日本の国連加盟60周年記念シリーズ「国連を自分事に」(11) - 国連広報センター ブログ

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日本の国連加盟60周年記念シリーズ「国連を自分事に」(11)

                     第11回 CERF(国連中央緊急対応基金)諮問委員会委員/
                             国際協力NGO JEN代表理事の木山啓子さん

                     ~市民社会の代表として等しく尊い全ての人のために~

 

今、人道問題は史上最悪ともいえる状況にあります。世界の難民・国内避難民の数は6530万人に達し、気候変動などによる災害も絶えません。そうしたなか、国連の機関の中でも重要視されているのがCERF(国連中央緊急対応基金)の存在です。この基金の諮問委員会に現在日本人として唯一参加しているのが、今回お話しを伺った木山啓子さんです。諮問委員としての活動や、市民社会国連の在り方、危機的状況にある人道問題などについて木山さんにお話を伺いました。

(聞き手: 国連広報センター 根本かおる所長)

 

 

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                                          木山啓子(きやま・けいこ)

                                            認定NPO法人ジェン(JEN)代表理事

1994年、JENの創設に参加。紛争中の旧ユーゴスラビア地域代表として難民・避難民支援活動に従事。緊急支援が依存を生むことに着目し、24に及ぶ国と地域で緊急自立支援活動を展開してきた。JENは現在、アフガニスタンパキスタンイラク、ヨルダン、スリランカと東北、熊本で活動している。2005年日経ウーマン誌のウーマンオブザイヤー大賞。2016年9月より国連中央緊急対応基金(CERF)諮問委員。

 

 

                                                         www.youtube.com ©OCHA 神戸事務所

 

CERFの特色・仕組み

 

根本:木山さんは、国連機関の諮問委員などにメンバーとして任命、参加されるのは今回が初めてですか?

 

木山:はい、初めてです。私の他に7名の新たなメンバーが加わり、新メンバーでの諮問委員会が昨年10月末に行われたのですが、非常に興味深かったです。
CERFはまだ知名度が低いという現実がありますが、
CERFの忘れ去られた危機へのアプローチは、1番感銘し、共感しているので、もっとCERFを知ってもらう努力をしていこうと思います。

CERFの諮問委員のメンバーの中には、CERF立ち上げから携わっている人々もいて、財政支援を提供する国の色づけをしないからこそCERFは、高潔な基金で、尊いのだとおっしゃっていました。ただ、資金を出す側からの、何に使われたのかが判るほうがアピールにもつながるという意見も理解出来ます。

諮問委員の役割の一つとして、まずCERFを広報していかなければなりません。私自身もCERF自体の存在は知っていましたが、具体的な内容は諮問委員になるまで知りませんでした。メリットデメリットも含めてもっと多くの人々、団体に知ってもらう活動をしようと考えています。

昨年末にOCHA神戸事務所の方ともお話しすることが出来て、CERF諮問委員会の報告会などをやってみてはという話が出ています。CERFの存在自体、まだ国際協力NGOの中ですらあまり浸透していません。少しずつでもCERFの存在、仕組みを知ってもらうことが大事だと思っています。

 

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                                   インタビュー中の木山さん ©UNIC Tokyo

 

CERF基金10億米ドル目標達成までのロードマップ

 

根本:CERFは新たに1ヵ年において2018年までに基金を10億米ドルに増やすという目標を掲げましたね。この目標を達成するには、あと2年の間に基金を倍以上にすることが必要という現状ですが、CERF内、CERF諮問委員会の中でその目標を達成するための道筋などについてはどのように議論されていますか?

 

木山:実は昨年10月の諮問委員会もそれがメインテーマでした。普段、諮問委員会は年に2回秋がニューヨークで、春がジュネーヴで行われていたのだそうですが、今回はわざわざ順番を変えて春にニューヨークで行い、それによって潘基文(パン・ギムン)事務総長(当時)にも委員会に参加して頂くことが出来ました。その結果、この新たな10億米ドル目標を掲げ、この目標の認識を更に深めることが出来たと聞いています。10月末の諮問委員会では、目標達成のために事務局に提出された多くの案のうちの一つの新機軸のアイディアにフォーカスして話し合いました。

 

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      1994年 ネパールでブータン難民支援活動中に子どもたちと(木山さん提供)

 

根本:CERF諮問委員会では色々な国の人々と議論されると思うのですが、お国柄の違い、あるいは発想の違いを感じることはありますか?

 

木山:7割くらいの方が外交官なので、話し方や進行の仕方などは勉強になりました。CERFが方向転換したときから密接に関わっているという委員の方が新機軸の資金調達増強策の案に対して強く反対されたときに、冷静に議論の流れを建設的なほうに持っていくことが出来る方が何人もいらして、とても勉強になりました。

 

NGOという立場からの国連

 

根本:そもそも何がきっかけで人道援助の世界に身を投じることになったんですか?

