2023.06.15
細かすぎて伝わらない!『令和5年版将棋年鑑』藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足 第1回
(1)生まれ変わるとしたら
(2)ネクタイ
(3)おいてかないで
(4)羽生先生がくれたもの
ごく一部の方にご支持いただいている夏の風物詩「将棋年鑑藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足」の時間がやってまいりました。
これはどのようなものかと言いますと、『令和5年版将棋年鑑2023』の巻頭特集に掲載する藤井聡太竜王名人のインタビューについて、インタビュアーである島田が補足する、というものです。
インタビュー記事はテキストで表現されるものですが、そこには残念ながら会話の間やそのときの表情、しゃべっているときのテンションといった情報が抜け落ちてしまいます。
しかし、そのような非言語的な情報にこそ取材対象の意図や本心が隠れているものです。そこで、この非言語情報をなるべく言語化して伝えることで、インタビュー時の細かいニュアンスを伝えようというのが本連載の趣旨になります。
ただ、このようなニュアンスはすべて私の解釈となるため、どうしてもそこには主観を通した歪みが生じます。さらに私の場合、藤井先生を心の底から愛しているので、解釈が藤井先生を美化したものになりがちです。そこから醸し出される気持ち悪さに耐えられる方でないと記事を最後まで読み通せない、という弱点が本連載にはあります。
それでも、「あれ?マイタケの天ぷら、食べてみたら結構おいしいじゃん」となる可能性もありますので、まずは一度ご賞味いただければ幸いです。
・・・さて、前置きはこれくらいにして本題にまいりましょう!
本日のMENUは以下の通りです。
(2)ネクタイ
(3)おいてかないで
(4)羽生先生がくれたもの
今年は1回の記事で4つのテーマ、ということでやって行こうと思います。
毎回ヘビーになるので胃もたれに注意して読んでいただければ幸いです。
それでは、いってみましょー!
(1)生まれ変わるとしたら
最初のテーマは「生まれ変わるとしたら」です。これは毎年行っている「シンプルな質問コーナー」で現れたものです。Twitterで皆さんからいただいた質問を藤井先生にぶつけるもので、皆さんにはいつも面白い質問を考えていただき大変感謝しております。
まずはインタビューのやり取りをご覧ください。
――続いての質問です。生まれ変わるとしたら何になりたいですか?
「(少し考えて)うーん。人間になりたいです」
まず、「生まれ変わるとしたら何になりたいですか?」というのは、「人間以外に生まれ変わるとしたら」ということを前提にしている質問です。
だから、よくある回答としては「鳥になりたい」とか「ハムスターになりたい」とか「貝になりたい」みたいなものになります。そういう生き物の中で藤井先生が何を選ぶのかに興味があったわけですが・・・
まさかの「人間になりたい」。
いや、これは度肝を抜かれましたよ。さすが藤井先生です。
このあと私、
――やっぱり人間がいいと。
って冷静に返してますけど、心の中では「いや、生まれ変わってないですやん!」っていうツッコミと「早く人間になりた~い」っていう妖怪人間ベムのフレーズが脳内を駆け巡って大変でした。このあと藤井先生が人間になりたい理由を言ってくれるんですが、これがまた面白い。
「そうですね。自然界は競争が厳しいので生き残る自信がないです(笑)」
・・・いや、現実的!!この質問って「鳥になって空を飛んでみたい」とか「ナマケモノになってのんびり暮らしたい」とか、そういう想像の遊びみたいなものですけど、藤井先生はリアリストでした。
人間以外に生まれ変わった場合、ちゃんと生き残れるのかをシビアに考えていくスタイル。素敵です。
この話の続きはこうです。
――確かに。人間以外だと生きていくのが大変そうです。生まれてすぐに命の危険にさらされる、ということもありますし。
「可能性としては少なくないですね」
この2重否定がいかにも藤井調で大好物です。今年も冒頭の質問コーナーから「やっぱ藤井先生最高!」と身もだえている自分がいました。
(2)ネクタイ
冒頭からかなりの気持ち悪さが炸裂したので、すでに離脱された方が多いと思われます。しかしここから気持ち悪さのボルテージがさらに上がって行くので、後部座席の方もシートベルトをしっかり締めてお読みください。
次のテーマは「ネクタイ」です。先ほどと同じシンプルな質問コーナーで、ネクタイ選びについて聞いた際に現れました。
まずは次のやり取りをご覧ください。
――普段のネクタイ選びはご自分でされていますか?
「いや、ネクタイは基本的に母に選んでもらっています。いただいたものが多いです」
この回答で気になるのは後の方の「いただいたものが多いです」というところです。
インタビュー中もあれ?っと思ったんですけど、この質問ではネクタイをどうやって入手しているかというのは聞いていないんですよね。
この連載では、聞かれていないことに藤井先生が答えたときは、その意味を考えなければいけません(使命感)。
おそらくですが、これは藤井先生の強がりというか、照れ隠しのようなものだったのではないかと推察します。
つまり、お母さんに選んでもらってるけど、買うところはお母さんに頼っていませんよと。もらったものをお母さんが選んでいるだけですよと。
そんな感じじゃないかと思います。
この藤井先生の気持ちは話の続きからも推量できます。
――いくつか候補を出されてその中から選ぶというより、一択で渡される形ですか?
