ブックライブ書店員
「もしもあの頃に戻れたら 結婚なんか絶対しない」
「ボールアンドチェイン」、つまり「鉄球と鎖」とは、囚人や奴隷が足に付けていた拘束具のこと。そこから派生して「束縛」の意を表し、男性が自分の妻を指して言うこともあったらしい。
たしかに、この作品に登場する主人公2人は、見えない「鉄球と鎖」に縛られているようだった。特に驚いたのは、自分らしい生き方を貫いているように見えるけいとでさえ、悩み苦しむ日々を送っていたことだ。しかし、それも考えてみれば当たり前だろう。女性性から逸脱しようとしたって、「女性らしくしろ」という声が消えるわけではない。むしろ、気にしていないふりをすればするほど、その声は強くなったりする。一見自分のことを理解しているふうの彼からの言葉は、より一層けいとに刺さっただろうと、自分ごとのように胸が締め付けられた。
「普通」ってなんだろう。そう問いかける作品は近年よく目にするようになったが、本作はその中でも群を抜いてリアルで苦しい。そして、「普通」なんてわからないけれど、同じような人がいるとうれしい。そんな二人に出会えて少し勇気をもらえた、そんな素敵なマンガだった。