鍼灸師時代。 勤めていた治療所に、一人の後輩が入ってきた。 彼は勘が良く、端正な顔立ちで、流暢に話をし、その上、 「気」 を操れた。 目を瞑っている患者さんの瞼の上に手をかざし、温かさや、オレンジ色を感じさせる事が出来たのだ。 翻って私は、その様な術を体得していなかった。 そもそも鍼灸の専門学校でも、気の説明はあったのかも覚えていない。 実践練習などは尚更だった。 ただ、彼のそんな治療を目の当たりにした私の自信が、失われていったのは疑いようの無い事実であった。 不思議な力が無いと、この先やっていけない。 かと言って、嘘や出鱈目を言ってまで、患者さんを増やす気にもなれなかった。 「気」 この存在…