「そうですね。ただ、一択ですけど自分が差し替えを要求することもできるので(笑)」
選んでもらってるけど、チェンジする権利はあるんだぞと。
さらに話は続きます。
――なるほど(笑)。変更する権利はあるんですね。
「はい。権利としては。でも基本的には行使しないで選んでもらったものをつけています」
お母さんに選んでもらってる
→でも、買ってもらってはないしチェンジもできる
→でも、結局選んでもらったものをつけてる
最後に負けを認めちゃうところまで含めて、一連の流れがかわいらしくて最高でした。
いつか私が藤井先生のネクタイを選んであげようと思います(叶わぬ願い)。
(3)おいてかないで
回転寿司でいうと、マグロ、サーモンといい感じに食べ終わったところで3つ目のネタに行きましょう。続いては「おいてかないで」です。これまでの連載記事を読んでいる方ならピンときたかもしれませんが、ご推察の通り、これは詰将棋コーナーで現れたものです。
毎年、藤井先生と會場のディープすぎる詰将棋トークに全くついていけない自分がおり、いつもハンカチを噛みしめております。そして今回も例のように詰将棋劇場が繰り広げられたのでした。
――いままでに一番悩んだ詰将棋はなんでしょうか。
「悩んだ詰将棋は最終的に解いていないので(笑)。結構諦めが早いタイプなので解けた中で悩んだのは浮かばないんですけど、最近ですと岡村孝雄さんの都煙の『アツクナレ』」
――あー、はい。
「あれを解いてみようと思ったんですけど挫折しました(笑)」
――なるほど。『アツクナレ』はそうですね。最近の大学で難解作でいうとあの中山芳樹さん作の・・・。
「あー、はい」
――あれは話題だったかと思うんですけど、どうでしたか?
「いや、初形を見て解けないと思ったので」
――なるほど(笑)。あの作品の場合は初形もそうですし、作者名もありますかね。
「はい」
――易しいわけがないですからね。
「そうですね」
藤井先生が『アツクナレ』と言ったところで會場が「あー、はい」と返し、そのあと會場が「中山芳樹作の・・・」と言いかけたところで今度は藤井先生が「あー、はい」と言う。
いや、その「あうんの呼吸」みたいなのやめてー!(笑)
正直、何をしゃべっているか全くわからなかったですけど、中山さんという方がいつも難しい詰将棋を創るということだけはわかりました。
こうやって一歩ずつ私も詰将棋の知識を増やしていきたいと思います(道は遥かに遠い)。
でも、藤井先生の楽しそうな顔が見れたので、島田的には微差でプラスとします。
(4)羽生先生がくれたもの
はい、というわけで連載第1回も最後のテーマになりました。当然ながら気持ち悪さもラストを飾るにふさわしいものになりますので、いったん黄色い線の内側まで下がってお待ちいただいたうえで、読み進めていただければ幸いです。
最後のテーマは「羽生先生がくれたもの」です。今回のインタビューではシンプルな質問コーナーのあとに1年のタイトル戦の振り返りをしていただきました。
「羽生先生がくれたもの」は言わずもがな、夢の対決となった第72期王将戦のお話で現れたものです。間違いなく将棋史に残るであろう、素晴らしい対決でした。
私の質問はこうです。
――大先輩との番勝負で将棋の内容以外のところで学ぶこともありましたか?
これに対する藤井先生の答えは心に残るものでした。「そうですね。対局が終わった後すぐに羽生先生が気持ちを切り替えられていたのが印象的でした。インタビューの時にはもう切り替えが終わっているようでした。あと、第1局の終局後のインタビューで持ち時間が8時間あっても足りないということをおっしゃられていて、やっぱり、そういう気持ちで考えないといけないんだなというところも勉強になりました」
このとき、話されている藤井先生の表情がとても穏やかだったことを覚えています。藤井先生の答えは大きく分けて2つです。
1、気持ちの切り替えの速さ
2、時間いっぱいまで考える姿勢
でもこれ、考えてみると、両方とも藤井先生にも当てはまることなんですよね。
藤井先生も負けた後、次の対局までには気持ちを切り替えられてますし(だから連敗しない)、時間があればあるだけ考えるというのは藤井先生の真骨頂で、師匠の杉本先生も賞賛するところです。
だからなんとなくですけど、藤井先生は羽生先生との番勝負を通じて「自分はこのまま進んでいいんだ」という気持ちになれたんじゃないかなと思うのです。
自分が心がけていること、自分が考えていることを偉大な先輩が先にやっている。
羽生先生は直接教えたわけじゃなくても、大事なことを藤井先生に伝えてくれたんだなと思って涙があふれてきました。
・・・本当のところはお二人にしかわからないですけど、羽生先生が藤井先生にいい道を示してくれたことは間違いないと思うのです。
そして、お二人が勝負を楽しんでいるかのように見えた王将戦七番勝負は、改めて最高でした。
やっぱ将棋っていいですね。ほんとそう思います。
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と、いうことで、インタビューの補足第1回は以上となります。
いかがでしたでしょうか? 初めての方は面食らったかもしれませんが、この調子でずっと続いていくので覚悟していただければ幸いです(笑)
今年はお伝えしたいことがたくさんありすぎて、例年以上に長い連載になる予感(悪寒?)がするので、ついてきていただける方は将棋年鑑発売までお付き合いください。
それでは、いつか公開される第2回でお会いしましょう!
(島田)
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