スマッシュヒットした「のだめカンタービレ」の作者である二ノ宮知子さん。彼女が次回作として出したテーマがオーバークロックという話を聞いたとき、正直耳を疑った。「天才ファミリーカンパニー」や「GREEN~農家のヨメになりたい~」など、ずっと少女マンガのフィールドで活動を続けていた作家が少年誌に移り、彼女は何を描こうとしているのか。ASCII.jpとしても、テーマが自作PCということで、ぜひとも話を聞いてみたいと思った。
今回のインタビューでは、作者の二ノ宮知子さんとともに、作品の監修を務めているduck氏にも同席を願い、この作品に込めるテーマを伺った。duck氏はオーバークロックの世界では誰でも知っている有名人。ASCII.jpでも何回かオーバークロックデモの様子をお伝えしたことがある。まずはなぜこのオーバークロックというものを作品のテーマとして選んでいったとのかということからお話を伺っていこう。
液体窒素が普通に食卓にある世界
それがおもしろかった!
――現在「ジャンプ改」で連載されている「87CLOCKERS」ですが、オーバークロックという、ものすごくニッチなネタにあえて突っ込んでいったなぁ、というのが正直な感想です。まずはこの題材を選ばれた理由を教えてください。
二ノ宮:「のだめ」にリアル“のだめ”がいたように、「87CLOCKERS」にも“duck”さんがいたということがすべてなんです。
――ものすごく接点がないような気がするんですが、いったいどこで知り合われたのです?
二ノ宮:duckさんはもともと旦那のバンド仲間で、それで昔から知っていたんです。うちの妹が彼の追っかけをしていたりとか(笑)。
――えっ、マジですか! パートは何を?
duck:ギターです。
二ノ宮:旦那がドラムで。
――それでこのネタに行くっていうのは結構英断だと思うんですが……。
二ノ宮:久しぶりに会って「今、何しているの?」って聞いたら、「オーバークロックやってる」という話になりまして。「何それっ?」って説明を受けていたら興味がわいてきまして(笑)。こう言っちゃなんだけど、聞いているうちに、なんか面白いというか可笑しいな、って思って(笑)。最初はよくわからないから、あのぉ、海の中でアイロンかけをやって何か競っている人たちがいるじゃないですか、ギネスに登録しているような。それくらいニッチな感じがしたんですよね。その後、それよりは全然メジャーだと気づきました(笑)。
聞いているうちに、日本でただ1人がやってるんじゃなくて、その先に世界があって、競い合う相手がいて、思ったより世界が広がっていく感じがすごくワクワクして面白いなと思いました。まさに漫画みたいじゃないですか(笑)。私、「のだめカンタービレ」の時もそうですけど、話聞いたり、本人たちに会っておもしろいと思うことをいつも描いているだけなんです。そういう意味ではいつもと同じことをしているんですけど。
――実際に描いてみてどうでしたか。
二ノ宮:話を聞いていて、私が面白いなと思った部分をうまく出せていいけたらいいなと思いながらやっているんで、まだ試行錯誤のところがいっぱいあるんですけど。duckさんに手とり足とりオーバークロックを教わりながら描いています。
――液冷やっているところとか出てきますけど、あれって実際に目の前でduckさんがやられているのですか?
duck:毎回はやらないけど、一緒にやってるところ見たりしていますね。何話かに1回くらいの割合ですけど、作戦会議をやる時に実際に二ノ宮さんにやっていただいています。基本的なことは全部自分でできるようにと。
二ノ宮:ちょっと、やらせてもらったくらいですけどね。
――やってみてどうでした。液体窒素を扱うなんて機会、世の中にそんなにないですよ。
二ノ宮:duckさんのところに行くと、液体窒素がキッチンとかに置いてあって「はいよ!」みたいな感じで出てくるのがすごく可笑しくて(笑)。「お茶です」みたいに出てくるんですよ(笑)。「お茶ないけど、液体窒素はあるよ!」みたいな感じですよね(笑)。
――窒素冷却って、マザーボードに筒が取り付けてあって、バラック状態のものに、だーっと液体窒素を入れて、少しずつ調整していくじゃないですか。実際、言うとおりにやってみて、オーバークロックに成功しました?
二ノ宮:何かを成功させるというレベルじゃないんですよ。入れてみる、やってみるという、本当に見るというレベルで。
duck:こんだけ入れたら温度がこうなるよ、とかですね。普通の人は液体窒素に触らないんで、ちょっと手をつけてみて、とか。危なくないんだよ、って。肌にかかってもそんなに危なくないし。
――それ、漫画の中では言えないですよね。
duck:言っていいんじゃないですかね。大丈夫ですよ。10年以上100リットルの窒素を気化させながら六畳一間の部屋でやってきたんで(笑)。正確な知識があれば、危険なことはないですよ。まあ、車の中とかせまい密閉空間では危ないですけど。
二ノ宮:それを言ったら、漫画に練炭描いたらって怒られるのと一緒で。
duck:包丁を描いたからとか、使い方を間違えると、とか。車だってそうですよね。
――私が最初に液体窒素冷却を見たのって海外だったんです。オーバークロッカーが台湾のTAIPEI101の上の方の階でマザーの液体窒素冷却のデモを行なったあと、最後に「It's a chinese Power!」とか言って液体窒素を素手に注ぐんです(笑)。もう周りの記者はヤンヤヤンヤの大盛り上がりで(笑)。
二ノ宮:そういうの聞いていると面白くって、描きたいなって思うんですよね。
――インパクトが強いから漫画にしても面白いですよね。
二ノ宮:自分が聞いていて、何それってゲラゲラ笑うところを漫画でも笑いながら見てほしいし。新鮮じゃないですか、知らない世界って。オーバークロッカーって世界中にいるっていうのも魅力だし。
――最初、読者の反応はどうですか。
二ノ宮:単行本が出て、いろんな感想をいただきましたけど、「え、そこ?」って反応はありましたね。
duck:反応は連載が始まった時に来ましたね。メディアでお付き合いしてる人には監修しているとかくらいしか言ってなかったんですけど、読んだ人に「あれ、お前の部屋まんまじゃないか!」とか突っ込まれました(笑)。
二ノ宮:微妙に背景は違いますけど、だいたい同じような感じですよね。
――作中に猫が出てくるんですが、実際にいるんですか?
二ノ宮:いるんです。
duck:まあまあ、ご想像にお任せで。今日、こういう話するのが初めてですから。普段は聞かれても言わないです。この前Galaxyさんのメディア発表会の際、コミックス発売の告知をしようと急遽フライヤーを作っていただいた以外、ちゃんと告知はしていないですからね。