11月のラボ便り
皆様、こんにちは。
11月と暦の上では秋ですが、
上着がいらないような暖かい日もありますね。
寒暖差で体調を崩されぬよう、お気をつけください。
今回のラボ便りでは、
先進医療として認められている精子に関わる技術についてお話しします。
*PICSI(ピクシー:ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)
PICSI(Physiologic intracytoplasmic sperm injection)とは、
ヒアルロン酸を用いて生理学的に精子を選別するという顕微授精のための新しい技術です。
顕微授精での精子の選別は、胚培養士が顕微鏡で精子の形態と運動性を観察し、
良好と評価したものを選んでいます。
形態が正常で運動性の良い精子は、DNAの異常を持つ確率が低いといわれています。
しかし、形態や運動性で良好と評価された精子が、
必ずしもDNA損傷が無い成熟した精子とは限りません。
DNA損傷がある未熟な精子を顕微授精に用いると、
受精率や胚発生率が低下し流産率が増加するという報告が近年なされています。
DNA損傷の少ない成熟した精子はヒアルロン酸に結合する特徴があり、
その特徴を生かして良好な精子を選別し、顕微授精を行う方法がPICSIです。
見た目だけでは判別できない良好な精子を選別することができます。
PICSIを行う際は、
顕微授精に使用するディッシュにヒアルロン酸の含まれる培養液を添加するのみですので、
患者さんに特別に行って頂くことはございません。
*ZyMōt (ザイモート:膜構造を用いた生理学的精子選択術)
ZyMōt(ザイモート)とは、採卵時の精子調整方法の一つです。
通常、精子調整を行う際は精液をパーコール液という特殊な調整液に乗せて遠心分離を行い、
試験管の底へ集まった精子を回収します(密度勾配遠心法)。
しかし近年、遠心分離を行うことで精子に対して物理的なダメージが与えられ、
精子のDNA損傷が起こる可能性があるとされています。
ZyMōt(ザイモート)では、
ZyMōtスパームセパレーターという特殊なフィルターの張ってあるプレートに精液と培養液を入れて静置し、
そのフィルターを潜り抜けて泳ぎ上がってきた精子を回収します。
フィルターには8µmの微細な穴が開いており、
動いていない精子や8µmの穴を通過できない奇形精子、前進運動性の低い精子、衣服の繊維等の不純物は通過出来ない為、
運動性の良い良好精子を選別することができます。
遠心分離によるストレスを与えずに良好精子を回収できるため、
体外受精・顕微授精の培養成績の向上、妊娠率の上昇、流産率の低下が認められたという報告があります。
この調整方法を行う際は、
精液調整時に専用のZyMōtスパームセパレーターを用いるのみですので、
患者さんに特別に行って頂くことはございません。
採卵手術当日に精液を採取し、ご提出頂ければ行う事ができます。
(極端に精子の所見が悪い場合、行えない場合があります)
この2つの技術は、中々胚移植を行ってもご妊娠されない方、
胚移植後に反復して流産を認めた方、
奇形精子の割合が高い方、
良好胚盤胞が出来にくい方などに有効とされています。
当院でも新たにこの2つの技術を導入しております。
ご希望の場合は、お気軽にスタッフまでお声がけ下さい。