【レビュー】Eversolo DMP-A8 - 多機能時代のぶっちぎり多機能 - Audio Renaissance

【レビュー】Eversolo DMP-A8 - 多機能時代のぶっちぎり多機能

 Eversoloは中国のAVメーカーであるZidooが擁するオーディオブランドで、専らデジタルオーディオ製品をラインナップしている。約1年前にリリースされた多機能ミュージックサーバー「DMP-A6」が世界的に高評価を受け、それに続いて登場した上位機種となるのが「DMP-A8」ということになる。

 先日公開された本体バージョン1.2.98では当初から予告されていたRoon Ready対応をはじめ、非常に多岐に渡る項目のアップデートが行われた。その内容も含める形で、このレビューも4/27に公開した暫定版から正式版とする。

バージョン1.2.98アップデート項目

 記事の内容は膨大だが、これでもDMP-A8の機能を完全には網羅できていない。とんでもない製品である。

仕様・機能


 
 純粋なオーディオ機器という括りでは、私が今まで試してきた製品のなかで最も多機能と言って差し支えないレベルで、DMP-A8は大量の機能を有する。LUMINやSFORZATOといったハイエンド志向のネットワークプレーヤーと、Bluesoundといったリビング・エントリー志向のネットワークプレーヤーの機能を同時に備え、さらにプラスアルファがある……というイメージ。

 プラスアルファも多岐に渡り、RCA/XLR入力を搭載して「純粋なアナログプリアンプとしても使える」という点、強力な内蔵DACに加えて「USB・I2S出力が可能なネットワークトランスポートとしても使える」点などが挙げられる。

 「純粋なネットワークプレーヤーとして見れば」、あるいは「初心者にも扱いやすいリビング志向のオーディオ機器として見れば」、それぞれに特化した製品に洗練や完成度で及ばない感もあるが、とにかくその圧巻の多機能をもって「極めて多彩な使い方が可能」という点で、DMP-A8には独自の価値が生じる。

筐体・外観

 6インチという大型の液晶ディスプレイ(タッチパネル)を搭載しつつ、野暮ったさを感じさせない「豪華」なデザイン。AurenderやHiFi ROSEの一部製品といった例外を除けば、最も大きいディスプレイを搭載する部類の製品といえる。

 DMP-A8は仕様面のみならず、デザインにおいてもAURALiCを彷彿とさせる。大型のディスプレイは後述するアプリを用いずとも良好な操作性を提供する。

 音源再生中のディスプレイ表示も様々にカスタマイズが可能。

 フロントパネル・サイドパネル・天板等、筐体を構成する各パーツはしっかりとした厚みがあり、構造そのものは特に凝っているようには見えないが、モノとしての充実度は相応に高い。

 背面の入出力は整然としており、超多機能ながら配線の煩雑さはない。トリガー出力があるのでパワーアンプとの連携も容易になっている。

 底面にはSSD増設用のスロットがあり、ネジを外せばすぐにアクセス可能。

運用

 大型かつ豪華なディスプレイ/タッチパネルによって機器本体でスムーズに操作が行えるとはいえ、何かするたびに本体に近寄ってさわさわするのはあまりに非効率かつ非現実的。ネットワークオーディオ機器である以上、あくまでも純正アプリ「Eversolo Control」を使うのが基本となる。

 Eversolo Controlの画面レイアウトはこんな感じ。左側のペインにずらりと項目が並ぶレイアウトは、ネットワークオーディオのコントロールアプリというよりもPCの再生ソフトのような趣。

 Eversolo Controlで行う(行える)操作は基本的にDMP-A8の全機能を網羅するが、

・本機に接続したストレージの音源を再生(ミュージックサーバーとして使用)
・外部サーバーの音源を再生(UPnP/DLNA対応のネットワークプレーヤーとして使用)
・ストリーミングサービスの音源を再生
・各種設定

 まとめるとこれらに集約される。

 なお、掲載するアプリのスクリーンショットは基本的にiPad Pro 12.9インチのもの。

ミュージックサーバーとして 

 アルバム表示。タイル表示が可能で視覚的な満足度は高い。ただしロマサガ3のサントラを見ての通り、「Disc」タグを用いたアルバムの統合には非対応。

 アーティスト表示。DMP-A8でなんらかのデータベースにアクセスしているらしく、アーティスト画像を拾ってきたりこなかったりする。

 ジャンル表示。

 以前はジャンル直下に該当する楽曲(DMP-A8では「シングル」と表記)がドバーッと表示されてしまい使い物にならなかったが、バージョン1.2.98でジャンル/アルバム表示が可能になり、実用性が著しく向上した。

