表紙だけ見るとヒロインの顔の造形が「堕天作戦」っぽいけど、本編はまた違う顔。
中1で登校拒否、16歳でフリーターを始め、バイト3つを週7で掛け持ちするヒロイン。
社会に馴染めず、どの職場でも能力不足を痛感し、自己肯定感が低く、将来に不安を抱える、そんな彼女の唯一の安らぎは、味覚と感受性を刺激し眠くなる生理現象も引き起こす、食事だった。
という、アラサーフリーターガールのちょっと鬱めな日常グルメもの。
・タバコのキャンペーン販売ガールといくらトースト(和風)
・チョコレートの試食販売とチョコレートドリンク
・チラシ配りとローストビーフ丼
・日雇い派遣の倉庫の軽作業とおにぎり。あと冷凍梅干し
・花火大会の撤収作業とおつまみキャベツ、キャベツとチーズのホイル焼き
・駐輪場の管理人とハンバーガー
・チラシ配りとレトルトおかゆのアレンジ
・キッズスペースの運営スタッフとアジの解剖、のちに塩焼き
・はじめてのバイトの辛い思い出とカレーうどん
・分業で大量のもやしに何かをする仕事とニューコンミートのマリネ
・フユサンゴの思い出といくらの軍艦巻き
不安から目を逸らすような彼女の思索は、人生、生命、自然の摂理にまで羽を広げる。彼女の叶わない夢はアメリカギンヤンマになって当て所のない旅に出るか、人間を捕食する生物に捕食されること。
敬虔さより生命をいただくことの支配感、あるいは自分をロボットに見立てた上での燃料扱いなど、食事をすることの病的ながら根源的なカタルシスを赤裸々に。
作品のテーマや、主人公以外の主要キャラがいない点、セリフがほとんどなく主人公のモノローグが大半を占めるところは「鬱ごはん」っぽいですが、こちらは美味しそうにご飯を食べる作品。ヒロインの思索が詩的に彷徨う様はちょっと岡崎京子を連想させます。
不安や憂鬱と戦うというより触れないように逃避しながら、糧を得るための日々の労働と癒しとしての食事を繰り返す彼女の日常。
おまけ漫画に「派遣の控え室」と題した彼女の雑談必勝法ショートショートが載ってますが、「お前、喋れるやん!」「喋ったら面白いやん!」ってなるw
彼女は人を励ますために生きてるわけではないのでこっちが勝手に感じることですが、ダメ人間あるあるに共感しつつ、「がんばれ」とか「応援したい」とかよりも「俺も頑張ろう」ってなる。
読者に名前すら明かされることのなかった彼女が、いつか北海道に行けたら良いと思う。
aqm.hatenablog.jp
(選書参考)
b.hatena.ne.jp
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