ことり…と頭を預けている先は快適とは言えない。 ふんわりとした物に包まれている感覚はあるものの、包んだ先にあるものはゴツゴツと固い。 なのに…それを差し置いてもどこか心地良い。 抱きこまれた身体をしっかりと支える腕。 身体の下にあるものは酷く揺れて不安定な感覚を否めない状況なのに...
ノマカプのオリジナルとAPH(ヘタリア)のギルアサ、アンアサの二次創作BL小説のサイトです。
5年間ほどPixivで書き続けていた小説を移行しつつ、毎日1P分くらいの更新を続けています。 ゆえに…記事の数だけは多いです(*゜―゜)b 今現在1000記事以上っ!
ことり…と頭を預けている先は快適とは言えない。 ふんわりとした物に包まれている感覚はあるものの、包んだ先にあるものはゴツゴツと固い。 なのに…それを差し置いてもどこか心地良い。 抱きこまれた身体をしっかりと支える腕。 身体の下にあるものは酷く揺れて不安定な感覚を否めない状況なのに...
──じゃあ、行くぞ。 一応、立場としては賊からの保護というものではあるのだが、では嵐の国の人間が来たなら引き渡すかというと、それも悩むところである。
こうして錆兎は少年を拾った……というか、救出した。 15人ほどの一般兵など水獅子王の敵ではない。 あっという間に全員地面の上に転がして、残酷なシーンを見せるのも…と、そっと少年の視界を塞ぐためにかけていた自分のマントをその小さな頭から取り去ると、ガラス玉のようにまん丸く澄んだブル...
遠くから聞こえる足音。 息をひそめて気配を消して錆兎はそれが十分な距離まで近づいてくるのをジッと待つ。 普通にしていれば立っているだけでも圧倒的な存在感を持つ男と言われるが、何も気配を消せないわけじゃない。 爪を隠せない獣なんてただの愚か者だ。 能ある鷹ほど上手に爪は隠すものである。
通常なら王自ら動くなどとんでもないことだが、水や炎の国では王自身が国一番の猛者で、先陣を切って兵を鼓舞するなども珍しい事ではない。
縁もゆかりもない小国の子どもだったとしても、危険な目に遭うのがわかっていて放置は確かに寝覚めが悪い。
──錆兎、君に相談したいことがある… それはとある日の午後のことだった。 水の国の王である錆兎を訪ねて来た炎の国の王の杏寿郎は開口一番そう言った。
――俺の領地で無体を働くとは、覚悟あってのことだろうな? 全てを運命に任せる事にして身を固くしたまま不快感に耐え続け、一体どのくらいの時が過ぎたのだろうか… どんよりと全てが薄暗い中、それは強い光のような眩しさを持って目に耳に飛び込んできた。
こうして13歳の春…なんとか回避できないかと思いつつもどうすることも出来ないまま、約束通り嵐の国へと送られる事が決まり、それまで見た事も触れた事もないような上等の絹の長衣を着せられて、まるでおとぎ話に出てくるような繊細で美しいレースのヴェールをかぶせられ、初めて馬車に乗って王宮の...
それはちょうど4つの国の境界線のあたりだった。 国から付き添ってきた従者達はとっくに逃げ出してしまった馬車の中、義勇はなるべく身を低くして、息を殺してあたりの気配を探っていた。
1_プロローグ
──もちろん断ったよね?! と詰め寄ってきたのは義勇ではなく百舞子の方だ。 もちろん、百舞子がそういう意味で錆兎に気があるわけではない。 ただ推しを任せるのに選んだ相手に勝手にその役を降りられても困るだけである。 ということで、そこに当事者の恥じらいや戸惑いが無い分、非常に前のめ...