音源ファイルの扱い方

 DMP-A8はミュージックサーバーとして、本体内蔵ストレージ・底面の増設SSD・背面に接続したUSBストレージのほか、NAS(SMB・NFS)の音源ファイルを扱える。

 エクスプローラーからIPアドレスを打ち込めば、内蔵ストレージを含むDMP-A8に直接接続されたストレージにアクセス可能。下のスクリーンショットの「Storage」が本体内蔵ストレージで、「88E1……」が背面に挿したUSBストレージ。

 内蔵ストレージの中身。DMP-A8がandroidベースの製品であることが透けて見える。

 内蔵ストレージは64GB(利用可能なのは50GB程度)あるので、暫定運用としてある程度の音源なら入れておける。ここではわかりやすく「Music」フォルダの中に入れてある。

 接続したUSBストレージの中身にもネットワーク経由でアクセスできるため、音源の出し入れのためにいちいち取り外す必要なく、NAS感覚で利用できる。ちなみにフォルダ名がBluesound云々となっているが、これはBluOS製品用に作ったライブラリがサイズ的にちょうどよかったから流用したためで特に深い意味はない。

 転送速度はスペック通りそれなりに出る。

 各種ストレージの中身はEversolo Controlの「ファイル管理」から直接再生もできるが、

 基本はDMP-A8のライブラリ機能を使うことになる。そのためには「ライブラリ」から音源のあるフォルダを選択・追加し、スキャンを行う。

 SMB・NFSもここから追加できる。NASが出てこないとなったら、私の場合は「ディープスキャン」で出てきた。

 音源ファイルの更新があれば、ハンバーガーボタンから「アップデート」または「再スキャン」で反映させる。

 
 なお、DMP-A8のライブラリ機能はデータベース化を行う際にフォルダ内の画像ファイルを優先するようで、画像ファイルが無い場合、音源にタグ付けされたアルバムアートを直接使わず、「わざわざタグを元に低解像度の画像ファイルを作って」それを使う、というトンチキな仕様がある。よって、アルバムアートの画質にこだわっている人は面倒だがfolder.jpgの完備が必要になる。

元々の音源フォルダ
たまたまこのアルバムについてはfolder.jpgを作っていれていなかった
DMP-A8のライブラリ機能で低解像度の画像ファイルが作られたの図

UPnP/DLNA対応のネットワークプレーヤーとして

 DMP-A8はUPnP/DLNAに対応しており、DLNAにおけるDMRとしても機能する。よって、本機のライブラリ機能を一切使わないのは非常に勿体ない気もするが、汎用のDLNA対応コントロールアプリと組み合わせ、DMP-A8を純粋なネットワークプレーヤーとして使うこともできる。リニアPCM384kHz/24bit・DSD256も問題なく再生できる。

 ただし、汎用コントロールアプリ代表としてfidata Music Appと組み合わせたところ、再生中の曲を設定もなしにリピート再生するなどバグと思しき挙動が散見され、はっきり言って常用に堪えない。これは明らかにDMP-A8側の問題である。

 ちなみにEversolo ControlからUPnP/DLNAサーバーを直接選択してブラウズ可能だが、アルバムの階層でアルバムアートが表示されない&タイル表示オプションもないという仕様で、使い勝手はいまいち、というか時代遅れ。

 ついでに、Eversolo ControlからUPnP/DLNAサーバーにアクセスしようとすると、そもそもAsset UPnPしか出てこない(私はTwonky ServerとMinimServerも常に同時に走らせている)。普及度を考えれば、Twonky ServerとMinimServerが使えないのは問題。

 そんなこんなでUPnP/DLNAの文脈で使うには色々と難点があり、DMP-A8のUPnP/DLNA対応ははっきり言ってオマケの域を出ていない。「DMP-A8はあくまでも本体のライブラリ機能を活かしてミュージックサーバーとして使ってね」という意思表示だろうか。

ストリーミングサービスの利用

 DMP-A8はオーディオファンにとって重要なTIDAL・Qobuz・Amazon Musicにネイティブ対応しており、特に違和感も問題もなくスムーズに使用可能。

 TIDALは言わずもがな安定しており、TIDAL Maxにも対応済み(再生画面から確認できる)。

 Amazon Musicもしっかりとタイル表示に対応しており、くわえてレスポンスはかなり良好。具体的にはTaktinaと同じくらいには良好。

Apple Music対応の実態

 DMP-A8の仕様には「Apple Music対応」とあるのだが、Apple MusicはTIDAL/Qobuz/Amazon Musicのように、サードパーティー製品と統合するような仕組みは基本的に用意されていない。なので「一体どうやって対応してるんだ?」と思ったが、蓋を開けてみれば、「DMP-A8はandroidベースである」という点が巧みに生かされていた。

