株式会社JADEの辻と申します。SEOの専門家としてさまざまな企業のSEOのサポートをしてきました。その仕事の中で企業のSEOを成功させるためにはWeb担当者の他、さまざまな社内担当者と関わる必要があります。最近、特に仕事で関わることが増えたのがPRの領域です。
ここでの「PR」とはパブリックリレーションズのことで、「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能」(『体系パブリック・リレーションズ』より)を指します。もちろん、PR部門で担当者が日々実践している活動の種類は多岐にわたり、どの領域をどのような手法で、どういった優先順位で実践するかは、企業によってさまざまな戦略があるかと思います。
私はPR・広報は専門ではありません。勉強はしていますが詳しいとは申せません。ただ、専門のSEOとPRは密接な関係を持つことは自信を持って言えます。そして、この密接な関係は双方向です。効果的なPRを行う上でSEOは非常に有効ですし、逆に効果的なSEOを行う上でPRはとても有効でもあります。
PRとSEOには以前から一定の関係がありました。ただ近年進化を続ける検索エンジンに対応することを考えると、その関係性は大きく拡大をつづけているのです。
はてなブログの法人向け新プラン「はてなブログBusiness」のリリースに合わせて『週刊はてなブログ』がお届けする「連続企画:コンテンツと企業 2020」の第4弾となるこの寄稿では、企業のPR担当者向けに、最新のSEOの状況からPRにSEOを生かすために必要なこと、そしてPRの成果を検索流入という形で更に大きくするために必要なことをご説明します。
SEOの変化とPR
SEOと聞いて何を想像するでしょうか?
キーワードを埋め込む、太字にするといったマークアップの調整や、もしかすると「リンク購入」などを考える方もいらっしゃるかもしれません。実際、そのようなことは以前のSEOの主流でした。
検索エンジンはずっとWebページに記載された情報を中心にページの評価を決めてきました。ページにどのような形でキーワードが含まれるか。ページからページへのリンクがどのように張られているか。そのような情報を中心にページの価値を評価して、検索結果を作っていました。
しかし、検索エンジンは常に変化・進化を続けています。いまの検索エンジンはページ情報だけを元にその価値を評価していません。
検索エンジンはその進化の中で、膨大なデータを収集して活用できるようになりました。それらを元に非常に複雑な形でサイト・ページの評価を決めています。
検索エンジン評価の前提が「そのページが検索する人に役立つか」ということは今も昔も変わりません。ただ、いまはそれに加えていくつかの要素がとても大きな影響を及ぼすようになりました。
その一つとして挙げられるのが、ここ3年ほどで重視されるようになったWebサイトの知名度・信頼性・権威性でしょう。
- どのようにWebページが閲覧されているか
- どれだけそのWebサイトが検索されたか
- どれだけWebサイトが検索結果で選ばれているか
- どれだけWebサイトがネット上で語られるようになったか
例えばこのような複雑なデータを蓄積、機械学習などの方法で処理することで、そのサイトの評価に繋げるようになっています。
この「Webサイトの知名度・信頼性・権威性」とは、多くの場合「ネット上でのブランドの知名度・信頼性・権威性」と言い換えることもできます。
「ブランドの知名度・信頼性・権威性」の獲得。これらは「関係性の構築と維持」のためのPR活動の目標・成果の一つでしょう。PR活動の成果として生まれるものが、そのまま検索エンジンの評価に影響するようになっているのです。
もっと正確に言いますと「影響する」というより「必須」です。いま「安定した」「大きな」検索流入は、ブランドの認知が無いと取れないのです。
検索エンジン評価の変化を示す実例
実例をいくつかご紹介します。
育児業界の検索流入の変化
このグラフは、育児に関わる203のキーワードの検索順位データから、各サイトの10位以内に表示されているキーワード数を集計して、時系列で推移を並べたものです。
この藍色、緑色、青色のDEFは、ベンチャー企業によるSEOに注力した育児専門メディアです。非常に有益なコンテンツを展開している素晴らしいサイトですが、2018年から19年にかけてこのように揃って落ちていきました。
