はじめに
先日、はてなブックマークで話題になっていたこちらの記事を拝見しました。
確かに「一理ある」といえばそうなんですが、僕個人はこの意見に対して率直に「NO」だと感じました。
僕は基本的に自分の専門分野であれば、結構積極的に技術記事にツッコミを入れていくタイプです。
このエントリでは、なぜ僕は「NO」だと感じたのか、そしてなぜ積極的にツッコミをいれていくのか、その理由について書いていこうと思います。
元記事の要点
僕なりに元記事を要点をピックアップすると次のようになりました。
- ITエンジニアの中には初心者の成功体験を折りに来る人がいる。
- 筆者は成功体験の「気持ちいい」状態を阻害する行為に疑問を覚える。
- 初心者にはセキュリティ周りについて教えても仕方がない。
- 初心者もいずれセキュリティ対策について知識を得るはずだ。
- 早すぎる指摘が生まれるのは「それが間違っているから」だ。
- 初心者にはまず成功体験を積ませてやるべきだ。
- 早すぎる指摘をするエンジニアはうんざりする。
- 早すぎる指摘をするエンジニアはもう少し配慮をすべきだ。
- 早すぎる指摘をするエンジニアは柔軟な思考が抜けている。
- 早すぎる指摘は萎えて去る人を増やし、業界を衰退させることを考慮すべきだ。
- Qiitaなら編集リクエストを使えばいいし、ブログならコメント欄に参考URLと簡単なコメントを書くだけで十分だ。
- 筆者は初心者時代に情報をあまり外に出してこなかった。これは非常に賢い選択だったと考えている。
- 筆者がもし早すぎる指摘を受けてきたら、外に成果物や情報を出すモチベーションは下がっていた。
人によって要点が異なる可能性もあるので、できれば元記事を一通り読んでから、この記事に戻ってくることをオススメします。
僕の考え:間違った情報はやっぱり放置してはいけない
元記事には「早すぎる指摘」の例として、次のような話が載っています。
Qiitaやはてなブログなどを見ていると、初学者が作った簡単なフォームによるリクエストとそれに対してのレスポンスを行うプログラムに対して、「こういった書き方はセキュリティ上問題があるからまず最低限このようにXSS対策をしましょう。また、現在のモダンなコードとしてはこのような記述のされかたが一般的であり……」といったコメントをしている人をたびたびみかける。
正直、このような話であれば「ハラスメント」と呼んで批判するような話ではないと思います。
もしコメントに「こんなコード書いてQiitaに載せるとか、お前バカじゃねーの!?」みたいな罵倒が含まれているならさすがに改めるべきだと思いますが、上の例では礼儀に欠けるような言動も見受けられません。
元記事の筆者は「早すぎる指摘を控えるべきだ」と書かれていますが、僕はむしろ積極的に指摘をして修正すべきだと考えている人です。
なぜなら正しくない情報を放置していると、その情報がネットに拡散してしまい、盲目的に模倣する人が出てくるからです。
インターネットにはプログラミングやIT技術に関する情報がたくさんあふれていて、多くの人が日々ネットの情報を参考にしながらコードを書いています。
ある程度経験を積んだ人であれば、ネットの情報を鵜呑みにせず吟味できるスキルを持っていますが、初心者の人は「ネットに書いてあったから」という理由だけで自分のコードにコピペする人がたくさんいます。
検索エンジンは技術記事の内容の正しさまでは判定できないので、悪い条件が揃うと間違った技術情報が検索のトップに上がってくる可能性もあります。
元記事では「間違った情報を許さないエンジニアは悪いエンジニアだ」と言わんばかりの論調になっていますが、「エンジニアが間違った情報を許さないこと」は全く問題なく、むしろ今後も引き続き推奨すべき行動指針です。
僕はむしろ、元記事が注目を集めることで、「間違った情報に指摘を入れることを躊躇するエンジニア」が増えることを危惧しています。
編集リクエストや短いコメントなら大丈夫なの?ほんとに?
なお、元記事の筆者は初心者に対して指摘するなら次のようにすれば良い、と書いています。
例えばQiitaが媒体なら編集リクエストがあるうえ、コメントならブログにもあり、ひとことふたことと参考URLあたりを書いておくだけでも十分だと思う。
この点も僕はあまりよくわからなくて、長いコメントだとモチベーションが下がり、編集リクエストや短いコメントならモチベーションを維持できる、という考えは人それぞれであって一般化できないのでは?と思います。
これって実は「主語が大きすぎる問題」なのでは?
そもそも僕の経験上、「早すぎる指摘」が入ることで初学者の成功体験が阻害され、業界を去っていった、という話は聞いたことがありません。
その指摘がひどい罵倒になっていたりしない限り、「勉強になりました」か「なんかいろいろ言われたけど、自分にはちんぷんかんぷんだった」で終わるのではないかと考えます。
元記事には、
通り一遍な正論を振りかざしても、萎えて去る人を増やすだけあり、巡り巡って人口の減少、衰退につながる
と書かれていますが、これもかなり壮大な意見だなと感じました。
うーん、そんなに「ネット上のIT業界の人たち」ってひどいかな?
