名作『ご飯は私を裏切らない』のheisoku先生による、
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定時制夜間部を舞台にした学校日常もの。
定時制・通信制の高校が舞台、というと近年の漫画作品だとこれとか、
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あとこれの「探偵とナズナの過去編」とか。
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もちろん漫画作品ですし、現実は趣味で運営されていたり、趣味で通ったりするものではないんですが、「夜間部の高校」の持つ空気感というか「夜感」、ちょっと良いですよね。
あとがきによると本作の作者の経歴も「定時制夜間部の高校を中退」、「学校そのものは楽しかった」と書かれているので、なにか「学校以外」が原因で中退に至ったんだろうと察せられます。
日常エッセイ風だった『ご飯は私を裏切らない』に接続される、どこか作者や当時のクラスメイト達をモデルにした私小説・エッセイであるんだろう、という印象を受けます。
春あかね高校定時制夜間部には、コミュ症、中学での不登校、元ホスト、精神病治療中、など、それぞれの生きづらさを抱えていたり、生きづらさを抱えていないように見えたりする、いろんな生徒がいて、割りと楽しく仲良く過ごしている。
あらすじ的には以上で、内容はほぼ日常コメディエッセイと言っていい、楽しい作品。
ただし、それぞれの生徒が抱えたコンプレックスや将来への漠然とした不安が表裏一体でのしかかりつつ、その不安な将来に対するモラトリアム空間にもなっています。
程度の差こそあれ、コンプレックスや将来への漠然とした不安は大人になっても誰にでもあることなんですけど、作中の生徒たちはそれぞれ、作中の言葉を借りれば「中央値から外れた」事情を抱えていて、本作で彼女たちの生きづらさが劇的に解決されることもなく、「明日」に続いて作品は終わります。
それはまあ、作者自身もそうなんでしょうし、自分もそうです。生きてる間は。
そういう意味で「広義のカタルシス」に欠ける代わりに、「原義のカタルシス」漫画でもあろうかと思います。
ただ、思うに「不幸」を構成する要素の一つに
「幸福をそれと感じられない精神状態」
があるんですが、彼女達は少なくとも「日々の大小の幸福をそれと感じられる感受性」がちゃんとあって、それが生活や人生における救いになっている様子が、丁寧に描かれます。
描かれなかった未来の中で、彼女達の中には作者と同じく高校を中退する者も出てくるかもしれませんし、その後漫画家になって自分の経験を素晴らしい作品に昇華して発表する者もいるかもしれません。
願わくば、彼女達と、作者と、私が、モラトリアムを過ぎたその先も「日々の大小の幸福をそれと感じられる感受性」を持ったまま生きていけますように。
劇的な何かが起こることがない代わりに、彼女達に対する作者の視線がとても優しくて、読んでいてなんだか泣きそうになる。
今作も素晴らしかったです。
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