──義勇君、キャンディどう? 一方で待たされ組の3人が陣取る教室の片隅。 しょぼんと肩を落とす義勇に当然のごとく気づいた百舞子が差し出す、普段なら義勇が大好きなお菓子にも、義勇は悲し気に首を横に振ってため息を零す。
本当は突然クラスLineのため交換したLineに個人的に学校外で会いたいと連絡が来たのだが、学校外は無理と断った。 異性と二人きりと言うのは色々怖いし、何かあった時の場合に…と、指定した図書室の片隅。
こうして錆兎と義勇の…というか、それにしがみつく百舞子と引きずられる村田の4人の進路はほぼ決定した。
錆兎と義勇が通っている産屋敷学園は産屋敷大学の付属校である。 とはいっても全員が希望の学部に上がれるわけではない。 学部によって取ってくれる人数は決まっている。
──善行も悪行も天はみているのだと思うぞ 結局その日はさすがに焼肉は中止になったと言うか…不死川を逮捕した警察から事情を聞きたいと同行を求められたので、警察で事情を話したあとにそのまま解散となった。 そして後日…改めて錆兎と義勇の住むマンションで焼肉会を開いている。 鉄板の半分の...
杏寿郎はすでに義勇をガードする体制に入っているし、村田は心得たように脳筋コンビの荷物を預かっている。 しかし彼らの予測とは違って、標的はなんと宇髄だったらしい。
宇髄自身、これで実弥に関してはきっちり心の整理が出来た気がした。 それもこれも、自身がおそらく多大なストレスを感じるであろうと予想していて、それでも宇髄に対する誠意を示そうと、先に膨大な糖分を摂ることでメンタルを保ってまでも話をしてくれた錆兎のおかげである。
「でもよ、どうせなら一点だけ聞きてえ。 どうせ遠ざけるつもりなら、なんで口止めしたんだよ。 あの時、暴露してりゃあもっとさっさといなくなっただろ?」 そう尋ねたことに対する錆兎の答えは驚くべきものだった。
それから錆兎が話したことは、横領した同僚の逮捕の裏にそんなことがあったのかという多少の驚きがあったものの、おおかたは予想していた範囲のことだった。
──話があると言うのは不死川の事だろう? と始める錆兎。
──お前さ、この店のチョイスなに? 宇髄的には非常に沈んだ気分だったので店のチョイスは錆兎に任せたのだが、連れて行かれたのはどう見ても大の男二人で入るには少々不似合いな、可愛らしい雰囲気のレストランだった。
社員旅行から3か月が経ち、厳しかった残暑がようやくなくなったかと思えば、一気に冬の寒さが襲ってきた11月のとある日のことである。
「とりあえずそういうことで、先に受け入れやすい形で説明をして脳内に残したところで、いったん全てを終わらせて、義勇と宇髄はここで無関係な善意の第三者の立場にしておく。 加害者の排除のために感情的になって、被害者の保護を怠るのは下策中の下策だ。 加害者の排除は必要だが、それよりも優先...
──人と言うのは恐怖より不安の方に耐えられないらしいぞ。 今日の相方は上機嫌だ。 いや今日は…というより、今語っていることが彼にとって楽しい事なのだろう。
──あの時の君の対応は甘いと思っていたのだが、今の状況を見ると正しかったんだな… あの社員旅行から数か月後、高校の同窓会の帰りに錆兎と杏寿郎、村田は少し飲み直している。
「イジメとかってさ…恨みの地雷を埋めまくってるようなものなんだよね…。 踏まない可能性もあるけどさ…いつどこで爆発するかわからない…。 普通に一歩踏み出しただけのつもりが大爆発で大怪我したり…最悪命を落としたりね…。 そう…その危険は自分が死ぬまで…どころか、下手をすると死んでも...
──不死川、お疲れさん。隣いい? ずっと抱えて来たものがすっかりなくなって、半ば脱力して新宿行きの列車の座席に座っていた不死川は、聞き覚えのある声に顔をあげた。 その目の前にはさらさらの髪以外は何も特徴と言える特徴のない、しかし人の好さそうな男。 「あ~、村田かぁ。お前、鱗滝や煉...
「とりあえず…あの時とは状況が違うし、俺達がまず優先すべきは義勇の平穏な日常だ。 俺は付き合うと決めたからには何を置いても義勇を優先して守るし、必要なら ”非常識な力” を使うことも厭わないが、今はその時ではない。 むしろそんなものを振りかざせる人間がバックについていると広まった...
