家を出る時間が五分ほど遅れた。小雨が降る中、歯医者の予約時間を気にしながら足早に歩いた。 途中、用水路がある。ここには鯉がいる。この用水路は後方にもずっと続いていて、そちらの方へ行けば亀もいる。そしてごく稀に、鯉でも亀でもなく、優雅に浮かぶ彼らに遭遇することがある。 散歩道には最適な通りだが、今日は鯉を見る余裕もない。しかし、目の前の光景に思わず足を止めた。首から下げた携帯電話のカメラを慌てて起動させる。収めた写真を誰かに見せたくて、すぐさま娘にラインを送る。送る私も、受け取る娘も、”笑笑”と文字を打って心が和む。 彼らに出会うことは滅多にない。いつもどこにいるのだろうと疑問だ。二~三羽、用水…