ⓒ LA SEPT ARTE – TANAIS COM – SM FILMS – 1998
「美しき仕事 4Kレストア版」
5月31日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下他全国順次ロードショー
仏・マルセイユの自宅で回想録を執筆しているガルー。かつて外国人部隊所属の上級曹長だった彼は、アフリカのジブチに駐留していた。暑く乾いた土地で過ごすなか、いつしかガルーは上官であるフォレスティエに憧れともつかぬ思いを抱いていく。そこへ新兵のサンタンが部隊へやってくる。
サンタンはその社交的な性格でたちまち人気者となり、ガルーは彼に対して嫉妬と羨望の入り混じった感情を募らせ、やがて彼を破滅させたいと願うように。ある時、部隊内のトラブルの原因を作ったサンタンに、遠方から一人で歩いて帰隊するように命じたガルーだったが、サンタンが途中で行方不明となる。ガルーはその責任を負わされ、本国へ送還されたうえで軍法会議にかけられてしまう…。
監督: クレール・ドゥニ
脚本:クレール・ドゥニ、ジャン=ポール・ファラゴー 撮影:アニエス・ゴダール 振付:ベルナルド・モンテ
出演:ドニ・ラヴァン、グレゴワール・コラン、ミシェル・シュポール、ニコラ・デュヴォシェル
1999 年/フランス/カラー/93 分/ヨーロピアンビスタ/
提供:JAIHO 配給: グッチーズ・フリースクール
美しき仕事 4Kレストア版
劇場情報
「その作品から読み取ること、気づくことが大切」と映画評論家の淀川長治さんが事あるごとに発言したり、書いていた。
特に、パトリシア・ハイスミス原作を映画化したアラン・ドロン主演映画「太陽がいっぱい」を、実は同性愛を描いている作品だと指摘したものの、当時、誰もそこに対して気付かず、指摘する者もおらず、評論家たちもスルーしていたそう。淀川さんは後年「太陽がいっぱい」について語ったりする時は、必ずこの映画には同性愛的な部分があると何度も指摘していたおり、時代を経て徐々にそういう“気づき”が今作にあることが認められており、「太陽がいっぱい」のリメイク「リプリー」が公開された時は、その部分が逆にフューチャーされたほどだった。
とはいえ、結局、ピンとこない人はピンとこないのだなと思ったと同時に、映画を見る時、もちろんそのほかもそうだけど、読み取ること、気付くことは大切だと思いながら映画などに触れてきた。
それだけに目は口ほどに物を言うではないけれど、映画の中のキャラクターの視線を送るタイミング、方向、潤みなどに注意すると、監督の描こうとせんとするのがわかる、さらには行動の一つをとっても暗喩されていることが多々あるので、それを“感覚”と“勘”で見極めると、映画に隠された様々なことが読み取れる。
今回紹介する「美しき仕事」も“感覚”と“勘”で見て欲しい作品。1998年「冷たい血」や「ポンヌフの恋人」でも知られるドニ・ラヴァン主演の作品。今年「横浜フランス映画祭2024」で公開された作品で長らく日本公開が望まれていた作品。監督は「ネネットとボニ」「パリ、18区、夜。」のクレール・ドゥニ。
アフリカの乾いた、そして暑さが映像からヒリヒリと感じる。そこで描かれるのは男の肉体。汗をもすぐ乾く大地でひたすら自分の肉体を酷使している彼ら。そんな姿をカメラは切り取る。間にはそこで暮らす人々の暮らしも挿入され対比の違いが面白い。さらにそこに加わるのがガルーの視線であり、行動である。ある意味閉鎖された男しかいない世界。そこで生まれるガルーの愛憎は、乾いた土地とは裏腹に湿り気を帯びている。前記した“感覚”と“勘”を働かせば、きっとガルーの抱く感情が手に取るようにわかるはず。
北野武監督映画にも通ずる(特に「3-4X10月」!)、ホモソーシャルな関係性が今作にも見て取れる。
ドニ・ラヴァンの存在感は無敵で、フォレスティエ、サンタンに対する複雑な心情の表現は素晴らしい。ラストに流れるCoronaの「Rhythm of The Night」の場面にさらに彼の外国人部隊への思いが汲み取れる。見る人を選ぶ作品かもだが、後を引く映画であることは確かだ。
仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。