そして代わりに上がったサイトABCは、コンテンツの量などの面ではDEFには負けるものの、全て有名企業が自社サイト内で運営するメディアです。これらの企業は全て上場企業であり、多くの人が知っている有名ブランドです。
同様の動きはいくつもの業界で見られます。
保険業界の検索流入の変化
こちらは保険に関わる205キーワードを先程と同じ用に集計したものです。育児ほど顕著ではありませんが、4年前に強かったベンチャー企業のサイトは2018年に陰りだし、いまでは大手保険会社、大手代理店が上位になっています。
検索でも「信頼」を求める動きが拡張
コンテンツの良さだけでは上位表示ができないケースが増えています。良いコンテンツは前提として、ブランド、その知名度や信頼性、権威性が影響するようになっているのです。
このような動きは上記のように健康や金融など、仮に悪意ある情報が表示されたときに人に与える影響が深刻な領域において特に顕著に見られます。しかしここ1年、その領域は拡大を続けていまして、非常に多くの分野で同様の動き、大手ブランドが有利になる動きが見られています。
この動きは、インターネットの情報に信頼性が求められるようになった昨今の状況を考えると当然のことかもしれません。知らない団体・個人が発信する情報よりも、知名度があり、信頼でき、権威を持ったブランドのオウンドメディアから発信される情報のほうが選ばれがちな今の状況で、検索結果でも同様のものが露出しがちになることは当然の流れと言えます。
以前は誤った医療・健康情報やニュースが問題視されていましたが、最近ではもっと身近な情報でも同様に問題視されるようになりました。検索でも信頼を求める領域が拡張されることも当然の流れでもあります。
そして、今の検索で有利になるために必要な知名度・信頼性・権威性。それを一番効果的に高められるのはPR活動です。つまり、有効なPR活動は一般的なPRの成果だけではなく、検索流入、つまり直接の見込み顧客の増加にもつながるようになっているのです。
PR活動とSEOに相乗効果を生むための4つのポイント
さて、ここまで、PR活動の成果の一つであるブランドの知名度や信頼性が直接SEO、検索流入につながるようになったことを説明してきました。
それではこの状況を受け、企業はどうするべきでしょうか。
知名度や信頼性を持った大手企業が有利ということは確かです。ただ、大手企業以外では検索流入の拡大が難しいというわけではありません。PR活動はどのような企業にとっても重要ですし、成果を生むものと考えます。そしてそのPR活動を行う中でSEOも意識することができれば、PR活動の成果と同様に検索流入は得られます。
ここからは、PRをSEOに、SEOをPRに生かすために知っておくべき4つのポイントをご紹介します。
可能な限り、自社サイトをコミュニケーションの場所に
ネット上でのコミュニケーションはさまざまな場所で行われるようになりました。PR活動のなかでも、TwitterやFacebookなどソーシャルメディア、YouTubeやTikTokなど動画サイト、LINEなどコミュニケーションツール、メールなど、さまざまな場所でコミュニケーションを行われていることでしょう。
ただ、自社サイトとは関係のない場所だけで完結するコミュニケーションである場合、SEOを考えるとそれは最適ではありません。もし、自社サイトでのコミュニケーションを行うことができるのであれば、それは自社サイト全体の検索流入に繋がります。
先にも書きました通り、検索エンジンはブランドの信頼性などを把握してそれを検索順位に影響させています。ただそれはブランドが発信する情報に直接影響するわけではなく、ブランドとサイトを紐付けた上で評価をしています。
もしプレスリリースサイトで公開した内容がどれだけ多くの人に読まれてシェアなどをされたとしても、そのプレスリリースサイトは検索されやすくなるかもしれませんが、自社サイトへの影響はとても限定的です。
ただもし、そのプレスリリースサイトで見られつつ、更に多くの人が自社サイトを訪れ更に詳細情報を見たり共有したりする設計にできた場合、それは自社サイトの評価に繋がります。
