紙本著色日月山水図〈/六曲屏風〉
概要
それぞれ画中に金属板の日と月を嵌め込んだ遺例の少ない日月山水図の名品として知られてきたものである。ただし両隻は画風からみて制作年代に違いがあり、月の図が後から補われたか、別々の屏風だったものを組み合わせたものと考えられる。その時期は不明であるが、かつての表装が左右同一であったことからみて、古くから一双の屏風として扱われてきたものであることが知られる。
日輪が嵌め込まれた向かって右隻は、右に滝が落ちかかり、桜と宇治橋が大きく描かれており、名所図としての性格が強い。画中には、金箔や銀箔を細かく切ったものや、細く裁断した野毛、ちぎり箔などが多く使われている。これに対し、月輪を嵌め込んだ向かって左隻は秋、冬の田の景色で、右隻の動的な構図に比べて静的な印象を与える画面である。金雲や土坡の一部は箔足の見える金箔で覆われて金地化していることなどにも両者の相違点がうかがえる。
制作年代は、これら金銀箔の用法や岩の描法からみて、日輪のある右隻が室町時代も十五世紀を下らないとみられるのに対して、月の図である左隻はこれよりいくぶん時期が下る頃のものと思われる。両隻ともにやまと絵の絵師の手になるが、左隻が正当的な土佐派の様式を示しているのに対して、右隻には土佐派とはややことなる奔放さが認められよう。
なお、本図は大正九年に主殿寮【とのもりりよう】から、檜図(国宝 昭和二二・二・一九)などとともに当館に下付されたものである(図版は八~九ページ参照)。