 まず、DMP-A8とEversolo Controlには「同画面」という項目があり、これは本体ディスプレイの表示をそのままアプリの画面にミラーリングする機能である。

 そして、DMP-A8はandroidベースゆえに、本体機能以外にもアプリをインストール可能である(インストールしたアプリはEversolo Controlの「すべてのアプリ」にまとめられている)。もちろんApple Musicもインストール可能。

 これらを組み合わせると、「DMP-A8にApple Musicをインストールして動かし、それをEversolo Controlにミラーリングすることで外部端末からコントロールする」という仕組みが完成する。

 この場合DMP-A8はあくまで「6インチディスプレイのandroid端末」扱いなので、UIはタブレットに比べるとだいぶ制限されたものになってしまうが、それでも「Apple Musicをネットワークオーディオのスタイルで扱える」というのは実に画期的。

 かなりの力技……もとい、「なるほどその手があったか」と思わせる巧みな実装方法である。

ネットワークトランスポートとして

 DMP-A8はS/PDIF・USB・I2S出力のネットワークトランスポートとしても使用可能である。SFORZATO製品(ITF製USBモジュール)との接続で動作を確認した。

 ASIOドライバを使ってDSDネイティブがいけるPCとは異なり、DSDはDSD256まで。

 デジタル出力でもアレコレと設定が可能。

再生全般・プレイリスト/キューについて

 本体内蔵ストレージ・USBストレージともに、再生時のレスポンスは良好。リニア384kHz/32bitやDSD256といったハイレートの問題を再生しても挙動に不安定なところはない。ギャップレスやシークといった当然の機能も問題なし。

 プレイリスト(ここでは「一時的な再生曲のリスト」を指し、Eversolo Controlでは「再生キュー」と表記)のデフォルトの挙動は「ワンタップでプレイリスト全入れ替え&アルバム全曲登録&タップした曲から再生開始」という、ありがち、かつ要領を得ないもの。

 ハンバーグボタンからプレイリスト登録時の操作を選択できるが、ソースによって選べる操作が異なるという謎仕様。Amazon Musicにいたってはまともに機能していない。

ローカルの音源
TIDALの音源
Amazon Musicの音源

 この辺の仕上がりや柔軟性はLUMIN Appやfidata Music AppやTaktinaにまったく及ばないが、ローカルの音源とストリーミングサービスの音源を同一プレイリストに入れて再生すること自体は可能。ただしAmazon Musicの音源を含めるのは前述の謎仕様のせいで工夫が必要。

 あまり見かけない機能として、Eversolo Controlには「History queue」という項目が用意されている。プレイリストが入れ替わっても、それ以前に再生したプレイリストが最大4個まで履歴として保存されるというもので、即切り替え&再生可能。プレイリスト周りの使い勝手を補う方法としてそこそこ有用である。

USB DACとして

 運用上特筆すべき点はないが、とりあえずSFORZATO DST-Lacertaとの接続で問題なく機能することを確認。こちらもASIOドライバを使ってDSDネイティブがいけるPCとは異なり、DSDはDSD256まで。

Roon Readyデバイスとして

 DMP-A8はバージョン1.2.98でRoon Readyに対応した。

 RoonからDSD512も受けられる。

 ちなみにDMP-A8はリニアPCM768kHz/32bitに対応しているが、Roon経由だと384kHz止まりのようだ。まぁ実使用上の問題はないので、正直どうでもいいのだが。

CDの再生とリッピング

 DMP-A8は外付けのディスクドライブを接続してCDの再生とリッピングが可能である。

 「すべてのアプリ」からCDを選ぶと、本体のCD再生画面がミラーリングされる。

 ディスクドライブを認識して……

 再生とリッピングが可能になる。音源の情報が表示されているが、どこのデータベースから取ってきているかは不明

 リッピングの様子。フォーマットと保存先を指定してスタート。


 リッピング完了後はライブラリに追加される。今回試したPapa Grows Funkの『Live at the Leaf』に関しては、アルバムタイトルや曲名は取れたがアルバムアートは取れなかったようだ。

 CD関連の操作は再生もリッピングもおおむねスムーズに行えるのだが、リッピングしたファイルのタグはかなり歯抜けなので、あまり期待しない方がいい。

各種設定

 各種設定もすべてアプリから行える。機能は膨大だが、設定自体はスムーズに行えるように配慮が行き届いている。

 入出力設定。

 アナログ出力の「出力パラメータ」からDACフィルターの特性や音量可変/固定等を設定可能。

 DACフィルターの特性は6種類用意されている。お好みで。

 DMP-A8の再生機能やデジタル入力に対してはDSPを使用可能。


 デジタル出力にはEQを使用可能。こちらはDSPに比べて設定項目が減る。

 システム設定も色々。一部入出力と項目が被る。

音質

 音質の評価では「なるべくDMP-A8の機能を活用する」というのを基本とし、ボリューム調整は本機のプリアンプを活用する形とした。ちなみにDMP-A8のR-2Rボリュームは音量調整の際に「カチカチ」とハッキリした音を出し、「オオッちゃんとアナログボリュームが動いてんな!」という感覚を醸成する。

