ありたい心を実現する技術がつくる未来
〜東洋の人間観と脳情報学のインタラクション〜
ムーンショット9・今水プロジェクトによる市民公開講座は終了いたしました。ご参加いただき、誠にありがとうございました。
なお、アンケートでいただいたご質問への回答は末尾に掲載しております。
日 時 2024 年 6 月 9 日(日)13:00~16:30(12:00開場)
会 場 東京大学 伊藤国際学術研究センター・伊藤謝恩ホール
アクセス:丸ノ内線・大江戸線:本郷三丁目駅/千代田線:湯島駅 or 根津駅
対 象 一般の方・企業の方・学生・研究者、どなたでもご参加いただけます
定 員 400 名(現地参加のみ、オンライン配信はございません)
参加費 無料(こちらから事前登録が必要です)
東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地
●録音・録画・撮影はご遠慮ください。
●取材をご希望される方は事前に事務局(ms9ahbi(at)atr.jp *(at)は@に置き換えてください)までご連絡ください。
プログラム
- 13:00-13:20 プロジェクト紹介
- 今水寛(プロジェクトマネージャー/ATR)
- 13:20-14:00 特別講演「ゾーン体験から考える人間の意識」
- 為末大(元陸上競技選手/Deportare Partners)
- 14:00-14:45 プロジェクト成果紹介
- 田中沙織(ATR)
- 中村元(KDDI総合研究所)
- 浅井智久(ATR)
- 蓑輪顕量(東京大学)
- 15:00-15:40 特別対談 & デモ実演
- 為末大 x 蓑輪顕量
- 対談中の2人の脳状態をリアルタイムに可視化します
- 為末大 x 蓑輪顕量
- 15:50-16:20 総合討論「ありたい心を実現する技術がつくる未来」
- 16:20-16:25 総括
- 熊谷誠慈(プログラムディレクター/京都大学)
- 16:25-16:30 閉会の辞
- 今水寛(プロジェクトマネージャー/ATR)
概要 ムーンショット目標9・今水プロジェクトによる市民公開講座「ありたい心を実現する技術がつくる未来〜東洋の人間観と脳情報学のインタラクション〜」を2024年6月9日に開催いたします。
東洋では長い歴史の中で、「こころ」とは何かを問い続け、独自の人間観を育んできました。近年では、脳科学がこころを西洋的な科学で解明しつつあります。東洋的な人間観、特に仏教では、こころは常に移り変わるものと考え、その有り様に着目してきました。最近、注目されている瞑想は、自身のこころの移り変わりに、あらためて気づかせてくれます。一方、脳科学の技術進歩のおかげで、「こころの座」である脳の状態が、どのように移り変わるか、リアルタイムで見ることができるようになりました。また、こころを考えるうえで、人の個性は欠かせない観点です。古くからの瞑想でも、人のタイプごとに、瞑想のやり方を変えることが行われてきました。私たちは、最新の情報技術で個性をとらえ直すことにも取り組んでいます。このように、私たちのプロジェクトでは、東洋と西洋の学問や技術を融合することで、現代人が自分のこころと向き合い、他者への慈しみを持てる社会を実現することを目指しています。
市民公開講座では、このような目標のための活動成果を一般の方々に広く知っていただきたいと考え、特別講演(元陸上競技選手・為末大さん)や特別対談(為末大さんと東京大学教授・蓑輪顕量先生)、そして脳の状態をリアルタイムに可視化するデモとともに、それぞれのチームの成果を主な研究者
(田中沙織・中村元・浅井智久・蓑輪顕量)からご紹介いたします。さらに「ありたい心を実現する技術がつくる未来」について倫理的な観点も含め、様々な可能性を議論します。最新の知見やデモ、そして最新技術による未来構想を紹介するこれまでにない講座となっております。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。
アンケートへのご協力ありがとうございました。
アンケートの中でいただいたご質問に対して登壇者からの回答を以下に掲載しています。
【プロジェクト全体に関する質問】回答者:プロジェクトマネージャー・今水寛(ATR)
- ありたい心を実現したら、教育はどのような未来になると想定されますか?小中高大それぞれでイメージを伺いたいです
- 【回答】高校生や大学生では,自己のアイデンティティを探る過程で,自己の内面を見つめ,自分にとってふさわしいと思える未来を描くための一助になればと思います.小学校や中学校では,いろいろな可能性に触れることが重要と思いますので,データ駆動による個性のタイプ分けが,教育の場で,これまで想定されていなかったような新たな学びの機会を創出することに役立てれば幸いに思います.
