【レビュー】iFi audio ZEN One Signature - Audio Renaissance

【レビュー】iFi audio ZEN One Signature

 iFi audioは以前から小型・高機能かつ手頃な価格の製品を、主にPCオーディオやポータブルオーディオ関連で数多く手がけてきた。

 一方で、特に近年ではホーム/据え置きオーディオにもかなり力を入れている感があり、AURORAというスピーカーを出したり、ZEN Streamで本格的なネットワークオーディオに参入したりもしている。

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 そんなiFi audioは以前、「nano iOne」という製品をリリースしていた。当時iFi audioがラインナップしていた小型DAC「nano iDSD」をベースに同軸デジタルとBluetooth入力を追加し、よりホーム用途を意識して接続性を向上させたモデルだった。

 そのnano iOneの遺伝子を引き継ぎ、現在のiFi audioのエントリークラスである「ZEN」シリーズ……の上位グレードである「ZEN Signature」として新生したのが、今回レビューする「ZEN One Signature」である。

 機能的にも立ち位置的にも、ZENシリーズのUSB DAC「ZEN DAC」とBluetoothレシーバー「ZEN Blue」を掛け合わせて、Signatureのグレードに引き上げたものというイメージ。ZEN One Signatureの価格は49,500円(税込)で、価格的にもこのイメージに合致する。

外観・仕様

 ZEN One Signatureは「ZEN」シリーズよりもプレミアムな「ZEN Signature」シリーズということで、基本的な筐体は同じながら、仕上げの違いで差別化されている。無印ZENシリーズがシルバー&グレイなのに対し、ZEN Signatureシリーズはブルー&ブラックという感じ。

 ZEN One Signatureは前述の通りZEN DAC × ZEN Blue的な製品なので、フロントパネルも両者の融合といった趣。ZEN One Signatureはアナログ音声の可変出力を搭載しないため、ZEN DACのようにボリュームノブがなく、ZEN Blueと同様のifiロゴLEDを中央に搭載する。

 また、ZEN One Signatureはヘッドホン出力を搭載しない。これもまたデスクトップ/PCオーディオ用途の色合いが強いZEN DACと異なる点だ。

 フロント中央のLED(iFiロゴ)と右側のLEDとの組み合わせで、ZEN One Signatureに入力されている様々な音源のフォーマットを表示する。例えば、iPhoneとZEN One Signatureを接続した場合は中央が黄色(AAC)・右が黄色(PCM 44.1/48kHz)に点灯する。

 背面。入力としてUSBと同軸/光デジタル、そしてBluetoothアンテナ。ZEN One SignatureはUSB接続でも駆動できるが、外部電源用のDC5V入力端子も用意されている。出力はアナログRCAと4.4mmバランスを搭載。繰り返しになるが、ZEN One Signatureのアナログ出力は固定出力のみとなっている。同軸デジタル出力も備えるため、USB入力やBluetoothに対応しないレガシーなDACに対するDDCとしても機能する。

 ZEN One Signatureには外部電源としてiPower IIが付属する。iPower II自体単体で購入すれば11,000円とそれなりの価格になるので、これだけでもかなりお得感がある。

 ZEN One SignatureのUSB DACとしての仕様はPCM384kHz/32bit・DSD256・MQAフルデコードに対応と一線級。

 BluetoothのコーデックはaptX・aptX HD・aptX Adaptive・aptX LL・LDAC・LHDC/HWA・AAC・SBCに対応する。元々iFi audioはBluetoothに大きな可能性を見出していたブランドということもあり、Bluetoothへの力の入れ具合は他社と一線を画している。

運用

 ZEN One Signatureの活用法として、大きく以下の三通りが考えられる。

■USB DACとして使用
■Bluetoothレシーバーとして使用
■光デジタルでテレビと接続

 USB DACとしての使用はそのものずばりで、Soundgenicと繋ぐもよし、同社のZEN Streamと繋ぐもよし。再生可能な音源のスペックを考えれば、ZEN One Signatureがオーディオ機器として最も実力を発揮できる使い方といえる。

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 Bluetoothレシーバーとしては、もっぱらスマートフォンとの接続が主になるだろう。私が使っているのはiPhone(AAC接続)なので少々アレだが、android端末のユーザーであれば、ZEN One SignatureのBluetoothレシーバーとしての真髄を発揮させられるだろう。

 忘れてはならないのが光デジタル入力を使ったテレビとの接続。大抵のテレビは光デジタル出力を持つため、HDMI ARCによる完全な連携とまではいかないが、「テレビの音」をZEN One Signatureを介してオーディオシステムで再生可能になる。

