2年前にはフィンランド人の旅人を次々とホストしたのですが、このところはずっとカウチサーフィンから遠ざかっていました。
リクエストは届きます。でも、あまり魅力的だと思えないゲストをわざわざ泊める気にはなりません。特別なおもてなしをするわけではないけれど、ゲスト用の布団を出してカバーをかけるなど、一応の用意が必要です。無料宿泊所を求めてコピペのリクエストを送ってくるような人にそこまでの手間をかけることはありません。
スイス人のナタリーからのリクエストは、きちんと書かれていて、彼女のプロフィールも興味深いものでした。
職業は小学校の先生。国際都市ジュネーブは移民も多く、教師は長期休暇を取って積極的に異文化に触れることが奨励されているそうです。ナタリーは長年ヨーガに親しんできたベジタリアンですから、8ヶ月かけてアジアを回ることにしました。
単に旅行するだけでは飽きてしまうので、フランス語を教えようと思い立ち、ミャンマーのフレンチ・インスティチュートに応募。ヤンゴンでフランス語教師として3ヶ月間勤めました。このあたりの思考回路は私とそっくりです。
ミャンマーの後、タイ、マレーシア、インドネシアを旅して日本へ。私の家で長い旅の最後の2泊を過ごすこととなりました。
去年の秋から友永淳子先生のヨーガ学院に通い始め、今年の1月から外国人に日本語を教えるための勉強を始めた私にとって、ナタリーはずっと先を行く存在です。
最初の待ち合わせ場所と時間を決めるやりとりも極めてスムーズ。
「カウチサーフィンでは、予定の変更は当たり前」と聞いたことがあるのですが、お互いの予定をすり合わせて決めた予定を変更するのはできれば避けたいものです。
帰国直後にスイスからお礼のメールが届き、カウチサーフィンのリファレンス(ホストとしての私に対する評価)もアップされました。
1年近くの長期旅行から帰国して、やりたいことがたくさんあるだろうに、きちんとして優秀な先生なんでしょう。「遊ぶのは宿題を済ませてから」と彼女がいえば説得力があります。
母語を外国人に教える仕事、ヨガだけに加えて、ナタリーとは共通の話題がたくさんありました。
私がなぜフィンランドを好きなのかという話になり、アキ・カウリスマキの名前を出したところ「たしか、雲のつくタイトルの映画を観た」とナタリー。
「夫婦が二人とも失業する話? 私をフィンランドに導いた映画」と、カウリスマキと小津安二郎の関係を話しました。フィンランド人には何回も語ってきたことですが、まさかスイス人にこの話をしようとは。
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映画の話が続き、『バベルの学校』の話題に。パリの中学校で移民の子供たちにフランス語を教えるクラスのドキュメンタリーです。ナタリーは「スイスでもこの映画のことを知っている人は少ない」といいますが、私はこの2月に新宿で観ました。
ナタリーはフランス語で村上春樹を読み、今回の旅行ではエリザベス・ギルバートの『食べて、祈って、恋をして』を愛読していたそうです。
「ジュリア・ロバーツの映画は表面的だった」
「原作の内容をすべて映像化できないからしかたないことかも」と話が弾みました。
もちろん、エリザベス・ギルバートの創造性についてのTEDトークもナタリーは見ています。
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これほど共通の話題のある人と巡り会えるのですから、カウチサーフィンはやっぱり刺激的です。
ピンクのブラウスにグレーのカーディガンの組み合わせが、ナタリーによく似合っていました。
最終日の午後、私の家まで戻ってきて最後の会話を楽しんでから夜の羽田便で発ちました。
これまでフィンランド人をホストしてきたのは、フィンランドでの人脈を広げたいという下心があったからですが、交流を楽しむためだけにカウチサーフィンを活用するのもいいものだとわかりました。
別れ際に「次はぜひジュネーブに来て」と誘われましたが、ヨーロッパに行くとしたらフィンランド。そう答えると、「だったら、あなたがフィンランドにいる時期に合わせて私も行く」とナタリー。そう言ってもらっただけで十分です。