いよいよ2024年10月15日の正式リリースを迎えた『Wizardry Variants Daphne』(以下、『ウィズダフネ』)。待望の「ウィザードリィ」シリーズの新作である。しかしながら、昔からの『ウィザードリィ』ファンの方にとっては、「自分の求めるウィザードリィ体験ができるのか」という点で不安をもたれている方や、そもそもあまり本作についてわかっていない方もいるのではないだろうか。本記事ではそういった古参Wizファン、あるいは本作に興味のある方のために、「昔ながらのウィザードリィ要素」を伝えたい。だがしかし本作の本質はそこではない。本作は「ウィザードリィの変種」なのだ。ネタバレなどは配慮しつつ、その一端をお伝えしたい。

Wizardry Variants Daphne』は、3DダンジョンRPG『ウィザードリィ』シリーズの最新作だ。対応プラットフォームはiOS/Androidで、のちにSteamでも配信予定。基本プレイ無料のアイテム課金形式を採用。本作では、『ウィザードリィ』のオールドスタイルなプレイサイクルが踏襲されている。プレイヤーは、町でのキャラクター育成や補給、ダンジョンでの戦闘やアイテム収集を繰り返しながら、「奈落」と呼ばれるダンジョンの奥へと進んでいくこととなる。敵との戦闘は、最大6人編成でのコマンドバトルで進行。呪文やスキルを駆使した戦略性の高いバトルが繰り広げられる。また本作は縦画面でプレイする関係で、縦持ちで遊べることも特徴である。

久しぶりの「トゥルー・ワード」採用ゲーム作品。ボーパルバニーはもちろん首を刈ってくる


まず古参Wizファンにも共感をもらってもらえそうなポイントとしては、本作は呪文名に「ハリト」「カティノ」「ディオス」といった、いわゆる「トゥルー・ワード」と呼称される呪文名が採用されている点だ

これらの呪文名は旧作『ウィザードリィ』(シナリオ1~5)までで使われていた独自の呪文体系で、初期の日本産の『ウィザードリィ外伝』シリーズでも使用されていた、古参Wizファンにはなじみ深い呪文名だろう。のちにウィザードリィを巡るライセンス関係の問題で日本産の『ウィザードリィ』作品ではこれらの呪文名は使われずにいたが、本作配信元のドリコムが権利を取得したこともあってか、『ウィズダフネ』ではこれらの呪文名が大々的に復活している。

日本産ウィザードリィシリーズのゲームでこれらの呪文名が大々的に使われるのは2015年の『ウィズローグ』以来9年ぶりであり、古参Wizファンには懐かしくプレイできるだろう。なお本作には旧作ウィザードリィにはなかった風属性・土属性といった攻撃魔法にも「トゥルー・ワード」を踏襲した新たな呪文体系が用意されている。そういった新たな呪文名を見比べてみるのも一興かもしれない。


『ウィズダフネ』では『ウィザードリィ』シリーズでお馴染みのモンスター、「ボーパルバニー」も序盤から登場する。彼らの「鋭い牙」を受けると、「くびをはねられた!」のメッセージこそないものの、キャラクターたちはクリティカルヒットであっけなく即死してしまう。それは今回のゲームで主人公となるプレイヤー自身も例外ではない。自らの首が落ちるカメラワークまで用意された演出のこだわりっぷり(?)なので、迷宮を歩くウサギを見かけたら慈悲をかけてはならない。幸いウサギらしく体力は低めなので、盗賊の先制の一撃や攻撃魔法で一掃してしまおう。


迷宮内に落ちていたり、モンスターを倒すと時にドロップする宝箱を開けるのも今までの『ウィザードリィ』同様、盗賊の役目だ。『ウィズダフネ』では宝箱の罠解除は罠の一覧からかかっている罠を当てるという方式ではなく、タイミングよくマーカーを止めるというミニゲーム形式になっているが、数回の失敗は許される上に失敗するたびに難易度が下がるため、ミニゲームとしての難易度はさほど高くない印象だ。

なお、本作の盗賊は敵との戦闘でも多くのケースで真っ先に行動でき、弓矢を持たせれば後列から厄介な敵をピンポイントで狙撃して倒すこともできるため、戦闘面でも活躍が見込める。


『ウィズダフネ』のモンスターデザインの一部は2001年にアトラスから発売された『Wizardry Alternative – BUSIN』を手がけた寺田克也氏によるものだ。多くの日本のファンが慣れ親しんだ日本版『ウィザードリィ』の末弥純氏によるモンスターグラフィックとは違う印象こそあるものの、コアなWizファンに支持されている『BUSIN』のデザイナーだけあって、不気味な異形さが漂うモンスターらしさが強く表現されている。


以上の要素を抜粋していくと、本作が古参のWizファンにも伝わる「お約束」を踏襲していることはよくお分かりいただけるのではないだろうか。もちろん『ウィザードリィ』らしい、重苦しい3Dダンジョンを一歩ずつ踏破していく探索の緊張感も健在だ。


本作が「Wizardry Variants(ウィザードリィの変種)」たる理由とは


しかし、本作『ウィズダフネ』は単純な旧作『ウィザードリィ』のクローン作品ではない。そうであれば、わざわざ「Variants(変種)」とタイトルでわざわざ名乗りはしない。それでは『ウィズダフネ』は今までの『ウィザードリィ』とどう違うのか、遊びこんでいくと次第に理解できるようになる違いについて説明していこう。