「おかえり!錆兎っ!」 と、3人それぞれが戻ってきた錆兎を迎える。 義勇は嬉しそうに…杏寿郎はどこか難しい顔で…そして村田は心底ほっとした表情で。 「ただいま、義勇。 不安になるような事をさせて申し訳なかったな。 だがもう大丈夫だ。 不死川もきっちり色々理解して反省して、今後迷惑...
そこからは二人して幼少期から学生、そして社会人になってからの錆兎の話を聞かせてくれる。 初恋泥棒と言われた幼少期。
そんな話をしていると、意外に早く村田がやってきた。 そして部屋へ入るなり苦笑。
「君は暴力を振るってきた相手が何事もなかったように処罰もされなくても気にならないのか?」
──うるさく暴れるようなら村田を呼んでくれ …と言うのは、社交辞令でも何かの比喩でもなかったようだ。 廊下に出るなり杏寿郎はドデカイ声で ──皆、加害者に甘すぎるっ!! と叫ぶ。
「まあ落ち着いて話をしよう。 というわけで…良い茶菓子を持ってきた」 と、勝手にお茶を煎れながら錆兎は懐紙の上にコロコロと丸いキャンディのような包みを転がして、
いきなり飛んでくる拳。 準備もなく避ける余裕もない。
冷静に冷静に…そう頭の中でお題目のように唱えながら、実弥は深呼吸を繰り返す。 しかしながら、それは義勇の目には奇異に映ったようで、余計に警戒の色が強くなった。 「別に殴らねえから、そんなに警戒すんな。 今回は…ちっと伝えたかっただけだァ」
そうして待つ事十数分。 長いようでもあり短いようでもあるその時間を部屋で過ごして、実弥は部屋を出て再度宴会場の外まで足を運んだ。
今日、絶対に決めるっ!! 実弥はそう決意して、夕食を摂る宴会場へと足を踏み入れた。
──宇髄…頼みがある。一生の頼みだっ! 錆兎達の部屋を出て宇髄が不死川達の部屋まで不死川を迎えに行くと、思いつめた顔で出て来た不死川はいきなりその場で土下座してきた。
一人きりになった旅館の部屋で、実弥はグルグルとまとまらない思考に没頭している。 ほんの半日くらいまではこんなことになるとは思ってはいなかった。 義勇に避けられている自覚はあったものの、二人きりになって自分に悪意はなく、義勇の事が好きで今後殴らないと言えば、普通に付き合えるのだと疑...
とりあえず義勇にどう話すかは一度考えてみると言う不死川を部屋に残して、宇髄は錆兎と共に不死川の部屋を出た。
もう何がなんだか宇髄にもわからない。 義勇と恋人同士になったはずの錆兎が、不死川が義勇とつきあえるわずかな可能性というやつを教えてやると相変わらず淡々とした口調で言うのである。
──…ふっ…ふざんけんなァ!!何横からかっさらってんだよっ!卑怯もんがァ!!
「義勇と実際にやりとりをする前にいくつか確認事項がある。 何度も悪いな」 と、部屋に入るなり錆兎が言う。
錆兎が居れば不死川が居ても許容できる… 義勇の答えは簡単に言えばそういうことだ。 それは錆兎にしてみたら悪い答えではないはずなのだが、錆兎は困った顔を宇髄に向けた。
とりあえずまずは不死川に悪意がなかったことの説明から。 先に宇髄が話す。 不死川が義勇を追い回すのは悪意からではなく、実は仲良くなりたいと思っているからなのだ。 義勇に自分が義勇を嫌っていると誤解されていること、その誤解がなかなか解けないことにイライラしてああいう態度になってしま...