つまり、情報を発信するときに「自社サイトにつなげることはできないか」という考えを持って設計をすることで多くの検索流入を得られるものと考えます。
例えば、テレビCMのときにはYouTubeの公式チャンネルにアップするだけではなく、自社サイト上でその収録秘話や追加動画、裏話やメッセージなどを展開しYouTube上から誘導すれば、CMに興味を持った人が自社サイトに訪問する機会は増えるでしょう。それが多くなることは、SEOだけではなく実際の成果にも大きくつながるはずです。
例えば、イベントの協賛をする際にも、許可をとった上でそのイベントと自社に関わる情報を自社サイトに展開すれば、イベントを通じてブランドに気づいた人が自社サイトに訪問して、それはSEOや成果にもつながることでしょう。
PR活動は非常に労力を必要とすることと思います。ただその労力を1割増やして自社サイトに関係するようにすれば、その効果はSEOにもつながることになります。
可能な限り、自社サイト上でのコミュニケーションの推進をおすすめいたします。
可能な限り、リンクを意識
SEOの基本として「リンクされたページは価値が上がる」ということがあります。
特にこれまで述べてきた信頼性の向上のためには、価値・権威をもったWebサイトからのリンクが重要です。例えば公共機関や大学、大手メディアからのリンクなどが価値あるものとなりがちで、そのようなサイトからのリンクを得られる機会は特に重要です。
このような価値あるサイトからのリンクは通常の企業活動の上では得づらいものですが、PR活動はもっともそれを得る機会があるものだと考えます。
メディアからの取材を受けるとき、広報担当者からのちょっとした依頼で記事にリンクを張ってくれることもあります。
また、情報を発表するときに、発表内容の補足となる詳細解説や多くの画像・動画など、媒体では直接扱われづらいものの価値ある情報などを自社サイトで公開しておくことで、紹介のためにリンクしてくれることもあります。
また価値あるサイトからのリンクを受けるときに、何も言わなければ企業情報しかないコーポレートサイトへのリンクとなってしまう場合も多くありますが、広報担当者からの一言でサービスサイトへのリンクとしてくれる場合もあります。これは、SEO観点では「企業情報が検索されやすくなる」か「サービスについての情報が検索されやすくなる」かの違いとなります。サービスの紹介を成果とした場合、非常に大きな違いとなります。
これらのリンクを求める行為は、必ずしもSEOのためだけではなく、PRの効果にもつながるでしょう。ぜひとも「リンクされる」ことに価値があると考えてPR活動をされることをおすすめします。
プレスリリースだけではなく、一般に向けた情報発信を
プレスリリースの発信は多くの企業が行っています。
最近では自社サイトやプレスリリースサイトへの掲載も多くされるようになりました。本来、プレスリリースは報道やメディアに向けたものと思いますが、実際には一般人、つまり顧客・顧客候補のほうが多く読むようになっています。
また、広報から報道やメディアに直接伝えるだけではなく、発表された情報を見た個人がソーシャルメディア等で言及し、それで話題性を知った報道・メディアの方が記事にして更に広げるという流れも非常に多くなっています。
この状況では、「報道関係者各位」として発信されるプレスリリースだけではなく、同時に個人に向けた内容も発信することがとても重要となります。
このことは、SEOの観点でも同じことが求められています。
一般向けではないと思われてしまう「報道関係者各位」に向けたプレスリリースをインターネット上に掲載しても、多くの場合検索で表示されづらいか、短期間しか上位表示されない傾向があります。
ただそれが一般ユーザにも分かりやすく、伝わりやすい内容で発信されていた場合、長期間上位表示され続けることが多くなります。
企業が発信した情報が、長期間多くの人に検索を通して届き続けることは、PRとしての成果につながるはずです。
ぜひ何らかの発表をする際は、メディア等に向けたプレスリリースだけではなく、顧客や顧客候補に直接説明する情報も合わせて発信することもご検討ください。
Search ConsoleをPRの効果測定に活用
Googleが無料で提供しているツール、Search Consoleをご存知でしょうか?