中には多少殺伐とした人たちもいるけど、今の状況が衰退につながるとは考えたことがありません。
そんなふうに考えながら元記事を最後まで読むと「あ、なるほど」と思う部分がありました。
それは一番最後にある「思うこと」の部分です。
私自身は、ある程度プログラミングにこなれてくるまではできあがった成果物以外はあまりあげてこなかったし、情報も外に出さない傾向であったが、今思うと、正直非常に賢い選択だったと思っている。
はじめてPHPでWebサービスを作るまでに、前述のような発言があったら、私はきっとプログラミングすることは楽しいままだったとしても、外に何かを公開する、情報を表に出すという行為へのモチベーションは酷く低下していただろう。
結局のところ、「早すぎる指摘を受けてモチベーションが下がる」のはこの筆者さん自身のことなんだな、と思いました。
筆者さんが「自分だったらモチベーションが下がっていた」と考えているので「きっと他のエンジニアもそうだろう。だから、この風潮を許してはいけない」と考えて元記事を書いたのではないか、と僕は感じました。
元記事の内容をIT業界全体に一般化しようとせず、「僕は早すぎる指摘を受けるとモチベーションが下がるタイプなので、そういう指摘はあまり受けたくないです」と書かれていれば、僕も「ふむふむ、そうなのね」で終わっていたと思います。
いや、わからないですよ?
僕も統計を取ったりしたわけじゃないですし、実は「早すぎる指摘は業界の衰退につながるIT業界の大きな問題」なのかもしれません。
どっちが絶対に正しい、と断言することはできませんが、僕個人は「間違った意見をネット上に放置することの方が、業界の衰退につながる大問題」だと考えています。
もちろん、初心者に対する配慮や考慮はあってもよい。が。
元記事の内容は別に全部悪いというわけではありません。
そりゃできる限り初心者に配慮して「モチベーションを下げないように配慮しつつ、間違った内容は優しく指摘してあげるのがベスト」だとは僕も思います。
が、それは理想論であって、IT業界がそんな「気の利く人」ばかりになるとは思えません。
そもそも、Qiitaやブログを書いた人が初学者かどうかなんて、その記事を読んだ人からは判断が付きません。
(「これはプログラミング初心者が書いた記事です!他の人は参考にしちゃいけないし、間違った内容が含まれていてもみんなスルーしてください!」とでも書いてあるなら別ですが。)
でも、それでいいと思います。
よっぽどひどい罵倒は別として、経験者が変に萎縮して初心者の技術記事にコメントしづらくなるよりかは、今までどおり「正しい知識」をその人が思った通りに指摘してあげる方が業界に貢献できると思います。
その記事を見かけた第三者の人たちも勉強になりますしね。
2016.12.30 追記:「言い方の問題」というわけでもないっぽいよ?
ネットの反応を見ると、「要は指摘するときは言い方に気を付けようってことだよね」という意見をよく見かけます。
僕も最初はそういう話なんだろうなと思ったんですが、元記事をよく読むと「言い方が気に入らない」「優しく指摘してくれたら受け入れる」みたいな話は載っていないんですよね。
言い方の優しさ厳しさは関係なく、「初心者が楽しくやってるんだから、そんな時期から野暮なツッコミは入れるな」というのが論旨なんじゃないか、と僕は理解しています。
言い方の問題なのであれば、「人を動かす」を読むといいよー、という話を書こうと思ったんですが。
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まとめ
というわけで、このエントリでは初心者が書いた技術記事に対して、経験者はどう接するべきか、という点について考えてみました。
冒頭でも述べたとおり、僕は自分の専門分野であれば、結構積極的に技術記事にツッコミを入れていくタイプです。
それはネット上に浮遊する技術情報を少しでも良くしたいからです。
もし、あなたが元記事を目にして「ちょっと気になる技術記事を見かけたけど、ハラスメントって呼ばれるからツッコミを入れるのやめようかな・・・」と思っている人がいたら、僕は「心配しないで、どんどんコメントしてあげて」とあなたの背中を押します。
初心者への考慮も大事ですが、間違った情報を正しく直していくことの方がもっと大事です。
僕はそんなふうに考えています。
参考:Qiitaでよくツッコミを入れているアカウントはこちらです
こちらのページを見ると、僕が他の人の技術記事にツッコミを入れている様子が確認できます。
これからもどんどんツッコんでいくで~!!(笑)
その他:この件に関する僕のツイートなど
今日公開したブログです。この手の議論は配慮すべき人に限って耳を貸さず、配慮しなくていい人が不必要に萎縮しそうなので、後者をフォローするつもりで書きました。
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2016年12月29日
ITエンジニアが誤った情報にツッコミを入れるのは「正しさハラスメント」ではないhttps://t.co/VbX4BZ0gBN
てか、たぶん元記事で言いたかったことと、僕が書いた内容はきっと噛み合ってないんだろうな〜、とも思ったりする。ネット上のコミュニケーション、難しい。
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2016年12月29日
例のブログの件、僕は過去に前任者が書いた💩コードの尻拭いを何度もさせられた経験から「これはあかん」と思ったコードにはツッコミを入れずにいられない人です。なんとしてもここで被害を食い止めねば、という気持ちが勝ってしまう。何を大事にしたいかはその人の文脈に依存する部分も大きいと思う。
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2016年12月29日
もちろん相手の成功体験も大事にしてあげようと配慮はしてるつもりだけど、相手が極度に打たれ弱いと優しく指摘しても痛がられるので、僕は大丈夫と断言するのも難しい。ネット上だと特にキツく聞こえがちだし。
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2016年12月29日
正しさハラスメントの件、「正しい」「間違ってる」「ハラスメント」みたいな言葉を持ち出すからややこしくて、熟練者から初心者に対する「野暮・おせっかい・小さな親切大きなお世話コメント問題」と名付ければまだ意図が伝わったんじゃないだろうか。(それでも燃えそうだけど。。)
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2016年12月29日