こうして3人きりになったところで、 「お茶をいれなおすな」 と、錆兎が新たにお茶と菓子の準備を始めた。
「そういうわけでな、俺も義勇の代わりは居ないと自覚したところで、それを伝えようと思ったわけなんだが、そこでおそらく他にも好意を持っているであろう人間が居ることを知っていて伝えないのはフェアじゃないと思ったんだ」 と、照れも戸惑いもなく淡々と言う錆兎。
はあぁあ??待てっ!やめてくれえっ!! あまりの展開に宇髄は今度こそ絶叫した。 確かに何もなくとも不死川の想いを叶えるのは難しいとは思うが、こんな社内でも一位二位を争う人気者がライバルになんてなったら、もう100%無理だろう。
──待っている間に伝えておくことがある。 不死川が出て行って義勇、煉獄と順に電話をして事情を話して指示を伝えて通話を終えたあと、錆兎は半分ほど減った宇髄の茶を注ぎ足しながら、そう切り出した。
こいつぁ、まずい展開になってきた…と、宇髄は冷や汗をかく。 最終的に義勇の側に判断をゆだねると言うのは仕方ないにしても、その過程で不死川にどれだけ弁明の余地を与えられるのか…それとも全く与えられないのか。
思いもかけず手厳しかった煉獄とのやりとりのあと、こちらは思いもかけず穏やかに始まった錆兎との話し合い。
…あ~、これは無理だな と、宇髄は早々に煉獄との交渉を見切った。
──わざわざ時間取ってもらって悪いな。 話し合いは当事者が占有できる部屋で…ということで、不死川と煉獄の部屋ですることになっている。 しかし二人きりにした時に下手をうたれるともう自分でもどうしようもないと、宇髄はそれまでの時間、自室に不死川を待機させ、二人で16時に不死川と煉獄の...
社員旅行…それを題材にしたドラマとかはたまに見かけるが、自分がその主人公になるなんて思ってもみなかった。 でも今回の社員旅行は義勇にとってはすごいドラマ以外の何ものでもない。
あまり色々なものに執着をする性質ではないが、その分欲しいと思ったものは絶対に手に入れたい。 その最たるものが目の前にあるのだから、手を伸ばすのは錆兎としては当たり前のことだ。 ただし…その後、色々揉めないために、先手は打っておくことにする。
──俺に他意があることは少なくとも宇髄にはバレたな と、杏寿郎からのメッセ。
「わかったっ!ここだろ、ここっ!諏訪湖畔にある蕎麦屋!」 宇髄がとりあえず街の方へ向かうべくハンドルを握っている中、ひたすらにスマホで検索していた不死川は『諏訪湖付近の美味しい蕎麦屋20選』を検索して、それらしき蕎麦屋を見つけると、宇髄にスマホの画面を突きつけた。
初日から邪魔が入りまくったが、やっと…やっとチャンスが巡ってきた! 今度こそ暴言を吐かない、暴力を振るわない、義勇と仲良くやっていきたいのだという意思表示をする!
──こらえろっ、実弥っ!! その日の朝食の時間のストレスはすごかった。 なにしろそれまではボッチだからと安心していた想い人が、思いがけず社内でも有数の人気者の男と同室になって、その友人達に囲まれて楽し気にしているのである。
錆兎と一緒に朝食の並んだ広間に入った時、義勇達を見て駆け寄ってきたのは不死川ではなく、杏寿郎ともう一人の同期だった。
──おはよう、義勇。いい朝だぞっ 社員旅行2日目の朝。 そう声をかけてくるのは朝の日の光を背にしたイケメンで、目を覚まして最初に見るものがこんなに素晴らしい光景であるということは確かに良い朝だ、と、義勇は思った。
「不死川っ、すまんっ!実は明日は錆兎の車で出かける約束をしているっ! 君を一人にしてしまうことになるっ」
義勇が錆兎に連れて行かれたのは下諏訪駅前の小さな割烹だった。 下諏訪の駅前駐車場に車を停めて徒歩1分だが、確かに地元民でなければわざわざここ!と入ろうと思わないであろう小さな店。
なんとか煉獄を巻いて錆兎と義勇の部屋に辿り着けばもぬけの殻。 電話をしてみれば錆兎の忘れ物を取りに街に戻っているということで、おそらく行き帰りで3時間ほどは戻ってこれないだろう。
