クーペの後にオープンモデルをリリースするというのは、スポーツカーの世界では常識だ。昔はルーフ部分を切り取るだけだったが、それだとシャシーの強度が半減してしまう。そのためクーペにはない補強材を追加するのだが、それでも「クーペ=本格派」「オープンモデル=雰囲気重視」という評価がついて回ってきた。
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だがフォーミュラカーやレーシングプロトタイプといった一線級の純レーシングモデルに、オープンコクピットが多いことも事実だ。これはどういうことか? それは自動車レースが始まった時からの伝統、マシーンのミニマリズム(軽量化)の追求といった理由もあるが、純粋なレーシングカーは構造上、屋根がなくてもシャシー剛性を確保できるように設計されているという理由もある。
以前クーペモデルの「MC20」をレポートしたが、今回はそのオープン版。サブネームの「チェロ(Cielo)」はイタリア語で“空”を意味する。イタリア車といえば、見た目がとびきりお洒落なことで知られるが、ネーミングの手法も実に粋だ。MC20登場時のキャッチコピーは「100%メイド イン モデナ」だった。モデナはマセラティの故郷であると同時に、イタリアのスーパーカー、そしてレーシング産業が集まった土地柄でもある。「ネットゥーノ」と命名された最新型のV6ツインターボエンジンを始め、デザイン・製造はすべて自社製だが、車体の中核となるカーボンファイバー製のシャシーの設計は、同じくモデナに本拠を置くダラーラ社に頼っている。
レース好きであればダラーラの名前を知らない人はいないだろう。現在の日本のトップフォーミュラはダラーラ製のワンメイク(レースに使用するエンジン、タイヤ、シャシーなどのコンポーネントを単一メーカー限定)で、世界的に見てもF2やF3といったカテゴリーのマシーンの大半もダラーラ製。さらに社主のジャンパオロ・ダラーラ氏が、かのランボルギーニ・カウンタックの設計者だったといえば、それ以上の説明は不要だろう。生まれはモデナ、姓はイタリアの古豪マセラティ、MC20チェロはそんなサラブレッド中のサラブレッドだ。
さてそんな本格レーシングカーに通じる設計のスーパースポーツカーを、BRUDER読者はどう乗るべきか? 答えは、カジュアルなウェアを羽織って、普通にゴルフのアシにすればいい。その場合、パッセンジャシートに寝そべっているのは“彼女”ではなく、キャディバッグということになるのだが…。スイッチ操作一つで開閉できるガラスルーフは、閉じている状態でも空を楽しめる。混みあった都市部を抜け出したら、ルーフを開けて快適なオープンエアドライブもできる。オープン時でもカーボンファイバー製のシャシーは強度を担保し、630psもの高出力をしっかりと支える。
超本格スポーツカーをさらりとゴルフ中心の日常に取り入れてみてはいかがだろう。ゴルフ場の駐車場ではかなり浮いた感じになるはずだが、そんなミスマッチすら楽しみに変えてしまえばいい。意外と快適、でも中身は本格的。マセラティMC20チェロはマルチなポテンシャルの持ち主である。
マセラティMC20チェロ 車両本体価格: 3650万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4670 X 全幅 1965 X 全高 1215 mm
- ホイールベース | 2700 mm
- 車両重量 | 1750 kg
- エンジン | V型6気筒ツインターボ(ネットゥーノ)
- 排気量 | 2992 cc
- 最高出力 | 630 ps(463 kW) / 7500 rpm
- 最大トルク | 730 N・m / 3000 - 5750 rpm
- 変速機 | 8速 AT
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Text : Takuo Yoshida