「100やらなくてもいい、10でも、1でもいい。それでも0よりずっといいから」と、知花くらら国連WFP日本大使が、現地視察での経験や感じたこと、さらに「私たちにできること」について、1月22日、明治大学にて開催されたセミナーで語りました。これは、2015年3月から実施してきた計6回の国連創設70周年記念「いま、日本から国連を考える」 セミナー・シリーズの最終回(明治・立教・国際の3大学による大学間連携共同教育推進事業「国際協力人材育成プログラム」として実施)。同セミナーに参加した、国連広報センターのインターン、村山南がその模様をお伝えします。
2007 年より WFP オフィシャルサポーターを務め、2013 年 12 月に国連WFP 日本大使に就任した知花くららさんは、沖縄県那覇市出身、上智大学文学部教育学科卒業。2006 ミス・ユニバース世界大会で第2位に輝き、現在はテレビやラジオ、雑誌、CM に多数出演し、国内外に活躍の場を広げています。これまでにザンビア(2008 年)、フィリピン(2009年)、スリランカ(2010 年)、東日本大震災の被災地(2011 年)、タンザニア(2012 年)、エチオピア(2013 年)、ヨルダン(2014 年)、キルギス(2015年)を訪問し、国連 WFP の支援活動を視察しました。マスコミやイベントなどを通じ、現地の声や国連 WFP の活動を伝える活動を積極的に行っています。
現場の視察から ― たくましく生きる人々との出会い
知花さんが国連WFPの活動に関わるようになって、今年で10年目。初めての現場視察であるザンビアについて振り返りました。困難な状況の中で懸命に生きるザンビアの人々ですが、知花さんが日本へ帰国する際に「あなたにあげる物は何も持っていないけれども、あなたの帰路をお祈りするわ」と声をかけられたことが印象的だったと語りました。ザンビアは洪水や干ばつが交互に起こるなど自然災害に多く見舞われ、人々は住む場所やその日食べる物に苦労を強いられています。そのため、国連WFPでは食糧支援として、子どもたちに学校給食を提供しています。このような厳しい状況で暮らすザンビアの人々のたくましさに、本当の豊かさとは何かを考えさせられました。
(写真:WFP/Rein Skullerud)
昨年には中央アジアのキルギスを訪問し、「アフリカなどの現場とは異なる形の支援活動」という印象を受けたそうです。不安定な政治体制や、地震・洪水などの自然災害が重なり食料不足が深刻化しているキルギス。学校給食の質を向上させることが、国連WFPの目標です。その日食べることに事欠くような貧しさのアフリカの支援とは違う支援がキルギスで行われていました。さらにキルギスの貧しい立場の女性に対して、農業や裁縫などの研修を実施し、女性が手に職をつけるまでの間、国連WFPが食糧支援を実施しています。「仲間と集まっておしゃべりをしながら、自分の手を動かして仕事をする。自分達の足で進んでいるという実感ができて、それがすごく嬉しい」というキルギスの女性たちの言葉が印象的だったと知花さんは語りました。お金の大切さだけでなく、働くことを通して感じる「生きる喜び」がひしひしと伝わってくるエピソードでした。
(写真:WFP/Maxim Shubovich)
「シリア危機」は今世界で最も注目を集めている人道危機の1つです。メディアからの情報では、自分と異なった環境の中で生きている人々の生活を想像するのは容易ではないでしょう。この危機を自分の目で確かめるべく知花さんは2014年、ヨルダンのシリア難民キャンプを訪問しました。「この危機の深刻さを実感した」と国連WFP日本大使はスライドを見せながら彼女が受けた衝撃を語りました。難民家族との交流では「話して下さっているときの表情は明るくて、子どもたちも人懐っこくって。でも笑顔の向こう側で彼女達が通ってきた道のりを考えると、すごく胸が苦しくなって」と、難民でありながらも笑顔で過ごしているシリアの人々のたくましさに心を打たれたといいます。
「100やらなくてもいい、10でも、1でもいい。それでも0よりずっといいから」
知花さんは解決がまだ見えないシリア危機に、少しでもいいから日本にいる私たちも行動してみることが大切だと訴えました。
国連WFPは食糧を現物支給するだけではなく、食糧を購入するための電子マネーを送金できるデビットカードのようなカードを配っています。このカードを、難民キャンプ内にあるスーパーマーケットに持って行くと、食糧を買うことができます。このような新しいスタイルの難民支援があることに驚きました。
(写真提供:国連WFP)
「世界の現実を伝えるということは知花さんにとってどんな意味がありますか」と、司会を務めた根本かおる国連広報センター所長からの投げかけに、知花さんは「私にできるちっちゃな一歩。常に現地に行って100パーセント自分の時間を捧げることができない分、私が今いる立場を活用して、実際に見て、感じて、聞いたものを皆さんに伝えることが私にできること」と、現地視察に対する熱い気持ちを語りました。
トークセッション 「未来の種まき~食べることは、生きること~」
私たちにできること
学生とのダイアローグセッションでは知花さんの率直な支援への考え方、取り組み方が披露されました。学生代表として参加したのは、明治大学新井田ひなのさん、國分寿樹さん、萩原遥さん、立教大学山田一竹さんの4名です。
まず、新井田さんは、日常生活の支援において「私たちにできること」を質問しました。この質問は会場からも多く寄せられ、「遠くにいるからできることもあると思うんです。例えば『シェア・ザ・ミール(ShareTheMeal・国連WFPが開発した、1タップで1人1日分の食事と栄養を届けることが出来るアプリ)』などや、ネットの情報を活用することも1つのやり方です」と知花さんはオンラインツールを紹介しました。次に、どのようなことを心がけて難民の方々に接していますかという山田さんの質問に対しては、「できるだけ現地の方々の声を聞くようにしています。具体的に何が起きていて、何が必要なのかを聞くことで、私に何ができるのかを想像することができます」と、支援をする上で知花さんが大切にしていることを共有しました。続いて、國分さんからの質問「東日本大震災の印象」について、知花さんはこの未曾有の大難を一言で言い表せないとしながらも、「日本の復興の意志の強さと速さに驚きました。みんなが心を共有できる国だと誇らしく思いました」と述べました。最後に萩原さんからの質問「途上国のリポーターをするようになったきっかけ」について尋ねられ、「国連WFPの学校給食プログラムに一目惚れしました。今子どもたちが何を感じているのかは現地に行ってみないと分からないと思う」と、現地訪問の重要性について語りました。これには会場から多くの共感を得ました。
この4名の学生は、実際に留学やボランティア活動など、さまざまな実践を積極的に行っています。彼らの活動に対し知花さんは、「自分の経験から得た気付きは宝物。それを多くの人にシェアしてほしいです」と、これからを担う彼らにエールを送りました。
知花くらら国連WFP日本大使と学生代表とのダイアローグセッション
左から、根本かおる国連広報センター所長、知花くらら国連WFP日本大使、明治大学新井田ひなのさん、立教大学山田一竹さん、明治大学國分寿樹さん、明治大学萩原遥さん
本ブログ記事を担当して
今回のセッションで特に印象的だったのが「私が今いる立場を活用して」という知花さんの言葉です。著名人である知花さんだからこそ、たくさんのひとを巻き込み、新たな支援者を生むことができるのだと思います。実際にそこにいた私も影響を受けた1人です。「100やらなくてもいい、10でも、1でもいい。それでも0よりずっといいから」という言葉に共感しました。少しでもいいから自分の興味のある課題について「調べてみる」ことからはじめて、考えてみる、そして行動してみようと改めて思いました。私にもできることは意外とあるのかもしれないと、身が引き締まる思いでした。