行きはタクシーで登って来た道を、今は義勇は会社一の人気者のイケメンの車で下っていた。 運転する横顔は本当にカッコよくて、義勇が沈黙に気まずくなるような暇もないくらい色々な話をしてくれて、時折り義勇にも答えやすいような話題をふってくれる。
──宇髄、かくまえっ!! 部屋割りが決まってそれぞれ荷物を持って部屋に落ち着いたところで、宇髄は同室になった同僚が大浴場に行ってくるというのを見送って、今後について考えを巡らせていた。
──さあ、でかけるかっ! 部屋に落ち着いて不死川との諸々を聞いてくれた人気者のイケメン同僚は、いきなりパン!と膝を打って立ち上がった。
止まった足音に振り向いた錆兎の視界に入ってきたのは、青ざめて硬直している義勇と引き留めるようにその肩に手をかけている不死川実弥の姿である。 それに一瞬腹の底から不快感が沸き上がるのを感じて、しかしすぐ冷静になった。
正直現時点では錆兎的には義勇と不死川について杏寿郎ほどの強い気持ちはない。 今回の諸々を計画したのは、たまたま冨岡義勇と不死川実弥の人間関係を目にして、それを社員旅行と言う場で絶対に目にするであろう相方杏寿郎が暴走するのが面倒だからである。
そんなこんなでいざ部屋割り。 杏寿郎が言った通りまだ決まっていないようで、全員が揃ったところで幹事の宇髄が ──じゃ、全員揃ったとこで、部屋は勝手に二人組作って決めてくれや と言う。
時を少し遡って宿に向かう車の中… ──まずは部屋だよな…… と、ハンドルを握りながら錆兎は少し考え込むように眉を寄せていた。
「いらっしゃいませ」 バスから降りると宿の女将や中居さん達ににこやかに迎えられる。
──錆兎先輩っ!飯行きましょうっ!! 1週間後に社員旅行を控えたある夏の日、当然ながら普通に仕事をいったん終えた昼休み。 元気な新入社員の後輩がにこやかに昼食に誘ってくる。
そうして二人テーブルをはさんで正面に座ると、 「ではあらためて。 会社案内とかにも顔を載せられているから知っているかもしれないが、企画営業部の鱗滝錆兎だ。 気軽に錆兎って呼んでくれ。冨岡が嫌でなければ俺も義勇と呼ばせてもらう。 これから2泊の間よろしくなっ!」 と笑顔で言うイケメン。
義勇の荷物まで軽々と手にして移動する錆兎のあとを慌てて追おうとすると、いきなり腕をガシッと掴まれた。
義勇の荷物まで軽々と手にして移動する錆兎のあとを慌てて追おうとすると、いきなり腕をガシッと掴まれた。
産屋敷商事には今どき社員旅行なんていうものがある。 それも同期の交流を目的として、同年に入社した社員を本社から支社までいっしょに旅行するというもので、予算は社から降りるので幹事が手配する。
不死川実弥の想い人、冨岡義勇はコミュ障である。
暑い夏。日本の夏。 産屋敷商事の同期会の社員旅行は今年は何故か夏も真っ盛りの8月だった。 こんな暑い中で?真面目に?とうんざりはするものの、本社だけではなく普段は顔を合わせることの少ない各支社の同期に会うのは楽しみではあるし、なによりそこでの情報交換は仕事を進めるなかで有意義なこ...
捕獲作戦 - 開始 プロローグ
いったん車を停めてある駐車場に戻って少年を助手席に乗せ、走りだす事30分。 下町の…おそらく駅からだいぶ歩くのであろう古びたアパート。
――近日中に猫飼おうと思う。 同僚でもある友人2人にそう宣言したのは退路を断つためだ。 つい先日、従弟の炭治郎が長らく2人で住んでいた祖父のマンションを出て行った。
──お前は実家を見捨てるつもりか?! 心の中で頼りにしていた相手から優しく励まされたら善逸も立ち直るのかもしれない… そんな期待を胸に彼の籠っている部屋に案内した不死川の目の前で錆兎の口から出たのは耳がビリビリするくらいデカい声での叱責だった。
──実弥、銀狼の皇帝が来たけど… ──急いで通してくれぇっ!丁重になァっ!!
──おら、寮生の康介の実家からの差し入れ品だぞ、遠慮せず食えよ ──ううん、いいよ…食べたくない…良ければ不死川さん食べて?
