夕刻、香具山の麓を過ぎて明日香に入った辺りで田んぼから煙が上がっていた。すりぬかを焼く煙だ。米の籾殻のことをすりぬかと言う。これを焼き真っ黒になったものを保存しておき、種を蒔いた上からかぶせるのに使った。肥料としても使われるのだろう。晩秋から冬にかけて、昔は何処でもよく目にした光景だ。母の帰りが気になったが、小山の民家をバックに数カット撮らせてもらった。どことなく懐かしさが漂う風景になった。
日々の生活の中で忘れてしまうことが多い。過去の思い出の中でしか出会えぬものが増えた。回り道がめんどうになり、さっさと最短距離で結んでしまう。曲がりくねった行程のなかで得るものがいかに多かったか、焼けていく籾殻を見ながら思った。