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『シアター・キャンプ』
10月6日(金)シネ・リーブル梅田他全国ロードショー
人気演劇スクールで、開校目前に校長が昏睡状態に。演劇に関心ゼロな息子が継ぐが、実は経営破綻寸前。存続のため、新作ミュージカル発表に残された時間は3週間。変人揃いの教師と子どもたちは完成できるのか?エンタメ界を牽引する新世代の才能が、奇跡の傑作ミュージカルの誕生をドキュメンタリータッチで描く、最高にハッピーな感動作!
監督:ニック・リーバーマン&モリー・ゴードン
出演:モリー・ゴードン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)
ベン・プラット(『ディア・エヴァン・ハンセン』『ピッチ・パーフェクト』)
ノア・ガルヴィン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
シアター・キャンプ公式サイト
劇場情報
ミュージカルが好きになったきっかけは、「ザッツ・エンターテインメント」という、かつてMGMスタジオで作られたミュージカルの名場面の数々を、往年のミュージカル俳優たちが振り返るという映画をテレビで見たこと。
豪華絢爛なセットの中で歌い踊る場面を次々と見せてくれ、その映像の美しさ、アイディアの面白さ、音楽の素晴らしさ、踊りのテクニックに当時小学生だった僕は魅了されまくった。
やがて、レンタルビデオが普及し、ミュージカル映画を借りては返却期間までに繰り返し見た。ただ、有名な作品であっても微妙な作品も多く(まだ子どもだったから理解できないものもあったと思うけれど)、「ザッツ・エンターテインメント」のように名場面だけで味わうだけの方が良かったと思うのもあった。
そして初めて本格的なミュージカルを見たのが劇団四季の「キャッツ」だった。会場に入っただけで作品の世界に没入させてくれる仕掛けが施され、開演すると猫たちが会場のあちこちから飛び出し、踊り歌う・・・。以降、さらにミュージカルが好きになった。そしていつかブロードウェイでミュージカルを見たい。と思いながら幾星霜。実現したのは24歳の時。
約3ヶ月の滞在中に最初に見たのがやはり「キャッツ」。劇団四季のものとはどう違うのだろうと見比べてみたかったのもあるけれど、他にも「オペラ座の怪人」「ウィル・ロジャース・フォーリーズ」「美女と野獣」「クレイジー・フォー・ユー」などを見まくった。
それ以降、30代前半まで、ほぼ毎年ニューヨークに行ってはミュージカルやストレートプレイを見て、刺激を受けてきた。そんなミュージカル好きにとって、今回紹介する10月6日(金)から公開される「シアター・キャンプ」は愛すべき作品になった。
舞台はニューヨーク州北部にある緑豊かな湖畔に佇む「アディ・ロンド・アクト」というシアタースクール。
今夏もシアターキャンプ(夏休みに将来ミュージカルスターを目指す子どもたちが集まって行う、合宿型ワークショップのようなもの)が開催されるはずが、校長が突然倒れ、昏睡状態に。その跡を継いだのが校長の息子・トロイ。が、彼はビジネス系Vチューバーで演劇に全く興味がなくプレイ・ビル(それぞれのミュージカルのパンフに付けられている総称)をプレイボールと読むほどの門外漢。しかもこのスクール、実は経営破綻寸前。しかもトロイのせいで、近所にある大手のスクールに買収されることになりそうな・・・。
スクールを愛する教師たち、子どもたちは、存続させるため、出資者の前で新作ミュージカルを披露しなければならない。猶予は約3週間。さて、スクールの行く末はいかに・・・って話。
この映画の面白さの一つにドキュメンタリータッチで撮影されているってことが挙げられる。ざらついた、時折不安定な映像のなか、策を練る教師たちの姿、それぞれの役作りをする子どもたちの姿がまるで覗き見している感じとなり、さらにアドリブ的なやりとりから生まれる偶然の笑いや演者たちの表情、動きがエチュードの完成形を見たかのような感覚に陥る。
そして、ミュージカルが好きな方なら「バイ・バイ・バーディー」や「レント」、と言った名作や名コレオグラファーのボブ・フォッシーなどのオマージュが散りばめられていて、いちいちニヤリとしてしまう。
さらにミュージカルに欠かせない要素と言っていい、ゲイの存在と、ゲイネスなスパイスも面白さに一役買っている。まず主人公で、ミュージカル「ディア・エバンハンセン」の舞台版、映画版で主人公を演じたベン・プラットの、闇を持つオープンリーゲイ教師を始め、クセ強のゲイ教師たちが時には辛辣に、時にはか弱く、時には大仰にとゲイの持つ喜怒哀楽の表現を体現してくれてる。そして子どもたちに対して、演者として対等に扱っており、子どもたちも然り。
作中「ここには居場所のない子たちが来る」というセリフが出てくるのだけど、子どもたちにしても教師にしても、このシアターキャンプが大切な空間であることがわかる。それだけにクライマックスで歌われる曲は胸にくるはず。
仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。