Sansan DSOC研究員の前嶋です。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第5回です。
社会ネットワークと転職についての研究は数多く、この領域は「キング・オブ・ネットワーク研究」と言っても過言ではありません。というのも、様々な社会現象の中で、転職は特に社会ネットワークから受ける影響が大きいためです。
平成24年の労働経済白書によれば、転職の経路のうち「知人・友人の紹介」の割合は23.4%にのぼるそうです(厚生労働省 2012)。多種多様な情報ソースが利用可能になった現代でも、社会ネットワークが職探しに与える効果は依然として大きいと言えます。
弱いつながりと転職
さらに、転職という現象に対するネットワーク理論的なアプローチは、「オリジン・オブ・ネットワーク研究」であるとも言えます。1973年に出版されたネットワーク研究で有名な「弱い紐帯の強さ」論文も、実は「転職に対して弱いつながりが有用である」ということを実証した研究でした(Granovetter 1973)。著者のグラノヴェッターは、ボストン郊外に住むホワイトカラー労働者のうち、新しい職に就いた人を対象にインタビューをしています。その結果、転職先の情報をもたらしたのは、頻繁に会う人よりも、たまに会う人である場合が多いことが分かったのです。
なぜでしょうか。確かに、強いつながりでつながっている人のほうが、転職を手助けしてあげようとするモチベーションは高くなり、一見そちらのほうが有利に働くと思われます。しかし同時に、強いつながりでつながっている人は、同じようなクラスタにいる可能性が高く、したがって流通している情報も似通ったものになります。一方、弱いつながりの場合は、別のクラスタとつながっていることが多く、多様かつ新しい情報がもたらされやすくなります。そして、とりわけ「どこに職があるか」という情報が重要な意味を持ってくる転職に関しては、新しい情報を運んでくる弱いつながりのほうが有利に働くというのです。グラノヴェッターは、これを「構造の意思に対する優位性」(the primacy of structure over motivation)と呼んでいます。
弱いつながりは強くない?
しかし、最近は弱いつながり論に対する疑義も多く提出されています。「多様性-帯域幅トレードオフ理論」(詳しくはBNLの解説記事をお読みください)によれば、橋渡し的なつながりは、結束的なつながりよりも単位時間あたりに流れる情報量が小さくなり、更新される頻度も少なくなります。したがって、弱いつながりで得られた情報は古い情報か、良い職ほど早く埋まってしまうので、情報を得られたとしても、それは良い仕事についての情報ではないだろう、という指摘がなされています(Aral and Alstyne 2011)。
さらに、近年の研究では、強くつながった人々がお互いに情報を共有しようとするモチベーションもやはり見逃せないだろう、という主張もなされています(Kim and Fernandez 2017)。また、「信頼」という、情報とは異なる次元での強いつながりの重要性を指摘する研究も現れてきています(Hasan 2018)。
結局どうつながれば良いのか
ここまで、転職に対する様々なネットワーク研究的なアプローチを紹介してきましたが、結局、弱いつながりと強いつながりのどちらが転職にとって有益なのでしょうか?…残念ながら、それはまだ未解決の問題ということになります。
おそらく、確固たる普遍法則というものはないと思われます。それよりも重要なのは、社会的環境や文脈によって、どのような固有の力学が働いているかを明らかにすることでしょう。転職に関して言えば、どのような業界で強い紐帯が重要で、逆にどのような業界で弱い紐帯が重要になっているかを理解することです。これは非常にチャレンジングな問いであるため、従来のような小規模なデータでは、これに答えるのは困難でした。しかし、近年では社会科学の分野でも当たり前のようにビッグデータが使われるようになったため、先ほどの問いに答えが出るのも時間の問題かもしれません。今後の研究の進展に注目です。
次回は「友だちの数に限界はあるか?」というテーマで書きます。
【参考文献】
厚生労働省. (2012).『平成24年版 労働経済の分析 -分厚い中間層の復活に向けた課題-』
Aral, S., & Van Alstyne, M. (2011). The diversity-bandwidth trade-off. American Journal of Sociology, 117(1), 90-171.
Granovetter, M. S. (1973). The Strength of Weak Ties. American Journal of Sociology, 78(6), 1360-1380.
Hasan, S. (2018). Social Networks and Careers. Available at SSRN 3059783.
Kim, M., & Fernandez, R. M. (2017). Strength matters: Tie strength as a causal driver of networks’ information benefits. Social science research, 65, 268-281.