「とりあえず…現状、資金も人材も心配なしで今後も桑島財閥に超恩売れるってお得じゃねえか?」
──善逸の実家を潰すのは避けたいところじゃなぁ… 次の日、学園を休んだ不死川が一足先に入手してきた映像を見終わってため息交じりに呟く桑島老。
数日後…銀狼寮のダイニングでは古今東西のご馳走が並んだ戦勝祝いのパーティーが開かれていた。
これでようやく放免か…と思えば、そうはいかないようだった。 ──でも、やったこたぁ、消えねえよなァ?! と、余計なことを言う不死川。 ほんっとに忌々しい男だ!と亜子は内心舌打ちをする。
ひどく打ちのめされた気分で退散するところだった亜子だが、話はそれでは終わらなかったようだ。
──…どうして…? 言ってることが違うじゃない…と、自分でもどうにもならないと思いつつ口を開く亜子。 ──違わないと思うが? と自寮の姫君を片手で抱きしめながら少しニヒルな笑みを浮かべるの信じられないくらいカッコいい。 これが手に入らないなんてありえない。 この際他の女がどうとか...
──確かに姫君制度がバカバカしいと思うのはわかる しばらく考えた末に錆兎の口から出てきたのはとんでもない言葉だった。 そしてそれは亜子の気持ちを浮上させ、義勇を絶望の淵へと叩き込んだ。 何か言いたげな不死川は無一郎が目で制し、全員かたずをのんで錆兎の次の言葉を待つ。
──とりあえ双方の言い分を聞こうか。 ゆったりと上座にあるソファに腰をかける銀狼寮皇帝錆兎。 金竜寮から戻ってすぐ取るものもとりあえずこちらに駆け付けたらしく、クラシカルな銀の鎖帷子にマントを羽織ったその姿は、まるでファンタジーの世界から抜け出して来たように煌びやかにして麗しい。
銀狼寮の姫君を遠回しに非難したら、何故か金狼寮の寮長がキレた。 激昂して掴まれた手首は痛かったが、我慢できないほどではない。 JSコーポレーションからの資料によると、金狼寮の寮長の不死川は貧しい家の将来を背負った奨学生ということだから、ひどい暴力を振るって退学になるようなことは絶...
──てっめえ、いい加減黙りやがれっ!! 必死に止める善逸に怪我をさせないで振り払う程度には、不死川の腕力が勝っていた。 そして振り払われた善逸が再度掴む間もなく亜子に掴みかかる。
新任教師柏木亜子は良く思われていない人物らしい。 みんな義勇に直接は言わないが、錆兎や炭治郎、その他周りの言葉や声音でなんとなくわかってしまう。
想像とは微妙に違う… 亜子は戸惑っていた。
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ことり…と頭を預けている先は快適とは言えない。 ふんわりとした物に包まれている感覚はあるものの、包んだ先にあるものはゴツゴツと固い。 なのに…それを差し置いてもどこか心地良い。 抱きこまれた身体をしっかりと支える腕。 身体の下にあるものは酷く揺れて不安定な感覚を否めない状況なのに...
──じゃあ、行くぞ。 一応、立場としては賊からの保護というものではあるのだが、では嵐の国の人間が来たなら引き渡すかというと、それも悩むところである。
こうして錆兎は少年を拾った……というか、救出した。 15人ほどの一般兵など水獅子王の敵ではない。 あっという間に全員地面の上に転がして、残酷なシーンを見せるのも…と、そっと少年の視界を塞ぐためにかけていた自分のマントをその小さな頭から取り去ると、ガラス玉のようにまん丸く澄んだブル...
遠くから聞こえる足音。 息をひそめて気配を消して錆兎はそれが十分な距離まで近づいてくるのをジッと待つ。 普通にしていれば立っているだけでも圧倒的な存在感を持つ男と言われるが、何も気配を消せないわけじゃない。 爪を隠せない獣なんてただの愚か者だ。 能ある鷹ほど上手に爪は隠すものである。
通常なら王自ら動くなどとんでもないことだが、水や炎の国では王自身が国一番の猛者で、先陣を切って兵を鼓舞するなども珍しい事ではない。
縁もゆかりもない小国の子どもだったとしても、危険な目に遭うのがわかっていて放置は確かに寝覚めが悪い。
──錆兎、君に相談したいことがある… それはとある日の午後のことだった。 水の国の王である錆兎を訪ねて来た炎の国の王の杏寿郎は開口一番そう言った。
――俺の領地で無体を働くとは、覚悟あってのことだろうな? 全てを運命に任せる事にして身を固くしたまま不快感に耐え続け、一体どのくらいの時が過ぎたのだろうか… どんよりと全てが薄暗い中、それは強い光のような眩しさを持って目に耳に飛び込んできた。
こうして13歳の春…なんとか回避できないかと思いつつもどうすることも出来ないまま、約束通り嵐の国へと送られる事が決まり、それまで見た事も触れた事もないような上等の絹の長衣を着せられて、まるでおとぎ話に出てくるような繊細で美しいレースのヴェールをかぶせられ、初めて馬車に乗って王宮の...