- 「ありたい心」と一言で言っても、「個人」としてありたい心と、「社会」としてありたい心(道徳・倫理的なもの)もあると思います。脳科学は、なんとなく前者にはアプローチできそうなイメージは持っているのですが、後者にもアプローチは可能なものなのでしょうか?あるいは、脳科学に何が加われば、後者へのアプローチも有効になりそうでしょうか?
- 【回答】脳科学でも,社会性・道徳・倫理などのテーマが扱われています.多くは,社会的な交渉場面をシミュレーションしたゲームを,個人が行っているときの脳活動を測っています.最近は,大学の授業の中で,先生と多数の学生の脳波を同時計測して,相互作用を見る研究も行われています.ちょうど,為末さまと蓑輪先生が行ったように,複数のひとが対話・議論しながら,意思決定を行う際の相互作用が見えれば,「社会」としてありたい心がどのように成立するのか解明が進むと思われます.
- 東洋の人間観と脳情報学にどういうインタラクションがあるのかが分からなかった。それぞれが独立して別なことをやっているだけのように思えた。いろいろ疑問が浮かび、質問をするタイミングを待ったものの、それがなかったのも残念でした。
- 【回答】貴重なご意見ありがとうございます.データ駆動モデル化チームが集めているアンケート調査の中には,蓑輪先生が古典文献に見られる「東洋の人間観」として重要な質問が多数含まれています.東洋の人間観が,現代のひとの個性にどのように反映されているかを足がかりにして,その脳情報学的な意味について解明していきたいと考えています.会場からの質問をその場で受け付ける時間がなかったことについては,申し訳ありませんでした.
【東洋の人間観や瞑想に関する質問】回答者:社会実装チームPI・蓑輪顕量(東京大学)
- 蓑輪先生にご質問:仏教瞑想を行う際に、四禪八定の状態になると、脳の信号EEG、fMRIなどはどうのような状態になるのでしょうか(瞑想をしない人と瞑想入門者と比べてどうのような異なりがありますでしょうか?また、主観的な心理状態なので、座禅者の四禪八定の状態どうやって判断されますでしょうか(勿論、仏典で四禪八定を述べることがありますが、自分自身は判断することも難しい気がします)?よろしくお願い申し上げます。
- 【回答】四禅八定と特定されていますが、どれも心の働きが静まっていくサマタ系列の行での状態ですので、そこから推定されることは、様々な身体感覚の機能停止が起こることです。実際に、五感に関係する感覚や部位の活動が低下するような体験がありますので、身体感覚に関連する脳の領域が変化するかもしれません。また禅支と呼ばれる、それぞれの定を特徴付ける心の働きが文献学的に特定されていますので、そのような境地を容易に体験できる熟練者の方に、測定機材を着けていただき、定の終わった後で入っていた定の報告を貰う、そして、それぞれの定の状態でのデータを積み上げていくことで、どのようなことが脳の中で起きているのか、を調べることはできるように思います。また四禅八定は個人的な内面での体験ですので、どうやって判断するのかですが、外から見て判断するのは基本的に難しいと言わざるを得ません。でも、現代の科学で脳情報や生体情報をリアルタイムで取れるようになっていますので、その情報から内面の状態を推定するということは可能かと思います。鶏が先か卵が先か、になりますが、データを積み上げることで、可能にはなるように思います。なお、以上の定の状態は心の働きを鎮めるタイプのものですので、定の中では、心の働きは静かでしょうが、日常にもどれば、前と殆ど変わらず、という状態ではないかと考えられています。これに対し、日常生活の中で起こしがちな「心の拡張性(心の自動的な反応)」を静めるタイプの瞑想が、観と呼ばれるもので、その特徴は五感で捉えられているものを皆、気づいていくようにするものです。此方の観察がプロジェクトで目指す「安らぎ」に繋がるものと考えています。止も観も、一瞬一瞬を気づいていくという点では変わりはないのですが、一点集中で行くか、五感に開いていくかの違いがあり、五感に開いていくことが十分にできるためには一点集中の練習も必要です。ちなみにこの「気づく」働きこそが、仏教瞑想の大切なところなのですが、この気づきの働きをきちんと持てるようにするのには時間が掛かります。(朝から晩まで連続した瞑想でも、真剣に続けて4日目ころからようやく分かりかけてくると言うのが一般です。この働きを機械の力で支援して、早くに修得できるようにする、という点に、ニューロフィードバック技術の応用の可能性があると考えています。