 

木山:友人からのアドバイスがきっかけです。アメリカで修士号を取得後、日本に帰国して一般企業で受付の仕事をしていたときに、その友人から、「世界中で大学レベルまでの教育を受けられる人は5パーセントにも満たない。修士の勉強までしているのに、もっと直接的に世界のために貢献できる仕事をすることを考えて」という助言を受けました。自己イメージが低かったので、国際貢献なんて出来るか不安でしたが、それがきかっけとなり、今に至ります。

 

根本:木山さんはJENのトップというだけでなく、日本においてはジャパン・プラットフォームの共同議長もなさって、今回全ての経験をベースに日本出身として一人だけのCERF諮問委員会委員になられましたね。ご自分の所属する組織や業界を越えて、国やコミュニティー全体のために代弁する立場に立ったからこその手ごたえ、やりがいはありますか?

 

木山:“どういう世界をつくっていけば良いのか”と全体像から考えて問題に取り組んでいく姿勢が大切だということは以前から考えていたのですが、その大切さをより強く意識するようになりました。この姿勢は例えば、なぜシリアの問題が起こっているのかを考えるときに、5年後10年後に難民の方々がどうなっていくことが大事なのか、この人たちの幸せのためには他の方面がどうなっていけば良いのか、つまり、対症療法をするときにでも、根本解決を念頭に、という考え方をすることです。CERF諮問委員会委員のメンバーに加えていただいたことで、更に世界全体がどうなったらよいのかという視点を強く持つようになりました。

 

根本:木山さんは一貫してNGOからの立場で人道問題に関わっていらっしゃいますが、木山さんから見て国連はどんな存在ですか?

 

木山:1994年のネパールでの支援活動のときからUNHCRと付き合いがあり、他にもUNICEF、WFPやUNDPなど色々な国連グループの方々と仕事をしてきました。現場で働いていたときの第一印象は、大きすぎて掴みどころがないということでした。でも、CERFの諮問委員会委員にしていただいたことで、今までは、頭でしか理解していなかったことですが、国連も、ひとつひとつの機関が問題解決や目標達成のために動こうとしている組織のかたまりだという実感をし始めました。

委員として活動するようになったからこそ、CERFならではの悩みがあることにも気づきました。CERFは基金を各国連機関に提供して、各機関がCERFからの基金などをもとに支援活動をしています。そのシステムの中で、CERFのアイデンティティとは何なのか、どんな仕事をしているのかを説明するときにどうしても難しさが生じることがあります。例えば、もし仮にCERFがこの国の難民を助けていますと報告したとしても、その支援を現場で実際に行っているのは他の国連機関だと言われてしまいます。それは緊急援助を行っている日本のNGOの中間支援組織であるジャパン・プラットフォームと似ているなとも感じました。

そうやって身近なものとして捉えてみると、国連でもNGOでも、ひとつの組織として動いていくために大事なことは一致しているし、国連もトップのリーダーシップのもとに動いている、大きいけれど1組織には変わりないんだなということを改めて認識しました。

このような難点に立ち向かっていくためには、CERFで掲げている目標や計画、そしてそのプログラムを明確にして、その方針から外れる機関に対しては、基金を配分できないという姿勢をとることでCERFの使命・方針を全面に出していく必要があると思います。

 

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     2014年11月 ヨルダンのホストコミュニティーにてシリア難民の子どもたちが
     JENの活動のひとつである衛生キットを実際に使っている様子(木山さん提供)
    

 

史上最悪とも言われる人道危機に立ち向かうには

 

根本:昨年は世界人道サミットもあり、初めて人道のコミュニティー、開発のコミュニティー、政府、市民社会、そして国連機関が一同に会しました。サミットでは、史上最悪ともいわれる人道危機について話し合われましたが、木山さんはどのように今年この一年を乗り切っていこうと思っていらっしゃいますか?

 

木山:おっしゃるとおり状況は極めて悪いです。けれども、この状況を変えていくことが出来るのが人間だ、人間が作ったことは人間が変えられると信じて、今までも、そしてこれからも取り組んでいくつもりです。

その中でも、「連帯していくこと」が重要なんだなと感じています。連帯するということは、まったく違う意見を持った人々とも寛容につながっていくということです。対立を深めるのではなく、お互い建設的な連携姿勢で取り組むことが大事だと思います。難しいことではありますが、どれだけこれを実践していくかというのが自分自身の人間力を高めていくことにもつながると思っています。また、世界の構造的な問題にどのように対応していくかということを色々な人たちと手を取り合って一緒に考えていきたいと思っています。

 

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                    会談中の根本所長 ©UNIC Tokyo 

 

根本:今年からグテーレス新事務総長が着任しました。彼は10年余り紛争が原因でふるさとを追われた人たちに寄り添ってきた人ですから、いかに根本治療をしなければいけないかということは、いやほど知っている人です。そんな新たな事務総長のもとでのCERFの今後の展望についてお聞かせ下さい。

          

木山:CERFでもプライベートセクターを巻き込んで、資金を提供してもらうということは必要だと認知されてきています。根本治療とおっしゃられていましたが、人道問題の解決に関してもプライベートセクターを巻き込まずには根本的解決は出来ないのではないかと考えていて、この方向もCERFにおいて視野に入れていく必要があるのではと思います。

           

           

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           2015年8月 ヨルダンのザータリキャンプ内で
         女性の衛生教育をしている場所についてきた少女と(木山さん提供)

 

 

海外・国内両方の支援現場での経験を通して

 

根本:木山さんはJENやジャパン・プラットフォームでも、海外ではもちろんのこと、日本の震災被災者にも寄り添ってこられましたよね。国内と海外での人道的な危機をつなげてご覧になってきて、新たに見えてくる日本の風景はありますか?