おそらくWeb担当者や広告担当者は既に使っているはずですが、PR・広報担当者にとっても非常に有益なツールです。しかし一切使ったことが無いPR担当者も多いようです。
Search Consoleの主機能として、自社サイトに検索からやって来たユーザの数や、自社サイトがどのような検索キーワードで表示されていたかを確認することが可能です。この機能で、PRによってどれだけ自社を求める検索の量が増えたかを確認できます。
実際、Search Consoleを活用して自社名の検索数の推移を、PR目的の広告やCMの効果測定として有効活用している企業も多く存在しています。
更に、自社名と一緒に検索されたキーワードの傾向を調査することでも非常に興味深い情報が分かることがあります。PR活動の結果、自社名と一緒に検索されるネガティブなキーワードの比率が明らかに減ることはよく見られます。
そして、Search Consoleで継続調査することで、PRの内容によってその結果が長期にわたって維持され続けたり、短期で元にもどったりすることも分かるようになります。このような傾向を調査することは、企業活動にとって非常に有益なことと考えます。
PR活動が長期で成果を生むことには疑いを持たない人は多いでしょうが、短期での成果を把握することは困難と聞いています。PRの成果を測るためにしっかりした調査を行うのはコストも時間も必要です。しかしSearch Consoleであれば、限定的な調査ではありますが無料かつ数分で、自社への多くの人の興味の変化を把握することが可能です。
ただ繰り返しになりますが、この調査は、特に短期的にスポットで確認するより、長期での変化を把握することが価値を生むと考えます。Search Consoleのデータは過去16カ月しか保存されていません。もしこのデータをご覧になっていなければ、早々に確認されることをおすすめいたします。
PRとSEOの良い関係を作るために
PRとSEOで相乗効果を生むための4つのポイントについて説明してきました。
ポイントの2つに「可能な限り」と記載しています。PR活動は当然ながらPRが優先されるべきことです。SEOの目的のためにそもそものPRの成果を減らす状態にするべきではありません。
自社サイトをコミュニケーションの場所にするために、YouTubeの活用を控えるべきでも、Twitterの投稿から魅力をなくすべきでもありません。リンクを増加させるためにメディアから扱われづらくなるのも本末転倒です。
ただ多くの場合はそのように二者択一にならないはずです。PRとSEOは共存できますし、本来は相乗効果を生むはずのものです。ぜひ、どちらかを捨てる選択をせずに、検討ください。
PRは企業活動に無くてはならないものです。それに少しのSEOの視点を加えることができれば、PRは直接的な集客力を持ちます。事業への直接貢献が大きく拡大します。
この関係性、PRとSEOの相乗効果は、いま始まったことではありません。関係は昔からありましたが、この数年で関係性は更に強くなりました。そして、今後更に増していくはずです。
ぜひ、PRを考えるときに、今回紹介しました4つのポイントを頭に置き、SEOも合わせてお考えになることをおすすめいたします。
はてなブログ ビジネスプランのご紹介
最後に少し宣伝です。
9月17日に発表されたはてなブログBusinessプランのサブディレクトリオプションを使うと、企業ブログを企業サイトのサブディレクトリに設置できるようになりました。
今回ご説明した「可能な限り、自社サイトをコミュニケーションの場所にする」を実現するには、情報発信の場を企業サイト内に持つことが有効です。
ブログに記載された内容が企業情報を探す検索でより表示されやすくなることになりますし、更に多く読まれるブログを企業サイト内に持つことで、企業サイトが検索されやすくなる効果も生みます。
今回ご説明しましたPRとSEOの連携を行うには最適な環境といえます。PR・広報活動にブログを活用しているのであれば、ぜひご検討ください。
著者:辻正浩(id:t-w-o)
株式会社JADE取締役。営業や広告制作を経験後、2007年より株式会社アイレップにてSEO専門家としての活動を開始。その後独立し、2013年より株式会社so.laでの活動を経て、2019年5月より現職。ブログ:辻正浩のはてなブログ Twitter:@tsuj
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オプションを見る編集/はてな編集部