 本機の製品価格を考え、音質評価はリビングシステムで行った。再生環境はリビングシステムのレギュレーション上限(システムトータル100万円くらい)とし、プリメインアンプにNmode X-PM9(パワーアンプモード)、スピーカーにDynaudio Emit20を使用した。

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 ミュージックサーバーとして内部ストレージの音源を再生した場合でも、ネットワークプレーヤーとしてストリーミングサービスの音源を再生した場合でも、PCと接続してUSB DACとして使った場合でも、再生音はストレスのない広がりと、その広い空間を満たすだけの豊かな情報量、充実したエネルギー感の存在は共通して感じられた。音の輪郭描写はシャープさよりも滑らかな印象が先立つが、一音一音の分離はしっかりとしており、総じてエントリークラスの機器とは一線を画したオーディオのスリルも存分に味わうことができた。

 サーバーに同じものを使い、ネットワークプレーヤーとして手持ちのSFORZATO DST-LacertaiFi Audio NEO iDSD2の組み合わせ(約30万円)と比べると、DMP-A8は純粋な性能の追求よりも、より厚みのある、聴いていてリラックスできる再生音を志向しているように感じる。情報量といい解像感といい、じゅうぶんに価格を納得させる基本性能/音質を備えているのは確かだが、音源のディテールを殊更に深掘りするような傾向とは異なる。

 HDMI ARCを搭載している時点で、DMP-A8は突き詰めたピュアオーディオ用途だけでなく、リビングオーディオのような、もっとカジュアルなシステムでの活用が意識されていることは明らかだ。それを考えれば、このような音作りも納得ではある。

 そのHDMI ARCを使って、テレビ(LG OLED55C1PJB)の音もDMP-A8経由で再生してみたが、厚みのある音作りは基本的に薄いテレビの音を補う形でうまくハマっている。基本性能という点では同様の機能を持つBluesound NODEとはさすがにレベルが違い、映像鑑賞時にさらなる充実感を引き出すことができた。

 ただしARCとして使う場合、BluOS製品のように自動入力切替でテレビの音声に切り替わるといった機能はないので、テレビと組み合わせる際は手動で一手間必要になる。この辺の「行き届いてる感」はさすがにBluOSに軍配が上がる。

まとめ

 繰り返すが、これでもDMP-A8の機能を完全には網羅できていない。とんでもない製品である。

 ひとつひとつの機能に焦点を当てれば難点も見つかるが(特にローカル音源の再生)、膨大な機能を扱うための操作性は純正アプリのEversolo Controlを含めてよく練られている。「大量の機能を誇る一方で実際はまるで使い物にならない」といった懸念は感じられず、むしろ、貪欲に機能を詰め込みながらよくここまで完成度を高めたな、と感心する。

 また、先日行われたバージョン1.2.98のアップデート項目は多岐に渡っており、製品の改善に対するEversoloの姿勢にも期待が感じられる。もしこの調子でアップデートが継続されるなら、現状こそ「単機能に特化した製品には完成度で及ばない」という評価だが、「膨大な機能を備えつつ、各機能は特化型製品と同じレベルで洗練されている」という完成度に到達することも夢ではない

 
 2020年代、「純粋なネットワークプレーヤー」「純粋なDAC」はむしろ少数派となり、「ネットワークプレーヤーとしてもDACとしても、さらにプリアンプとしても使える」という複合型の製品がハイエンドの価格帯においても存在感を著しく増している。純粋に音質面で考えれば色々と思うところはあるものの、おそらくはこのような製品(どう呼ぶのが相応しいのか?)が、エントリーとハイエンドの両方で主流になっていくのだろう。

 まさにこうした流れのなかで、DMP-A8はそもそもが多機能であるこの手の製品ジャンルの中でもさらに究極的ともいえる多機能性で独自の輝きを放っており、真に「全部入り」という形容が過言ではない製品に仕上がっている。そしてもちろん、基礎体力としての再生品質も価格相応に優れている。先述したように、「極めて多彩な使い方が可能」という点こそがDMP-A8の魅力であり、必要と好みに応じて様々な機能を使いこなすことができれば、他の製品とは一味も二味も違う縦横無尽な活躍が期待できる。
 
 

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