正倉院: 新古代史の散歩道
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国家珍宝帳2023年08月05日 14:05

国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう,List of rare tresures of the state )は光明皇后が聖武天皇の遺品を東大寺大仏に献納した際の目録である。

概要

756年(天平勝宝8年)6月21日の聖武天皇の七七忌に法会を営み、勅願寺の東大寺の廬舎那仏に聖武天皇遺愛の品を献納して納めた宝物の目録である。正式名は「天平勝宝八歳六月二十一日献物帳」であるが、「国家珍宝帳」と呼ばれる(参考文献1)。

形状

軸端は白檀の撥形である。本紙部分は白麻紙を用いる。巻末に先帝の追福を願う跋文と「天平勝宝八歳六月二十一日」の日付が記載され、藤原仲麻呂、藤原永手、巨萬福信、賀茂角足、葛城戸主の官人の署名がある。墨界は薄い墨で引いた罫線である。企画立案事務は、皇后宮職を改組した紫微中台が担当した。藤原仲麻呂は紫微中台の長官であり、巨萬福信、賀茂角足、葛城戸主は次官である。藤原永手は侍従であった。 目録に記載された宝物は600点以上にのぼる。白麻紙と称する上質紙十八張を張り付いだ、縦25.8cm、横1474.0cmの長大な巻子である。楷書体で記された墨書の上に、一辺8.7cmの天皇御璽の印が料紙全体に三段ずつ押される。白檀の撥型軸に白麻紙を継いだ本紙に唐風の楷書を丁寧に書き、その上に「天皇御璽」印を489か所に捺印する。

構成

巻頭に皇太后の願文を書き、以下、御袈裟、御帯、牙笏、弓箭、刀剣、書法、楽器など六百数十点を列挙する。現存するものはそのうち百余点である。 通称は願文にある「国家の珍宝等を捨す」に由来している。 巻末に藤原仲麻呂、藤原永手、巨萬福信、賀茂角足、葛城戸主がそれぞれ自書する。

書体

国家珍宝帳に記された文字は端正な楷書体とされている。しかし、堀江知彦は王羲之系統の書体の影響によるものと、特異な右払いを含む楷書体の2通りがあると指摘している。唐において最新の様式であった顔真卿初期の書体の影響を国家珍宝帳が受けていることを指摘されていた。書道史研究者の魚住和晃・神戸大学名誉教授は「国家珍宝帳」は王羲之の書法を極めた欧陽詢から唐代の新派につながる書法で書かれていると指摘する。

管理概要

  • 名称 - 国家珍宝帳
  • 管理番号:北倉 158
  • 形態:紙本 墨書
  • 用途 : 書蹟・地図
  • 技法 : 紙
  • 寸法 : 本紙縦25.9cm 全長1474cm 軸長29.3cm
  • 材質・技法 : 本紙白麻紙18張 墨書 朱印 軸端は白檀 軸木は杉

出展歴

  • 名称:国家珍宝帳
  1. 1956年 - 第10回
  2. 1966年 - 第19回
  3. 1981年 - 特別展『正倉院宝物』(東京国立博物館)
  4. 1990年 – 第42回
  5. 2006年 - 第58回
  6. 2019年 - 正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―(東京国立博物館)

参考文献・注

  1. 藤田経世編(1972)『校刊美術史料 寺院篇 中巻』中央公論美術出版
  2. 奈良国立博物館編(2019)正倉院学術シンポジウム「宝物のはじまりと国家珍宝帳」思文閣

檜和琴2023年06月22日 10:22

檜和琴(ひのきのわごん, Japanese cypress Wakoto)は正倉院に収蔵されている木製の日本固有の六絃の琴である。

概要

和琴は「大和琴」(やまとごと)、「東琴」(あずまごと)「倭琴」(やまとこと)とも言われる。神社で使用される和琴は、弥生時代から檜、杉、高野槙等を使用していたとされる。

由来

神楽や雅楽などで用いられ楽器であったという。古墳時代の埴輪の弾琴像や埴輪に描かれる琴は、四絃または五絃で、六絃のものはない。近畿地方から出土した埴輪の琴も五絃である。和琴がいつから六弦になったかは不明である。

古事記の琴

古事記に「爾握其神之髮、其室毎椽結著而、五百引石取塞其室戸、負其妻須世理毘賣、卽取持其大神之生大刀與生弓矢及其天詔琴而、逃出之時、其天詔琴、拂樹而地動鳴。」 (大意)其の妻の須世理毘賣(スセリビメ)を背負うとすぐに、取持其大神の生大刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)と其の天の詔琴(のりごと) を取って、逃げ出す時、其の天の詔琴が樹に触れて、地が鳴動鳴した。 (意訳)大穴牟遅は須佐之男の髪を束ねて部屋の太い柱に結びつけ、巨大な岩で部屋の入口を封鎖し、妻の須勢理毘売を背負い、神宝の大刀・弓矢・天の詔琴を手にして逃げ出そうとしたところ、詔琴が樹に触れ、大地が揺れ動ごき轟音が響いた。須佐之男は気づいて起き出した。 神代の三種の神器は、太刀・弓・琴だったようだ。このような忙しい場面で琴を持ち出そうとしている。