それはちょうど4つの国の境界線のあたりだった。 国から付き添ってきた従者達はとっくに逃げ出してしまった馬車の中、義勇はなるべく身を低くして、息を殺してあたりの気配を探っていた。
1_プロローグ
──もちろん断ったよね?! と詰め寄ってきたのは義勇ではなく百舞子の方だ。 もちろん、百舞子がそういう意味で錆兎に気があるわけではない。 ただ推しを任せるのに選んだ相手に勝手にその役を降りられても困るだけである。 ということで、そこに当事者の恥じらいや戸惑いが無い分、非常に前のめ...
──義勇君、キャンディどう? 一方で待たされ組の3人が陣取る教室の片隅。 しょぼんと肩を落とす義勇に当然のごとく気づいた百舞子が差し出す、普段なら義勇が大好きなお菓子にも、義勇は悲し気に首を横に振ってため息を零す。
本当は突然クラスLineのため交換したLineに個人的に学校外で会いたいと連絡が来たのだが、学校外は無理と断った。 異性と二人きりと言うのは色々怖いし、何かあった時の場合に…と、指定した図書室の片隅。
こうして錆兎と義勇の…というか、それにしがみつく百舞子と引きずられる村田の4人の進路はほぼ決定した。
錆兎と義勇が通っている産屋敷学園は産屋敷大学の付属校である。 とはいっても全員が希望の学部に上がれるわけではない。 学部によって取ってくれる人数は決まっている。
──善行も悪行も天はみているのだと思うぞ 結局その日はさすがに焼肉は中止になったと言うか…不死川を逮捕した警察から事情を聞きたいと同行を求められたので、警察で事情を話したあとにそのまま解散となった。 そして後日…改めて錆兎と義勇の住むマンションで焼肉会を開いている。 鉄板の半分の...
杏寿郎はすでに義勇をガードする体制に入っているし、村田は心得たように脳筋コンビの荷物を預かっている。 しかし彼らの予測とは違って、標的はなんと宇髄だったらしい。
宇髄自身、これで実弥に関してはきっちり心の整理が出来た気がした。 それもこれも、自身がおそらく多大なストレスを感じるであろうと予想していて、それでも宇髄に対する誠意を示そうと、先に膨大な糖分を摂ることでメンタルを保ってまでも話をしてくれた錆兎のおかげである。
「でもよ、どうせなら一点だけ聞きてえ。 どうせ遠ざけるつもりなら、なんで口止めしたんだよ。 あの時、暴露してりゃあもっとさっさといなくなっただろ?」 そう尋ねたことに対する錆兎の答えは驚くべきものだった。
「えっと…真菰ちゃんに殴られたら丈夫な炭治郎でも痛そうだし、俺、炭治郎を止めてくる?」 止まらなきゃ殴れば良いという真菰の持論はいつものことで…炭治郎も錆兎もそちら側なのだが、ここで新顔の宇髄までそのノリで行きそうな気配を感じて少し焦ってストップをかけるべく善逸は言う。
「そう言えば…錆兎はどうしたんです? 新人ならたぶん一番に顔合わせしておいた方が良くないです?」 真菰が一通りの人間について言及、あるいは紹介を終えると、炭治郎は不思議そうに辺りを見回した。
──さて、と、あっちは良さそうだね。じゃあ天元君の方ねっ 勢いよく走りまわって部下に指示を与えていく不死川の様子を少し確認してそう言うと、真菰は今度はそのまま床で胡坐をかいている宇髄を見下ろしてニコッと笑う。
──ま、真菰さん、良かったぁ… 思わず漏れる安堵の言葉に真菰は ──戻るの遅れてごめんね。 と苦笑交じりに謝罪する。 そして ──二人とも罰として5分そのままっ! とピシッと言い放つと、 ──とりあえず説明ね。 と蜜璃の方に向き直った。
