誰が何のために発信しているの? 子どもたちと考える災害時の情報 - 国連広報センター ブログ

国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

誰が何のために発信しているの? 子どもたちと考える災害時の情報

戸田市立美女木小学校5年生に向けたデジタル・シティズンシップの授業の1コマ
(C) UNIC Tokyo

 

デジタル・シティズンシップ」という言葉をご存知ですか?「デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、参加する能力」と欧州評議会が定義しているもので、そのために必要な能力を身にけることを目的とした「デジタル・シティズンシップ教育」が、いま広がっています。

急速な技術革新により、人々のコミュニケーションや情報へのアクセスが大きく変わり、ソーシャルメディア検索エンジン、アプリなどの「デジタル・プラットフォーム」は、いま地球上の何十億もの人々をつないでいます。ニュースや情報が瞬く間に社会に拡散されるようになる中で、オンライン上のデマや不確かな情報、ヘイトスピーチなどが大きな問題となっています。

私たちは、情報にどう向き合っていけばいいのか、何に気をつければいいのか。1月末に埼玉県戸田市立美女木小学校で行われていたデジタル・シティズンシップの授業をのぞいてみると、大人の私たちも心に留めておくべきことがいくつも語られていました。

 

情報について考える授業

去年5月から続くこの授業は、この日6回目。5年生121人が学んできました。生まれた時からインターネットに親しんでいる「デジタル・ネイティブ世代」の子どもたちは、パソコンやタブレットを駆使して学んでいきます。子どもたちは、これまでの授業で、オンライン上には様々な情報が玉石混になっていること、正しい情報を探すのは簡単ではないこと、きちんと情報を検索するとはどういうことなのか、などを学んできました。

(C) Mariko Iino / UNIC Tokyo

この日のテーマは1月1日に起きた「能登半島地震」。災害や紛争などの緊急時には、誤情報、偽情報が特に拡散されやすくなるからです。先日起こった震災については子どもたちの関心も高く、この日講師として教壇に立った、小中高生に向けてメディア情報リテラシー教育を行う「インフォハント」代表の安藤未希さんが質問を投げかけると、積極的に声が上がっていました。

(C) Mariko Iino / UNIC Tokyo

その情報どこから?

情報をどこから得たかの問いに、子どもたちからは、「テレビをつけた」「ネットニュースを見た」「石川県にいる友達に連絡した」などの回答がありました。これまでの授業でも、知りたい情報を検索する方法を学んでいた子どもたち、「”地震”、”現在”、”石川”と入れたら”震度7”と出てきた」という児童もいました。

安藤さんは、どこにアクセスするかで得られる情報が変わることを子どもたちに伝えていきます。出来事の全体的なことを早く知ることができるテレビ、科学的な情報や気象・地震データを出す気象庁など専門機関のサイト、自分が暮らす地域への影響や避難が必要かなどの地元の情報は市町村のサイトや防災無線、友人や知人の安否はその人のSNS発信をチェックするなど、情報収集の方法と目的を確認していきました。自分が必要としている情報は何で、どこから得るのが最適かを理解することも大切な一歩です。

(C) Mariko Iino / UNIC Tokyo

その情報は正しいもの?

情報が氾濫する中では、誤情報、偽情報への注意も必要です。「誤情報」が不正確な情報の意図しない拡散を指すのに対し、「偽情報」は不正確なだけでなく、欺くことを意図し、時に深刻な害を及ぼすために拡散されます。生成AIなど技術の発展によって、偽の動画や画像が巧妙に作られて拡散されるケースも少なくありません。熊本地震の際に、動物園からライオンが逃げたというSNS投稿で使われていた画像は、実際は南アフリカで撮影されたものでした。

安藤さんは、能登半島地震の発生直後に、オンライン上で発信された実際の情報から3つの例をあげました。今回、「人工地震」だという情報がX(旧Twitter)で多く流れていました。その根拠としてあげられていた動画では気象機関の専門家が話しています。これが正しいものかどうか確認できるところはないか、子どもたちにしっかりと見てもらいました。何人かの生徒が動画の日付が2016年だということに気づきました。動画は、実際に過去に専門家が話したものでしたが、今回の能登半島地震とは全く関係ありませんでした。オンライン上に掲載されているリンクや動画の内容もしっかりとチェックすることで、気づけることもあります。

(C) Mariko Iino / UNIC Tokyo

何のために発信されたのか?発信者には意図がある

次に安藤さんがあげたのは、救助を求める個人の投稿です。

「助けてください。挟まれて逃げられません。消防にも連絡つきません」

住所も書いてあり、非常に多くの人がこの投稿を拡散していました。これが本当かどうか調べるにはどうしたら良いか聞かれた子どもたち、班ごとに考えてみます。示された住所を検索してみると、実際にはない場所でした。

「住所を調べるのは大正解ですね。でも一瞬ドキッとしませんか?この人もしかしたら死んでしまうかもしれないって思ったら、拡散してあげたいと思った人もいるかもしれませんよね」

この投稿者は次の投稿で、今後のための資金を送ってほしいというメッセージを書いていました。それを知った子どもたちからざわめきが起こります。安藤さんは、情報発信する人は意図や理由があって発信していることを伝えました。

知らずに誤情報、偽情報を拡散してしまうことで、本当に助けを求める声や正しい情報が届くことの妨げになり、命の危険につながることもあります。シェアする前にいったん立ち止まり、情報の背景を考えてみることを、安藤さんは子どもたちに伝えました。

(C) Mariko Iino / UNIC Tokyo

別の見方もあるかも?

