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ツチヤの口車 第1382回 土屋賢二「ナスの肉味噌炒めの作り方」
2025-03-13 05:00わたしは失敗してもくじけない。何もしなくてもふだんからくじけているように見えると言う人もいるが、わたしの数多い長所の一つは、失敗してもあきらめないことだ。数少ない短所の一つは失敗から何も学ばないことだ。
料理もそうだ。わたしは料理で失敗しても、くじけるどころか、艱難辛苦の末に得意料理にまでしてきた。
たとえばわたしはすき焼きが大好きだが、これもわたしの得意料理だ。すき焼きは地域や家庭によって作り方も具も違い、わたしも最初のころは、色々な情報や記憶が入り混じった結果、甘すぎたり辛すぎたりで失敗続きだった。
それがいまでは得意料理にまでなっている。「すき焼きのタレ」を使うようにしたのだ。それ以来一度も味つけに失敗していない。 -
ツチヤの口車 第1381回 土屋賢二「タカをくくる人々」
2025-03-06 05:00 -
ツチヤの口車 第1380回 土屋賢二「カツ丼の作り方」
2025-02-27 05:00無性にカツ丼が食べたい。どの店でも注文して2、3分で出てくるから、簡単な料理だ。近所の店でも食べられるが、(1)カツが小さい(2)もう少し甘い味がいい、の2点で物足りない。
ネットで調べると、作り方が大量に出てくる。その中でも簡単そうなものを選ぶと全部で15行程度だ。特殊な食材も難しいことばも使っていない。もちろん多少の常識は必要だ。出汁を作る容器は何でもよいが、浴槽でもいいわけがない。一読して完全に理解できた。不安になるほど簡単だ。これで失敗したら奇跡だ。
出汁を鼻歌まじりで作り、スーパーで買ったトンカツをレンジで温めたところで、玉ねぎを切るのを忘れていた。あわてて玉ねぎの皮をむく。なかなかむけない。急がねばとの焦りから、最後は爪を立てて強引にむき、表面が凹凸になったが、味には関係ない。切った玉ねぎと出汁を鍋に入れ、火にかけると、すぐにグツグツ沸く。玉ねぎに火が通るように混ぜる。 -
ツチヤの口車 第1379回 土屋賢二「 夢が消えた日」
2025-02-20 05:00人間には「格」というものがある。面と向かったとき理屈を超えて圧倒されるのは、わたしの場合、「武士」だ。もっと限定すれば、三船敏郎演じる素浪人だ。こういう人に何を言っても軽蔑されそうな気がする。
だが、わたしの父方をたどっても母方をたどっても先祖に武士はいない。どこかで武士と不倫して生まれた子だったというのが唯一の希望だ。だが先祖に頼るなど、しかも先祖の不倫に頼るなど、武士としてあるまじき態度だ。素浪人に一刀のもとに切り捨てられても不思議ではない。
ただ、わたしは武士でもなく食後でもないのに「武士は食わねど高楊枝」を実践し、質実剛健を心がけ、真冬でも素足にサンダルで通している(暖房のきいた施設の中では)。だが最強の寒波の最中に、素足で外出すると老いの身に何が起きるか分からない。靴下と靴をはき、背中にカイロを貼り、か弱い身体に鞭打って凍てつく寒空の下に出ると、生まれて間もない雛鳥がいきなり冷凍庫の中に入れられたようだ。荒野の素浪人になったら一日ももたないと確信した。だがそれで終わりではなかった。 -
ツチヤの口車 第1378回 土屋賢二「第3回記者会見」
2025-02-13 05:00本日はお集まりいただき、ありがとうございます。最初にわたしの紹介をさせていただきます。わたしは危機対処代行会社「サンドバッグ」を運営している多々木報大と申します。当テレビ会社の社長ではなく、その代理です。社長から全面的に委任を受けています。
えっ、本人じゃないといけない? 本人を出せという声が聞こえましたが、本人でないといけないとだれが決めたんでしょうか。代理がいけないなら委任状とか課長代理は存在してはいけないのでしょうか。保険代理店や広告代理店や旅行代理店はどうなるんでしょうか? 被告の代理人が法廷に出てはいけないのでしょうか。あなたがた自身、読者を代理して取材しているのではありませんか? -
ツチヤの口車 第1377回 土屋賢二「話が進まない」
2025-02-06 05:00 -
ツチヤの口車 第1376回 土屋賢二「妻の本性」
2025-01-30 05:00 -
ツチヤの口車 第1375回 土屋賢二「退職代行の時代」
2025-01-23 05:00 -
ツチヤの口車 第1374回 土屋賢二「うかつな男の正月」
2025-01-16 05:00六十年前の正月、焦りに焦っていた。生まれて初めて東京で迎える正月だ。それまでは十二月のクリスマス前から成人式の後まで岡山に帰省していたが、この年は卒業論文を提出する年だ。一月中旬が締め切りで、一分遅れても受け付けてもらえない。
一行も文章を書いたことのない(作文は親に書いてもらっていた)有為の青年が、百枚の原稿を書くのだ。四畳半の下宿の万年床の上に置いたコタツで寝る間を惜しんで書いていた。書く間を惜しんで寝ていたと言ってもいい。
ふだん規則正しく昼夜逆転の生活を送っていたわたしは、このときは昼も夜もなく、眠くなれば眠り、筆が進まなくなったら眠りで、不規則をきわめた生活を送っていた。 -
ツチヤの口車 第1373回 土屋賢二「新年の展望」
2025-01-08 05:00
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