当事者の不死川と宇髄、そしてすぐそばに居て関わらざるを得ない雰囲気の蜜璃。 それだけではなく、フリーダムのボスとジャスティスの争いと、関われば心身ともにダメージを負いそうなその構図を遠巻きに見ていた他の面々も皆、思いがけない人物が参加してきたことに目を丸くした。
──身内殺し野郎が暢気に女と歓談かァ? 後ろから降ってくる声に、蜜璃はヒィッと小さく悲鳴を上げる。 声の主は振り向かないでもわかる。 不死川実弥…本部のフリーダムのボス、本部長である。
いきなり料理の皿と共に現れた見知らぬ少年。 鬼殺隊生活もそろそろ3年になる蜜璃が見覚えがない顔となると、おそらく極東支部から来たのだろう。
蔦子とどこかへ行ってしまった真菰を見送って、蜜璃は少し気まずい思いで一人でグラスを傾けている。 いつも一緒に居てくれるしのぶはブレインの本部長が実姉な関係でブレインの部員たちと親しいこともあって、今回主催で色々忙しい部員たちを手伝っているようだ。
錆兎と義勇がそんな風に交流を深めていた初日…もちろん他のジャスティスや職員もそれぞれに過ごしていた。
ともあれ、その時はこうして二人で錆兎の部屋へ。 一応男女の部屋は東西にそれぞれ固まっているものの、所詮全員で12名しかいない なのでジャスティスの居住区はそう広くもない。 5分も歩かないうちに錆兎の部屋の前につき、錆兎はポケットから鍵を取り出した。
錆兎が帰ってしまわないうちにっ! いったんは着替えを置いてある寝室に戻った義勇は大急ぎで礼服を脱いで部屋義に着替えた。
本当に幸せな気持ちで握った自室のドアノブ。 そこでそれを回した時に当たり前にドアが開くのを普通なら警戒する。 …少なくとも義勇の極東ジャスティスの相方である天元なら即ジュエルを武器に変えるレベルで警戒するだろう。
さっき彼が行ってしまったと思った時は後悔した。 なので同じ轍は踏むまいと思う。 極東支部の人間ではないことは確かだし、そうすると彼は本部の人間の可能性が高い。 だとしたら名前と所属さえ知っていればまた会うこともできるはず。 そう思えばやることは一つだ!
彼が助けてくれたおかげで怪我をして痛い思いをせずに済んだのだから、それ以上を通りすがりの善意の第三者に求めるのは贅沢なのだろう。
痛い、痛い、痛い、痛いっ!!! 落ちる瞬間、脳内で繰り返す言葉。 ひっかかった金具は外れたものの、とんでもなくバランスを崩した状態で落下している。 落ちたら痛くないわけがない。 …というか、大怪我か…下手すれば死ぬ!! 恐怖を通り越してパニックになる義勇。 だが、数秒後、義勇は地...
……高い…… 会場に入ってすぐバルコニーにダッシュする義勇。 そして砂田の挨拶が終わらないうちに逃げ出そうと思ったのだが、会場は2階。 バルコニーから庭に出ようにも地面は遥か下にある。
最悪なことに二人が本部に移動になる際に同行して送ってくるのはブレイン極東支部長の砂田になった。
それは突然の指令だった。 両親共に極東支部のジャスティスで極東支部内で生まれ育ったため、義勇は物心ついてからずっと極東支部で暮らしていた。
やがてガチャっとドアがあき、中から私服に着替えた義勇が顔をのぞかせる。 決して露出は多くない。 ゆったりとした白いチュニックにぴったりとフィットしたパンツ。 なんだか中性的なその格好に何故か錆兎はため息をつきたくなった。
とりあえず極東支部の片割れとは接触できたしそれなりの関係も築けそうだ。 宇髄の方は明日にでも接触するか…と、錆兎はそんなことを思いながら、自室に戻ろうと歩き出したが、次の瞬間、いきなり携帯が振動する。