次に子どもたちが考えたのは同じことを取り上げた2つの新聞記事です。被災地で自動販売機が壊されたことを伝える内容で、どちらも実際に掲載されたものです。

1つ目は、自動販売機が壊され、飲料が盗まれてパニックになったということを、2つ目は、避難していた人に飲み物を確保するために、許可を取った上で壊して配ったということを伝えるものでした。正しかったのは、現場の責任者や警察に確認して書かれた2つ目の記事でした。

不安も高まる緊急事態では、噂やデマなども広まりやすくなることを学んだ子どもたちへのアドバイスは、ある情報を見た時は、そういう見方もあるかもしれないと「気に留める」、そして本当だろうかと「ちょっと考える」、必要な情報なら「調べる」こと。

調べる時のポイントとして、「誰が発信しているか」「いつ発信されたのか」「他の投稿はどんなものがあるか」「自分で確認できることはあるか」などを、子どもたちは教わりました。そして故意でなかったとしても、間違えてしまった場合には、誠実な対応が誤情報、偽情報のさらなる拡散を防ぎます。

「ないほうが良いけれど、間違ったことを信じて周りに言ってしまうことはあると思います。もしそうしてしまったらどうしたらいいですか。謝ることですね。実はこれはけっこう大人でも難しいんですよね。でも、間違ったことを発信してしまったら、しっかり謝って訂正しましょう」

授業を終えた子どもたち、感想をしっかりと書いていました。

「その情報が事実なのか、他のサイトでも調べて、それが事実だとわかるまで話を広めないようにしたいと思いました」

 

「簡単に言うと、”結論を急がない”ということになると思います。パニックになっているときこそ、人は騙されやすいから、冷静に情報を確認しないとと思いました」

 

「間違えた情報を発信してしまった時は、ちゃんと謝罪したほうがいいんだなと知りました。情報を見る側もいろいろと注意が必要なんじゃないかとも思いました」

大人にとっても耳の痛いこともあるのではないでしょうか。

(C) Mariko Iino / UNIC Tokyo

授業を依頼した美女木小学校教頭の勝俣武俊さんは、大人でも情報に振り回されてしまうことが少なくない中、どうやってデジタル・シティズンシップを教えていくか、教員も子どもたちと一緒に学びながら模索していると言います。

「授業を受けた5年生の子どもたちは、情報に対する感度が上がり、多角的な見方をできるようになってきていると感じています。情報を鵜呑みにせず、いろんな視点でとらえて、自分なりの考え方を持ってほしいと思っています」

講師の安藤さんのもとには、教育現場だけでなく、保護者や企業などからも問い合わせがくるそうです。安藤さんは、改めてメディア情報リテラシーで大切なポイント、そして情報化社会に対する願いをこう語ってくれました。

ニュートラルに冷静さを持って情報を見ることが大切です。感情を揺さぶられる時、情報に一喜一憂しやすくなります。決めつけずに、情報を冷静にとらえて判断できるようになると、デマやディープフェイクなどの被害も少なくすることができると思います。情報への向き合い方を学ぶことで、互いに尊重したり、いたわりあえる、より優しい社会になってほしいとも願っています」

国連も誤情報・偽情報を優先課題の一つに

SNSの浸透や生成AIの目覚ましい発展に伴い、その負の影響が人々の権利や健康を損ね、人々や国の安全をも脅かすようになりつつある中、国連は誤情報・偽情報・ヘイトスピーチ対策を優先課題の一つと位置付けています。

グテーレス国連事務総長は、デジタル空間での情報の誠実性について政策ブリーフを昨年発表しました。グテーレス国連事務総長はこの中で、「偽情報に対処するには、社会のレジリエンス(強靱性)の構築と、メディアリテラシー情報リテラシーに向けた持続的な投資が必要だ」と述べ、人権を守りながら、デジタル空間を安全かつ包摂的な場所にするための国際的な協調行動を呼びかけています。

9月にマルチラテラリズム(多国間主義)を強化するための「未来サミット」が国連で開催されるのに向けて、国連はこの政策ブリーフをベースに「デジタル空間における情報の誠実性のための行動規範」を策定し、今年6月を目途に発表することにしています。

子どもたちが授業で学んだように、私たちにできることの第一歩として、日々見聞きする情報の海の中で、一呼吸置き、少し立ち止まって考えることは、ますます必要となってきています。

(取材・構成 飯野真理子)

【誤情報・偽情報に関する参考記事はこちら】

偽情報への対処 ー 偽情報がもたらす課題とその対応について | 国連広報センター (unic.or.jp)

国連事務総長、誤情報の阻止を目指し、新時代の「ソーシャルメディアの誠実性」を呼びかけ(UN News 記事・日本語訳) | 国連広報センター (unic.or.jp)

グローバル・コミュニケーション担当事務次長による寄稿(日本語訳):「戦時下で情報の誠実性をどう守るか」 | 国連広報センター (unic.or.jp)

気候関連の誤情報・偽情報に取り組む:「緊急の行動が必要なフロンティア課題」(UN News 記事・日本語訳) | 国連広報センター (unic.or.jp)