで約720億円)の経済損失が発生したと推測している。

 現大統領のジョー・バイデン氏がトランプ氏との接戦を制した20年の選挙では、欠勤や集中力の低下といった問題は目立たなかった。新型コロナウイルス感染症がまん延しており、多くの人が在宅勤務をしていたためだ。一方で、集計作業の長期化や結果に対する不満は、市街地やオンライン上でのデモや抗議活動の形で表面化した。

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