まずは「主人公」とパーティメンバーの関係についてだ。今までの『ウィザードリィ』のシリーズ作品では、プレイヤーは神の視点でパーティメンバー6人をキャラクターメイキングし、作成したキャラクターでダンジョンに潜る……という形式をとっていた。しかし、本作『ウィズダフネ』は違う。ゲーム開始時に「主人公」としてプレイヤー自身の分身を作成することになる。主人公は「逆転の右手」という特殊能力を持っており、これにより迷宮内でその生涯を閉じた冒険者の遺骨に再び生命を吹き込むことができる。


蘇生させた冒険者は、冒険者ギルドで主人公が率いるパーティの仲間として参入させることが可能だ。なお、蘇生させた冒険者は名前を変えることはできるが、種族・職業・性別・性格は変えられない。基本的には名前と外見・性格が固定の冒険者が蘇生されるわけだ(ときどきほとんど個性のない、「人間戦士男」「エルフ魔法使い女」のようなデフォルト名のキャラクターが現れることもある)。


こうして、プレイヤーの分身である「主人公」が「逆転の右手」で蘇生させた、それぞれ個性を持つキャラクター5人と計6人のパーティを組むことになる。「6人のパーティを組む」という点は既存の多くの『ウィザードリィ』を踏襲しているが、これらのパーティキャラクターの個性はテキストで表示される名前・能力値とプレイヤーの想像力に任されていたのに対し、『ウィズダフネ』は明確な設定を持つ「主人公=プレイヤー」と冒険者5人でパーティを組むことになるわけである。

古参のWizファンであれば「ウィザードリィは想像力のゲーム」と繰り返し言い聞かされていた方も多いだろうし、もしかしたらこうした「キャラクターが個性を持つ」ことに反発を覚える方もいるかもしれない。しかし筆者は、これがウィザードリィの「Variants(変種)」たるもっとも大きな理由だと考えている。


そう筆者に思わせた理由の1つが、「戦闘終了後にパーティメンバーが見せる表情」である。本作では戦闘終了後の経験値リザルト画面で、パーティメンバーが主人公に声をかけることがある。かけてくる声は主人公に対する愚痴だったり、今の戦いは楽勝だったな、といった感想だったりとさまざまだが、この細かい演出が、「主人公=プレイヤーが、力強い仲間とともにダンジョンを探索している」という没入感に繋がっているのである。先行プレイをさせて頂いた筆者の印象に残っているのは女盗賊の「ビビアナ」で、口が悪く主人公に対して悪態をつくこともしばしばなのだが、彼女が憎まれ口を叩きながらも懸命に宝箱の罠を外したり、ここぞという時に頼れる狙撃の一撃を放つ様を見ているうちに、すっかり「頼れる盗賊仲間」という印象が強くなった。


また、『ウィズダフネ』では今までの『ウィザードリィ』に比べてキャラクターの職業によっての「ロール(役割)」がより明確化したことも、各キャラクターの個性を際立たせることに繋がっている。本作の強敵を相手にした戦闘では、「戦士」「盗賊」「魔法使い」はそれぞれの攻撃スキルを活かした「アタッカー」、もしくはバフ・デバフ・状態異常を活かす「サポーター」ロールを、「騎士」は敵の攻撃の身代わりになる「カバー」スキルなどを活かした「タンク」ロールを、「僧侶」は敵から受けたダメージの回復に専念する「ヒーラー」ロールを……といった役割分担が重要になる。それぞれの役割を明確にして強敵を打ち破ったその時には、戦闘の中に「仲間たちとの絆」を不意に強烈に感じてしまった。


本作のNPCたちとの掛け合いも、本作への没入感を高めるのに一役買っている。「仮面の冒険者」「奈落から来た者」として主人公が言及される場面もあり、こういった演出は「主人公=プレイヤーの分身」という設定の本作ならではのものだろう。


本作のナビゲーターを務める亡霊「ルルナーデ」もいい味を出している脇役だ。皮肉屋ながら適切なアドバイスをくれることもあるが、どこか間の抜けている感がある……という、なかなか印象に残るキャラクターになっている。


こうして今まで挙げてきたパーティキャラクターたちの個性やNPCとのやり取りは、「主人公=プレイヤーも作中世界の登場人物の1人である」という没入感を強く感じさせるものだ。これにダンジョンを奥深くまで潜っていった末に明かされる強烈なストーリーと併せて、『ウィズダフネ』の物語は『ウィザードリィ』シリーズの中でも、特に心に残るものであると個人的には感じた。


「『ウィザードリィ』にはストーリーなど飾りだ」と思われる古参Wizファンの方もいるかもしれない。「『ウィザードリィ』に主人公がいるなど邪道だ」と思われる古参Wizファンの方もいるかもしれない。ある種の「異質さ」ともいえるだろう。ストーリーを据えることは、暗黙の掟を破るアプローチだとすらいえる。

それでも筆者は、そういった方々にも『ウィズダフネ』を遊んでほしいと思っている。ストーリーの没入感や戦闘のプレイフィールなどは今までの『ウィザードリィ』とは違うかもしれないが、「隣り合わせの死と冒険」という、一歩の重さを持った迷宮探索はしっかりと『ウィザードリィ』を引き継いでいる。そして、このストーリー要素こそが「ウィザードリィ変種」たる体験の源泉であり、本作だからこそできる体験をもたらしている。

興味を持ったのなら、是非とも『ウィズダフネ』を遊んでほしい。そこに待っているのは、一歩一歩の重さや呪文名といった『ウィザードリィ』の伝統を引き継ぎつつも、「ウィザードリィの変種」である本作ならではの、プレイヤーの分身たる主人公とパーティメンバーの冒険者たちが紡ぎだす冒険譚だ。その経験は、間違いなくあなただけの冒険の思い出になるだろう。

Wizardry Variants Daphne』は、iOS/Androidで2024年10月15日より配信中。また、PC(Steam)版も後日展開予定だ。