「データ活用人材に必要なのは人への興味」北の達人 木下勝寿氏×西内啓対談 Vol.3|シティズンデータサイエンスラボ
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「データ活用人材に必要なのは人への興味」北の達人 木下勝寿氏×西内啓対談 Vol.3

西内啓の対談シリーズ。「北の達人」木下勝寿さんの第3回目です。「Webが登場して以来、マーケティングの定義が変わった」と話す木下さん。これからのデータ活用人材は、人間への興味を持ち、人間の行動を思考できることが大切と言います。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

「人間への興味を持ち、人間の行動を考える」ことが大切

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西内 経営やデータ活用において、御社にとっての課題とはなんでしょうか。

木下 データ分析の究極がビッグデータを解析したAI だと思うのですが、そうした環境が整えば整うほど、人間の考える力はどんどん落ちていると感じます。20年前にeコマースの事業を始めた当時は取れるデータが少なく、自動で分析できるわけではなかったので、日々脳味噌を絞って必死で解データを分析していました。

しかし、今の若い人たちはそうした機会がほぼないんですよね。システムでデータを分析して出た結果に対し、打ち手まですぐわかります。そうすると、なぜその現象が起きたのか、考えなくなるんですよ。このような状態が続くと、想定外のことが起きたときに何もできなくなるのではないかと危惧しています。

これからはデータを解析する、もしくはデータを解析する仕組みを作る人と、与えられた答えの中でロボットの指示に従って生きる人に分かれていきそうだと感じます。そのため、当社ではあえて完全自動化にせず、考える余地を残すようにしています。

西内 私たちも分析ツールを導入いただく際に導入研修などをして思考のトレーニングをするようにしていますが、そういった「考える練習」を組織の中で体系的にやっていくことは大事ですね。

木下 マーケティングの業界でいうと、Webがなかった時代は必死で人間の行動を考えたわけです。しかし、Web広告が出てきてそこを考える習慣がなくなってきているように感じます。驚いたことに、若い人に「マーケティングってクリエイティブも関係あるんですね」と言われるほど、マーケティングの定義そのものが変わってきているんです。

例えば、同じ広告を見てクリックしても、昼と夜とでは購入に至る率が違います。そのことから、広告業界では夜ではなく昼に広告を表示させた方がいいという常識があるのですが、なぜ昼と夜とで購入率が違うのか、考えたことがないという人もいるんですね。ここを理解できていないと根本的な策を打つことができません。

西内 弊社のツールを使ってデータ分析した結果を見て、「おもしろい」と感じる人と、「へえ、そういうものか」で終わってしまう人と、確かに反応が分かれる気がしますね。例えば、データから「水曜日が大事である」という結果が出たときに、「へえ、水曜日ね」で終わるのか、「水曜日が大事という結果の背景には、どんな要因があるのだろうか」と考えられるのか。そこにオペレーションの想像がきくかどうかは大切な気がします。

木下 「へえ」で終わる人と、「なぜだろう」と考えられる人、何が違うと思われますか?

西内 データ分析者としての向き不向きが関係しているように思います。人の生活やビジネスに対する関心度の強さに大きく差がついている気がしますね。数学的なことは得意であっても、お金儲けが嫌いだとビジネス関係のデータ分析をやっても愛着を持ってできなかったり、人間の行動や生活に関心がないと分析結果に興味をもてなかったりするでしょう。

普段から人間観察をしていて、「水曜日に購入ボタンをクリックする人は他の人とどう違うのか」といったことを常に頭で考えていれば、それが何らかヒントにつながるのではないかという気がします。

これはマーケティングに限った話だけでなく、例えば人事の分野でも同じです。HRテックで人事データを分析した結果「こんな人が退職しやすい」と言われて、背後のメカニズムや仮説に興味を持つ人は、ビジネス全般において人間のことを理解しようとするでしょう。

木下 結局は、人間に興味があるかどうかといえそうですね。

西内 そうですね。データサイエンスのスキルセットでも、統計的側面と計算機的側面、人間的側面の3つが大事だといわれています。

業務を自動化し、人間がクリエイティブに集中できる環境を作る

西内 御社のデータ活用の未来について、今後のビジョンをお聞かせください。

木下 先ほどの話とは逆行しますが、完全にデータが計測できて正確な基準があれば多くの部分が自動化できていきます。今も半分ぐらいは RPA で自動化していますが、今後はより多くの部分を自動化し、人間がクリエイティブに集中できる体制にしていきたいと思っています。

西内 木下社長が社員に向けてよく言われる口癖って、何でしょうか。それが御社の社風を形作っているような気がします。

木下 社員からは「なんで?」が口癖だと言われますね。必ずしもすべてのものが数字で判断できないにしても、仮説ぐらいは立てられるのではないかという思いがあって、社員には「なんで?」と根拠を尋ねるようにしています。

西内 エビデンスベースドで、根拠に基づいた知識によって会社が成り立っていくのでしょうね。本日は、貴重なお時間をありがとうございました。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
木下勝寿(きのしたかつひさ)  株式会社 北の達人コーポレーション 代表取締役社長
1968年神戸生まれ。大学在学中に学生起業を経験。株式会社リクルートを経て独立。2000年から北海道特産品のインターネット販売を開始する。2年後に拠点を北海道へ移し、2007年には規格外の食品販売サイトを新設。2009年、株式会社北の達人コーポレーションに社名変更。健康美容の分野へ本格参入。Japan Venture Awards 2017「eコマース推進特別賞」受賞、EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2015ジャパン 日本代表候補ファイナリスト。