この世から別れたときにどんな音楽が流れたら自分は嬉しいのだろう。そんなことを考えるのは今自分がこうして入院をしているからだろう。それは重篤な病ではなく、酒席でひどく酔い道路で倒れて頭を打った、そんな笑い話にならぬ、なんともお粗末な顛末だった。頭骸骨は固く、脳を守ったがそれでも外傷と内部に血腫が出来た。外傷性くも膜下出血と言う名前を医師は口にした。この血腫の行く末を見るために一週間ほど入院が必要となった。 病棟は心臓血管内科と泌尿器科の患者だった。そこに道路で転倒し頭に傷を負った人間が同居している。苦しそうな声が四人部屋に響き、痰のサクション、下半身洗浄、そんな音が聞こえる。廊下を歩くとある部屋…