© 2023 KGB Films JG Ltd
「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」
9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー
”ファッション界の革命児”と呼ばれ次々とブランドを成功に導くなか事件は起きた。栄光と転落、贖罪、そしてメゾン・マルジェラでの電撃復帰まで、ガリアーノ本人が、今、すべてを語るドキュメンタリー。
監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド (『モーリタニアン 黒塗りの記録』)
出演:ジョン・ガリアーノ ケイト・モス シドニー・トレダノ ナオミ・キャンベル ペネロペ・クルス シャーリーズ・セロン アナ・ウィンター エドワード・エニンフル ベルナール・アルノー
【2023年/イギリス/英語・仏語/116分/カラー/ビスタ/原題:High & Low -John Galliano】
字幕翻訳:チオキ真理/© 2023 KGB Films JG Ltd 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
ジョン・ガリアーノ
劇場情報
「ファッション通信」という長寿番組がある。今はBSジャパンに移ってしまったけれど、以前はテレビ東京系列の地上波で放送されていた。自分が高校生の頃、学校が芸術系だったこともあり、何か勉強になるかもという探究心と好奇心、もちろんファッションにも興味のあるお年頃だったので、毎週欠かさず見ていた。
この番組からは様々なデザイナーを知った。
カール・ラガーフェルド、ポール・スミス、ジャン=ポール・ゴルチェ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、ジャンニ・ヴェルサーチ、マーク・ジェイコブズ、トム・フォード、川久保玲、イッセイ・ミヤケ、山本耀司、ティエリー・ミュグレー、高田賢三、ドルチェ&ガッバーナ、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク、アレキサンダー・マックイーンなどなど。
当時はマドンナが好きだったので、彼女の衣装を手がけたジャン=ポール・ゴルチェの存在が自分の中では大きかった。お金を溜めて肩にバラの透かしの入ったブラックスーツを買ってクラブに参じたのは遥か遠い思い出。そしてあのサイズのスーツは、今では絶対に着られないと思うと切ない思い出。
そんなファッションアオハルな中、ジョン・ガリアーノの存在もこのテレビで知り、名前のインパクトもさることながら、デザインされた服のかっこよさに痺れまくった。番組内でコメントをしていたボブヘアで、バカデカいサングラスという出立ちが印象的だったファッション評論家の大内順子も、彼の才能と作品をベタ褒めしていたけれど、自分も同意しまくりだった。そして番組内で紹介されたショウの映像を見て、フィナーレに彼が登場すると即、“あ、この人、確実にゲイだ!”と感じた。
ゴルチェやフォード、ミュグレー、ラガーフェルド、マックイーンなどを見た時もそうだったけど、やはりゲイはゲイを知るというのだろう、共通の何かを感じた。で、その後、彼はいつの間にかムキムキマッチョとなり、ショウのフィナーレでは毎度奇抜なスタイリングで、肉体も見せえので、ナルシズム満開に登場し、フーッとなっていた。そのやり過ぎ感はバッドテイストそのものだったけど、確かに魅力的でもあった・・・。
そんな我が世の春を謳歌していた彼だったけど、ズコーンと地に落ちてしまったのが2011年。ネットニュースで彼が逮捕されたことを知ったけれどその原因が、カフェで隣のテーブルの客に対してガリアーノが反ユダヤ主義的な暴言を吐く動画が拡散され、その後有罪となり、これまで関わっていたブランドから当然の如く解雇されてしまった。
今作は、文字通り“すべて”を失くした彼が事件後13年を経て“すべて”を洗いざらい話すドキュメンタリー。
当時録画されていた映像がまず流れるのだけど、泥酔していたとはいえ、本当にひどいことを言っていた。最低・・・。そういえば落語家の故・立川談志は“酒が人間をダメにするんじゃない、人間は元々ダメだということを教えてくれるものだ”と言っていたけれど、まさにその通り。生酔い本性違わずである。この発言で彼のこの世の春は完全に終わった。このドキュメンタリーでは、そんな終わった現在の彼のインタビューを元に、生い立ちからから人生を振り返っている。
ファッションの学校に入ってゲイを自認してからの、彼のアオハル。反面、家族との向き合い方、アベル・ガンス監督の無声映画「ナポレオン」を見て影響を受け、伝説ともなった学校の卒業制作のショウの模様などが折り込まれ、やがて各方面から注目され、天才と揶揄され、当然のごとく自分のブランドを立ち上げ、発表するコレクションは毎回ファッション界で話題を呼ぶ。が、反面、デザインが奇抜すぎて商業的にはうまくいかなというアンビバレンツな状態に。
しかし「VOGUE」の時編集長のアナ・ウィンターやエディターのアンドレ・レオン・タリーのサポートを受け、やがてジバンシィやディオールの世界的ブランドのデザイナーとして迎えられるという輝かしい栄光が描かれていく。光には必ず闇もある。ショウの過酷さ、信頼していた仲間の死などによって、ガリアーノは酒に頼らざるを得なくなる。アルコール依存症が加速し、ついに冒頭のひどすぎる暴言へと繋がっていく・・・。
が、やはり前記した“酒が人間をダメにするんじゃない、人間は元々ダメだということを教えてくれるものだ”ってのが見ていて頭に浮かんでしまう。もちろん、発言後は様々なプログラムを受けているけれど、どこか今も根本的にヘイトな感情を持っているのではないだろうかという疑念を個人的には感じる。
現在はデザイナーとしての再起を図っているものの、まだ彼の闇は、きっとあるのだなぁと感じる。それでも彼の才能は本当に素晴らしい。悔い改めるために努力の日々を続ける姿に一縷の光も垣間見れるけれど・・・。
仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。