- なぜ瞑想に取り組まれているのかがわからなかった。東洋の人間観における瞑想の重要性の説明が欲しかった。
- 【回答】東洋の人間観というすごく漠然としたものを想定していますが、まず東洋ということばがどこを指すのかから確認しなければなりません。一般には中東あたりを基準にして東と西と分けることが多いのですが、ここでは、もう少し東側、アジアで言えば、西アジアを除いて、南アジアから東アジアにかけてを東洋と考えています。この地域では、古来、人間を捉える視座が、体験的な何かを伴って構築されているところに特徴が有ります。頭の中だけで考えたのでは無く、何らかの体験的な実践を踏まえて、思索が練り上げられてきました。人間を捉える視座も、心を見つめるという実践の中から生じてきます。たとえば古くインダス文明に遡る遺物の中に、瞑想姿の人または神が描かれているものがあり、心に対する関心が強くあったと推定されています。その伝統が、南アジアの人々に継承され、人間を捉える視座が形成されました。人間は永遠に生まれ変わりを繰り返す存在であり(輪廻と言います)、その生まれ変わりを繰り返す原動力は行いを起こす「心の働き」にあると捉えました。ですから、人間は心の働きによって輪廻を繰り返す存在であると考え、その心の働きを静めていくことが理想であると捉えました。人間は心の働きが鎮まった状態がより良い状態であると考えるようになったのです。このように、人間のもつ心の働きそのものを深く見つめるようになっていくのですが、それを深く追求したのが釈尊によって形成された仏教でした。仏教はやがて東南アジア、東アジアにも伝播し、東洋の中心的な実践であり、思想となります。
【個性のタイプ分けに関する質問】回答者:データ駆動モデル化チームPI・田中沙織(ATR)
- ATRやKDDI総合研究所で行っている500問の質問に答える研究で、行っている質問の元の質問紙は、具体的に何か教えて頂きたいです。
- 【回答】先行研究で実績のある心理指標や臨床評価尺度を使用しています。例えば「気づき」に対する質問としては、マインドフルネスの指標として使用されているFive Facet Mindfulness Questionnaire (FFMQ)の日本語翻訳版を使用しています。指標の種類は21種類、それぞれに数個〜数十個の設問が含まれますので、約500問の質問となります。
【脳状態の可視化に関する質問】回答者:ニューロフィードバックチームPI・浅井智久(ATR)
- 脳波のデモが、正常に動いているのか?動いているとしてそれが何を意味しているのか?など説明が欲しかった。
- 【回答】まだ開発途中の技術のため,詳細を伏せた形でのデモとなり,また,一部正常に動作しなかった点で申し訳ありませんでした。ある脳活動をもってその意味はこうだ,と科学的に断言するのは現段階では難しいのですが,今後はまとまった成果を論文や公開講座の場で発表していきたいと考えております。
- 技術が発展し、ある程度正確に脳活動によって感情を同定できることができるようになった場合、人のこころが他人に筒抜けになってしまい得る倫理的問題が発生するとの指摘で、その場合は脳活動を示している当人に脳活動を示すスイッチのオン・オフを切り替える権利を与えるようにすると仰っていました。この技術は閉じ込め症候群のような、緘黙症状を呈する人々とのコミュニケーションを可能にし、多様な人の個性を捉えることを可能にすると思いますが、他人に示したくないと意思決定を出来ない人を対象にする場合はどうするのだろうかと思いました。このプロジェクトに関する研究の対象とする人は、どのような人をサンプルとしているのかが気になりました。
- 【回答】ご指摘の通り,外界に意思表明できない方へのコミュニケーション技術になる可能性と同時に,使用したくない場合にもその意思表明は取れないケースもあるかと思います。我々のプロジェクトは健常者を対象としておりますが,その利用範囲を広げる場合に起こる問題も同時に考えていく必要があるように気付かされました。
- 脳情報を取得する上での現状と、今後切望するデバイスの発展の姿についてご意見伺いたいです。by 耳脳波計の社員
- 【回答】我々の場合は,全脳の状態を空間パタンとして使っていますので,最低限の電極数で全脳をカバーし,かつ日常生活を妨げないようなデバイスが発展してくると,一般の方も利用しやすくなると考えております。