 

木山:東日本大震災のときに痛感したことがあります。日本の教育のあり方はいかに規則を守るか、もしくは教えられたことを教えられたとおりにやれるかが大事だということが最優先になっています。つまり、言い換えれば、教えられていないから出来ませんという発想になりやすいです。依存心が強く、自分の頭で考えられる教育が成り立っていないのではないかと懸念しています。確かにルールを決めた以上守ることは大事ですが、ルールは人を守るため、地球を守るためにあるはずであって、ルールを守るためにルールがあるわけではないということを忘れがちになっている気がします。考える力を自由に伸ばすような教育が必要になってきています。

具体的なエピソードとして、例えば海外の支援活動ではいくら緊急事態であっても、緊急支援を提供しながらも、少なくとも数週間から数ヶ月先までを予測してそれに対して支援計画を練るというのが当然です。しかし、東日本大震災のときは、同じような発想で取り組もうとしている人々になかなか現場で出会えませんでした。ですから、その分被災された方に負担が長く続いてしまいました。先を見越して計画される支援活動が少なかったことは、未だに仮設住宅に住まざるを得ない方々がいるという状況の一因になっていると思います。

 

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       2011年3月 東日本大震災の支援現場での木山さん(木山さん提供)

 

根本:支援現場で実際に被害に遭われた人々と関わっていく上で、一番必要な力、スキルはなんでしょうか?

 

木山:かわいそうな人だと思わないことだと思っています。等しく尊い一人の人間であるということを、状況が悪いとつい忘れがちになってしまう人がいると思うのですが、支援を受ける側の方々にも、もちろん各個人として優れている部分も得意ではない分野もそれぞれあります。人間としての価値には優劣がなく、それぞれが等しく尊い存在だということを忘れないようにすることが大切だと思います。そうでないと、自立する力を発揮する機会を奪い、結果的に復興が長引きます。

 

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      1994年 ネパールのブータン難民キャンプにて子どもたちと(木山さん提供)

 

根本:そのような思いに達したのはいつ頃ですか?

 

木山:1994年にネパールでブータン難民の方と出会ったのが1番はじめのきっかけです。土間みたいなところをまるで神社のように綺麗に保っていて感動しました。その当時は背中を支えるというか、少し後ろからサポートすることが大切だと思っていました。

ただそんな考えに変化をもたらしたのが、フィリピンで少数民族への支援を行っている友人から聞いた言葉でした。友人は少数民族の人々に「あなた達が私たちの上に乗せている足をちょっとどけてくれればいい。」と言われたそうです。

この言葉は日本で私たちが人材を育成をする際にも、気をつけなければいけない点かもしれないのです。伸びる場を作れば彼らは伸びるのに、教えよう、引っ張ろうとしすぎて逆に邪魔をしているのではないかと疑問に思うときがあります。

これは難民支援においても同じことで、難民自身にもっと自由があれば、もしくは難民として逃げた先の国での制限をもう少し少なくすれば、彼ら自身で仕事を生み出して、現地の人々を雇っていけるようになる可能性もあるのではと思います。

 

根本:JENのプロジェクトもそのようなコミュニティー支援が中心となっていますか?

 

木山:そうしたいのは山々ですが、全ての事業で実施しているとは言えない状況です。例えば、今、水すらないという人々に効率的に水を提供することが命に関わるという緊急事態では、コミュニティの巻き込みは必須ですが、自立の要素までを入れ込むと時間がかかり過ぎる場合もあり、容易ではありません。それでも、自立支援をもっと強く進めていきたいとは考えています。大分状況が落ち着いてきているスリランカなどでは、それこそシームレスな自立支援の色の強いプロジェクトを行っています。

  

 

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                      JENのモットーであるENs of JEN JENの事務所にて ©UNIC Tokyo 

 

これからの世代の人々へのおもい、エール

 

根本:最後に、これからの世代へのメッセージや思いをお聞きしても良いですか?

 

木山:日本にも、様々な状況の若者がいて、貧困も存在します。どのような国や状況に生まれて育っても、本当に学びたいことを学び、送りたい人生を送れれば、困難を乗り越えた人々が世界中の困難な状況にいる人々をサポートする側にまわってくれると思います。それこそ、私たちの足を、そんな次の世代の人々からどけるようにしながら、彼らが枠にとらわれずに自分の可能性を信じて活躍できるようなサポートをしていきたいです。

 

    f:id:UNIC_Tokyo:20170118172313j:plain      インタビュー後に記念撮影 (左:木山さん 右:根本所長) ©UNIC Tokyo