 一例としてネットワークトランスポートにSoundgenicを使えば、USB DACとしてローカルの音源をDXDやDSDにいたるまで十全に再生し、Bluetoothを介してスマートフォンから各種音楽ストリーミングサービスを楽しみ、光デジタル入力を使ってテレビ経由で各種映像ストリーミングサービスを楽しむ、というシステムが完成する。

 ここまでくると、iFi audioがZEN One Signatureを表現するところの「ホームオーディオハブ」の名に恥じない活躍が可能になる。

 また、光デジタル入力のおかげでゲーム機との接続も視野に入る。

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 仮にデスクトップ環境であっても、このようなゲーム機との接続も含め、ZEN DACとは一味違う活用が可能ということは覚えておきたい。

音質

 製品価格と意図される用途の両面から、ZEN One Signatureの音質評価は基本的にリビングシステムで行っている。

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 組み合わせるアンプはYAMAHA A-S801、スピーカーはParadigm Monitor SE 3000F。

 
 まずは同社のZEN DACとのUSB DACとしての比較を通じて、ZEN One Signatureの純粋な能力を検証する。

 音源にはPrinceの同名アルバムから「Why You Wanna Treat Me So Bad?」、現在進行形のアニメ『平家物語』のオープニングでもある羊文学の「光るとき」を主に用いた。また、前提条件を揃えるために、ZEN DACとZEN One Signatureの両方にiPower IIを使用した。

 ZEN DACに対して、端的に言ってZEN One Signatureは解像感が高く爽快感がある。再生音からストレスがなくなり、音がスムーズに広がる。

 「光るとき」では解像感の向上の恩恵が大きく、ボーカルと演奏の前後関係が明確化し、空間の立体感でかなり違いが出てくる。一方で「Why You Wanna Treat Me So Bad?」ではパッと聴いた感じだと単純に「おとなしくなった」ようにも聴こえるが、ディテールの立ち方は確実に向上しており、オーディオ機器として一段上のクオリティが実感できる。

 その昔私はnano iDSDを使っていて、そしてnano iOneも聴いたことがあるのだが、nano iOneはより「わかりやすくいい音」を志向したのか、nano iDSDに対してずいぶんと元気の良い方向に振っていたことを覚えている。この印象からすると、ZEN DACとZEN One Signatureではむしろ逆なのが少々意外でもあった。

 CD相当から始まり高いスペックのPCM、DSDにいたるまで色々と聴いてみたが、ZEN One Signatureはハイレゾ音源ならではの豊かな空気感もしっかりと表現できている。再生音にキャラクターを付加して安易に「聴き応え」を高める方向性とは一線を画することも含めて、「ZEN Signature」の名は伊達ではないようだ。

 iPhoneとの接続でBluetooth入力も試してみた。

 Amazon Musicアプリから同じく「光るとき」(ULTRA HD)を再生してみたが、USB DACとして使った際と比べて、はっきり言って明らかに音量からして違うレベルで情報量もエネルギー感も落ちる。

 まぁロッシーのBluetoothを使う時点で音が落ちることは百も承知なので、問題はBluetooth入力時に音楽が楽しめるかどうかということなのだが、幸いにしてその点については問題ない。「USB入力に比べれば落ちる」ことは確かでも、素直に音楽に浸れるだけの再生クオリティは維持できている。

 私の手持ち端末は生憎iPhoneとiPad Proしかなく、より凝ったBluetoothコーデックでの検証はできていないので、その点は悪しからず。

まとめ

 ZEN DACはUSB入力しか持たないため、用途は得てしてデスクトップ環境がメインになるだろう。ヘッドホン出力はもちろん、可変出力の搭載もアクティブスピーカーと組み合わせてシンプルなシステムを構築できるという意味でプラスに働く。

 一方のZEN One Signatureは、iFi audioが本機を「ホームオーディオハブ」と呼ぶように、同軸/光デジタル入力とBluetoothによって、より幅広い使い方が可能だ。ヘッドホン出力と可変出力がどうしても必要ということでもなければ、ZEN DACとZEN Blueを別々に買うより、ZEN One Signatureを買った方がいい。

 こうなってくると、「ZEN One SignatureとZEN DAC Signatureはどっちがいいんだ」的な話もでてきそうなものだが、結局のところ、これらはZEN DACも含めてそもそも立ち位置が違うのであって、競合するものではない。USB DACとしてしか使わないならZEN DACを選べばいいし、色々繋げたいならZEN One Signatureを選べばいい。iFi audioはただ、ユーザーの用途に柔軟にフィットするように、きめ細かい選択肢を用意しているだけである。
 
 

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