大森裕子さんの絵本「へんなかお」 変顔はコミュニケーションのひとつ|好書好日
  1. HOME
  2. インタビュー
  3. えほん新定番
  4. 大森裕子さんの絵本「へんなかお」 変顔はコミュニケーションのひとつ

大森裕子さんの絵本「へんなかお」 変顔はコミュニケーションのひとつ

文:日下淳子 写真:黒澤義教

――かわいい顔の動物がこちらを向いて「ねぇ ねぇ みててね」と話しかけるシーンから始まる絵本『へんなかお』(白泉社)。いないいない、ばあのように、次のページでは思いっきり変な顔をする。それからは、そんなに顔の皮をのばして大丈夫なのかと思うぐらい激しいリアクションの顔が続いていき、そのギャップに思わず笑ってしまう一冊だ。作者の大森裕子さんは、どのようにしてこのお話の着想に至ったのだろうか。

 きっかけは、次男が2歳ぐらいのときから、ことあるごとに変な顔をするようになったことです。「おはよう」と言うと変顔で返ってきたり、ご飯がおいしいと変顔でそれを表現してきたり。私が「大好きだよ」と言ったときも、とびきりの変顔で返事がきたりするんです。言葉もしゃべっていましたが、彼にとっては、気持ちを表現するツールのひとつに変な顔があったんじゃないかなと思います。そんな次男の姿はとてもかわいいので、私も真似して変顔で返事をしていると、なんだか二人で変顔大会のようになってくるのですが、それがとっても楽しくて(笑)。子どもにとって、変な顔はコミュニケーションのひとつなんだなと思い、それで絵本を作ることにしました。

自宅のアトリエにて。パソコンに映っているのは変顔を披露するかわいい息子さん
自宅のアトリエにて。パソコンに映っているのは変顔を披露するかわいい息子さん

 実はこの本は、東日本大震災が起こった直後に、刷り上がってきたんです。関東でもかなりの揺れがあり、連日ニュースは原発のことばかり伝える中、私自身も不安と緊張でかなりストレスフルな状態でした。だから見本が届いたときも、普段ならすぐに中身を確認するところを、しばらく置いたままにしていました。するとしばらくして、リビングから子どもたちのギャハギャハ!と大笑いする声が聞こえてきたんです。行ってみると、長男と次男が自分で段ボールを開けて、『へんなかお』を出し、大笑いしながら読んでいました。その姿を見たとたん、私の体からフッと力が抜け、私自身も一緒に笑うことができたんです。そこではじめて、自分がしばらく笑っていなかったんだと気づきました。そのとき「ああ、絵本にはこんな力があるんだ」と思い、自分が救われた気がしました。

『へんなかお』(白泉社)より
『へんなかお』(白泉社)より

――『へんなかお』には最後にミラーシートをつけて、読んでいる人の顔が映るようにしたページがある。「へんなかおしてみせて!」と読者に促す仕掛けだ。読むだけでなく、顔を真似したり、自分で顔を作ってみたりする遊びの要素が、子どもを絵本へと惹きつけている。この、特別な用紙を入れて、読んでいる人を驚かす仕掛けは、続編の『へんなところ』『へんなおばけ』でも好評だ。

 この本では、動物の変な顔が繰り広げられていくんですが、読んでいる子が必ず真似するとは限りません。でもミラーシートがあると、コミュニケーションが生まれますよね。『へんなかお』は、最初に月刊「MOE」(白泉社)という雑誌の付録として作った本でした。それが単行本化することになって、最後のページにあるミラーは、そのときつけたものなんですよ。編集さんがいろいろなミラーシートを探してくれて、でも直接貼るとぼこぼこしちゃうから、裏に白い紙を一枚入れて、でもそれが手貼りでしかできなくて……。本当にありがたいです。ミラーをつけてなかったら、こんなにヒットしてなかったと思います(笑)。

――大森さんの作品には動物をモチーフにしたものが多い。小さい頃から動物が大好きで、たくさんの絵を描いていたという大森さん。観察したり、生態を調べたりして、かわいいだけではない生き物の絵を描いている。

 『へんなかお』で最初は、あかんべーの顔にしたいと思い、舌の長いマレーグマを選びました。歯をイーって剥き出すのは絶対、馬系の何かだと思っていました。カエルの生態を描くときは、上野動物園に電話もしたかな。本当はカエルのページには、ほおがふくらむタイプと、あごの下がふくらむタイプ、2匹のカエルが描かれていたんです。でも、あごの下は、子どもが顔真似できないから却下になりました。本当は、そっちのカエルも好きだったんですけどね。

 私は動物が大好きで、物心ついたときには、動物の絵ばっかり描いてました。動物画家の薮内正幸さんが大好きで、よく模写をしてました。家でも、猫やうさぎや鳥やカメを飼っていましたし、毎日学校帰りに近所の犬や猫のいる場所をまわって帰っていました。よその飼い犬と、いかに仲良くなれるかを日々研究していましたね。いまは、保護した猫を4匹飼っています。

 4月に『ねこのずかん』(白泉社)という本を出したときは、うちの猫たちにもモデルになってもらいました。息子たちも猫が好きだから、猫の絵へのダメ出しがすごいんですよ。うちの猫を描いたら、「これはトムの顔じゃない」とか、「鼻チョンするとき、猫は目をつぶらないよ」とか、うすうす自分でも気になっているところを、ズバッと言われますね。確かにその通りだな……と思って、泣きながら直すんです(笑)。でも描いているときは、とても楽しい時間でした。

 これからも、「ずかん」シリーズは描いていきたいです。昔描いていた絵をいま見ると、物足りなくなってきて、もっと描きたい、もっと表現したいという想いが強くなっています。画材の色鉛筆も、先日500色のセットを買ったんです。今までは150色のものを使っていて、色をかけ合わせればそれで十分表現できると思っていたのですが、でも500色でそれができたらすごいよなぁと思って。自分の限界を自分で決めずに、表現の幅を拡げていきたいと思っています。