「名前の日」とポーランド人の名前の話
日本に住んでいるポーランド人の私ですが、多文化の話が上がってくるたびに、「これが違う」という一言でまとめたくなくて、「なぜ違うか」というのをまず考えたいです。
今回もそれと同様に、日本人がまだ知らないポーランド人のお名前、それについての考え方と「名前の日」について紹介します。
Table of Contents
下の名前について
漢字文化がある国では、子どもの名前を選ぶ時、「こういう風に育ってほしい」という願いを込めたり、親の名前を部分的に使ったり、組み合わせたりすることが多いです。その年に人気の名前があったとしても、同じ漢字で書かれた下の名前の人が同級生の中にいることはあまりないでしょう。
しかし、国やその言語よって「名前文化」は大きく違います。特にヨーロッパの場合、それぞれの国に独自の言語、歴史や文化があるので、名前にもそれが反映されている部分が多いです。
「ポーランドは何語ですか?英語?」と聞かれることがありますが、ポーランド語というスラヴ語派に属している言語があります。アルファベットを使うため、漢字のように名前に意味が込められているわけではないですし、子どもを名付ける時は響きの方が重視されます。しかし、名前にはまったく意味が含まれていないわけでもありません。由来等を辿っていけば元の意味が分かってきますが、それを考えて選ぶことはほとんどなく、あとから自分の名前の意味を読むのは、まるで占いを読んでいるような感覚になります。
例えば、「Anna」は「恩恵」などを意味するヘブライ語の女性名カンナハ חַנָּה (Channah) がギリシア語化したもの[1]、だそうです。さらにポーランド語で調べてみると、素敵で優しくて、穏便な人を指している、という説明もありました。ただし、その性格を指していることを親が知って名付けた、というわけではなく、その名前の人がそういう性格の持ち主である、というニュアンスになっているところはまさに占いっぽいです。(ウェブサイトによって、恋愛、家族、仕事など様々な面における特徴も書かれていますが、その根拠がますます怪しいです。)
さて、響きが良ければ名前はなんでも良いのか?という疑問が生まれるかと思いますが、もちろんそういうわけではありません。
おそらくどこの国でも見られる近年の傾向として、国際社会で通じるような英語圏の名前を選ぶことも多いです。しかし、独自の言語がある以上、ポーランド語特有の名前も昔から存在しています。
↑ 「Kinga」という名前とその持ち主の特徴が書かれたグッズ(マグネットとマグカップ)
文化的な背景
国の文化には歴史上様々な影響があるため、それを短くまとめることは難しいですが、この記事のために色々とシンプル化し、簡単に説明いたしますと、ポーランドの場合、基本的にキリスト教の影響が昔から強いです。そのため、多くのポーランド語の名前も聖書に出てくるような人物や他の聖人に由来しています。
もちろん、「Anna」の事例のように、ヘブライ語等の名前をそのままは使わず、発音やアルファベットを合わせて、しっかりとポーランド語化されています。例えば、男性の名前「Paweł」(パヴェウ)は英語の「Paul」に当たりますが、古代ローマ時代のラテン語の「Paulus」がその起源となります。
他にも言語の特徴はいくつかあると思いますが、その一つは、ポーランド語の女性の名の最後の文字は基本的に「a」になります。当然例外はありますが、かなり少なく、他の言語からそのまま伝わった場合がほとんどのため、調べないと自分ではその事例がなかなか出てこないレベルの話です。
英語圏の名前をそのまま使うこと以外に、日本と同様にキラキラネームの現象や、名前として存在しているものの古すぎるために近年は滅多に使われないものもあります。しかし、常に(または、その世代に)人気があり、よく使われる名前の数はある程度限られているため、同い年のクラスメイト30人の中で同じ下の名前の人がいてもおかしくありません。実際、中学生のころ、自分を含めて同じクラスに「Kinga」は3人もいましたが、そういう状況は特に珍しくありません。
名字やニックネームを使わないと、誰のことが呼ばれているか分からなくなるという不便もたまにあったりしますが、一つ良いところを挙げると、マグカップやキーホルダーをはじめ、自分の名前が付いたグッズが買いやすいのは嬉しいところです。
名前の日
さて、ここまで文化的な背景を理解していただければ、次に気になるところは、ポーランド以外にもいくつかの国で祝っている「名前の日」。みなさんはご存知ですか?
よく聞かれるのは「誕生日とはまた別ですか」という質問ですが、それはまったく別で、生まれた日とはあまり関係ありません。次に、「母の日や父の日のことでもないですか」と聞かれることもありますが、それもまた無関係です。
ポーランドのカレンダーではキリスト教の決まり(ヴァチカンからの直接な指示)に沿って、毎日誰か聖人か福者が崇拝されます。
↑ ポーランドで使われているカレンダーのページ。日付の下に名前が書かれています。
ただし、そういう聖人や福者は365日よりずっと多いので、1日に複数の聖人が振り分けられたり、同じ名前が1年に何回も出たりします。また、歴史上その日付が変わったり、名前がカレンダーに現れたり消えたりしていたようなので、ある程度決まっているとはいえ、定かでない部分もあります。おそらく最も多いのは男性名の「Jan」(ヤン)という名前で、カレンダーには42回も登場しているようです。例えば、毎年、1月10日、1月31日、5月6日、3月8日、3月28日、5月23日、5月27日、6月12日、6月24日、6月26日、11月24日、12月27日等にあります。
しかし、Janの皆さんは42回も「名前の日」を祝うわけではなく、基本的に親がその中から1日を選びます。その選び方にも基準がいくつかありますが、普段は誕生日後の最も近い日付を選択することが多いです。もちろん、他の選択肢がなければ誕生日前の可能性もあります。
「名前の日」のお祝いはどんなものでしょうか?
通常、誕生日のお祝いほどでもないのですが、地域によっても差があるかと思います。また自分はそこまで重要視しなくても、年を取っていくうちに、誕生日よりも名前の日の祝いの方が嬉しい、という人もたまにいます。
↑ 「名前の日」にいただくカードの表紙
近い家族か親戚であれば、なるべく覚えて「おめでとう」のメッセージを伝えたり、カードやお花、ちょっとしたプレゼントをあげることもあります。何よりも、家族で会って、一緒にご飯を食べて、お酒を飲む機会にもつながるので、忙しい日常生活の中で大事な人を思い出す良いきっかけだと思います。友達の場合には、おそらく40〜50代以上の人では親友の名前の日を覚えて祝う人もいるかと思いますが、私を含めて若い世代では友達の名前の日を知らない人がほとんどではないかと思います。
人の名前になると、きっと考え方や伝統、文化的な背景等、おもしろい話がいっぱいあるかと思います。自分の場合はその由来や意味など、名前の日に関係している聖人の話など色々と調べたこともありますが、それが人生に影響を及ぼしているわけでもありません。
ただ、名前の日にプレゼントがもらえるのは当然嬉しいことですし、家族とおいしいものを食べたり、ちょっとしたケーキや他の甘いものをわざわざ買う機会が増えるのは、日常生活の中で特別感をもたらす良いことだと思っています。