人生悲喜交々、とにかく瀧波ユカリに相談だ(3) - &Sofaの読みもの

人生悲喜交々、とにかく瀧波ユカリに相談だ(3)

『わたしたちは無痛恋愛がしたい』第4巻発売記念のお悩み相談コラム第3弾!  

 

「お前」と呼んでくる息子について

 

中学校2年生の息子との関係性に悩んでいます。

私のことを「お前」と呼んでくるのです。夫に対しては普通に接しており、それも腹立た
しくて仕方がないです。あまりに腹が立つので、私もついつい余計なことを言ってしまい、関係は悪くなるばかりです。反抗期の時期とはいえ、度が過ぎていると思うのですが、どうしたらいいのでしょうか。

(K・50代)

 

Kさん、ご相談を送っていただきありがとうございます。
子が親を「お前」と呼ぶ…アリかナシかで言えばもちろんナシだし、私もそう呼ばれたら絶対に頭にきてしまうと思います。ただ、この情報のみで「こう対処すればよい」とアドバイスするのはむずかしいなとも思っています。「お前」のあとにどんな言葉が来るのかも、合わせて考える必要があるような気がするのです。

たとえば、わかりやすくするためにちょっと極端な例を出しますが、子が親に向かって
「お前、今日の晩ごはんはずいぶんおいしいじゃないか。いつもありがとう」と言っていたら、この「お前」はおふざけや照れ隠しの可能性もあるわけですよね。もしこうした類の「お前」であれば、「その呼び方は好きではないからやめてほしい」と繰り返し伝えていけばいいのだと思います。

でもそうではなく、「お前」という呼びかけのあとに敬意のない言葉や態度が続いているとすれば、呼び方は問題の一部分にすぎません。問題の全体をとらえて言い表すならば、「見下し」。Kさんを悩ませているのは息子さんからの「見下し」ではないでしょうか。

私は、すべての人間関係は対等であるべきだと思います。年齢差、経験差、立場の違いがあったとしても、互いに人と人であるという原則を忘れず、敬意を持って接する努力が大切だと思います。なぜなら、互いにその努力を続けている時にこそ、両者の間に信頼という繋がりが育つからです。

一方で、片方がもう片方を見下すような関係において生まれるのは、痛みです。敬意を示さないこと、ばかにするような態度を取ること、意思を軽んじることは、相手を深く傷つけます。だから人は人を見下してはいけないのです。

しかし人はこの「見下し」を、実に軽はずみにやってのけます。相手にぞんざいな態度を取るだけで自分が強くなったような気持ちになり、快感さえ覚えることもあります。息子さんだけではなく、私もKさんも、およそ人間であればだれしもやってしまう可能性があるものです。人間の業だと言えるでしょう。


そして厄介なのは、見下されたほうは往々にして混乱し、何が起きているのかをなかなか認識できないことです。「見下されている」という事実自体が辛いものなので直視が難しいし、自分が傷ついていることすら気付けないこともあります。もしかしたらKさんも、今はそういう状態なのかもしれません。「呼び方に腹が立つ」という捉え方は一面的なもので、「見下されて悲しい、傷つく」という気持ちもお持ちなのではないでしょうか。

だとしたら、「ああそうか、自分は息子に見下されていて、傷ついているんだ」と認識することで、今のどうすればいいかわからない状態からは一歩進むことができると私は思います。なぜなら、認識を持てれば自分の中で整理ができるし、人に説明することもできるからです。

たとえば、夫さんや身近な人に「息子にお前と呼ばれることで悩んでいる」と話しても、きっとKさんの傷つきは伝わらないと思うんです。だれかが間に立ったとしても、息子さんに「親をお前と呼んではいけない」と注意するにとどまってしまうでしょう。

しかし「息子に見下されていて、傷ついている」と話せば、Kさんの傷つきも、起きていることの重大さも、より深く伝わるはずです。息子さん本人に「見下すのはやめてほしい、傷つくから」「どうして見下すような態度を取るのか教えてほしい」とアプローチすることもできます。

人を見下してはいけないと教えることは、人権教育です。また、見下しを叱るのではなく「傷ついた」と伝えて息子さんになぜそうするのかと問うことは、対等なコミュニケーションです。難しい時期ではあるけれど、教育もコミュニケーションも先送りにするよりは、少しずつでも進めたほうがよいでしょう。信頼関係を築きたいという気持ちで、息子さんへのアプローチを模索してみてください。

そしてなにより、Kさんが傷ついた気持ちをお持ちなら、私はそれが癒えることを願ってやみません。いつか息子さんが、自分の態度を省みて「ごめんね」と言うことができて、Kさんの心が落ち着きますように。応援しています!

 

次回の更新をお楽しみに!

瀧波ユカリ

瀧波ユカリ

漫画家。札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフ リーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。現在、 『わたしたちは無痛恋愛がしたい』 を連載中。そのほか、「ポリタスTV」にて、「瀧波ユカリの なんでもカタリタスTV」にも出演中。