構成

槽に檜材を使用し、上面は金銀泥で麒麟、鹿、尾長鳥、草花などを描く。周縁には金泥・銀泥で模様を描いた玳瑁を張り、竜頭・竜尾にも玳瑁を張る。緑地の玳瑁は後補である。竜頭・竜尾の玳瑁は、予め型を作りはめ込んでいる。側面は彩画を施した玳瑁と金箔を裏から押した玳瑁を交互に貼り付ける。彩画のものは直接、朱・緑などで文様を描く(参考文献1)。

類例

時代は下るが、彦根城博物館の和琴は六弦である(参考文献2)。

材料

槽・磯は檜材である。

展示歴

  1. 1949年 - 東京国立博物館、御物特別展
  2. 1952年 - 第6回
  3. 1967年 - 第20回
  4. 1984年 - 第35回
  5. 1997年 - 第49回
  6. 2013年 - 第65回

管理

  • 名称 :檜和琴
  • 倉番 :南倉 98
  • 用途 :楽器・楽具
  • 技法 :木竹工
  • 寸法 :全長156.0cm,頭部幅17.0cm,尾部幅13.5cm(注:参考文献1では全長156.0cm,厚さ4cm,尾部幅17cmとなっている(p.16)。)
  • 材質:槽・磯は檜 裏板は環孔材 栢形・櫛形は紫檀貼 金銀泥絵 金箔 玳瑁 金銀細線 螺鈿 木画(黄楊木・紫檀・黒檀) 象牙

参考文献

  1. 内田至(1991)「正倉院宝物の海ガメ摂収集調査報告」正倉院紀要13号
  2. 松本重行作「和琴 銘葵」南北朝時代 永徳元年(1381),井伊家伝来資料

菩提子誦数2023年06月13日 21:40

菩提子誦数(ぼだいしじゅず,Rosary)は正倉院に保管されている木製の数珠である。

概要

木の実で咸珠108枚が作られている。留め金具は金銅製で、紐は後から補修したものである。菩提子は菩提樹の実である。しかし木の実が実際に菩提子ではなく、シナノキ屬(Tilia)の1種の果実の核である。『大安寺伽藍縁起幷流記資財帳』に菩提樹で作った誦数一貫の記載がある。ボダイジュ、シナノキ、ヘラノキもシナノキ屬である。

展示歴

  1. 1961年 - 第14回
  2. 1977年 - 第30回

管理

  • 名称 :菩提子誦数 第20号
  • 倉番 :南倉 58
  • 用途 :仏具
  • 技法 :木製品
  • 寸法 :周囲長 88.0cm
  • 材質:

参考文献

  1. 奈良国立博物館(1977)『正倉院展目録』奈良国立博物館
  2. 嶋倉巳三郎,村田源(1981)「正倉院宝物の植物材質調査報告」正倉院紀要第9号,p.8

水精誦数2023年06月13日 21:39

水精誦数(すいしょうじゅず,Crystal Rosary)は正倉院に保管されている水晶製の数珠である。

概要

数珠は誦数、念珠とも書かれ、一定の数の珠を紐に通して、称名や陀羅尼などを念誦する際に、その数を数えるために用いる。母珠1枚、咸珠108枚、記子10枚、記子留枚のすべてが水晶製となっている。数珠の数は、108珠が基本となる。

東大寺献物帳

東大寺献物帳には百済王義慈が献納した宝物に「純金念珠 一具、白銀 念珠 一具、瑪瑙念珠 一具、水晶念珠 一具、虎魄念珠 一具、真珠念珠 一具、紫瑠璃 一具」との記載がある。そのうちの水晶念珠 一具の可能性がある。

水精誦数

正倉院には水精誦数は第15号、第16号、第17号、第18号、第19号の5種類がある。

展示歴

水精誦数 第15号

  1. 1992年 - 第44回

水精誦数 第16号

  1. 1954年 - 第8回
  2. 1977年 - 第30回

水精誦数 第17号

  1. 1961年 - 第14回

管理

  • 名称 :水精誦数 第16号
  • 倉番 :南倉 57
  • 用途 :仏具
  • 技法 :石製品
  • 寸法 :周囲長 81.0cm
  • 材質: 水晶

参考文献

  1. 成瀬正和(1986)「石製宝物材質調査」書陵部紀要 第8号 年次報告,p.76

御袈裟箱袋2023年06月13日 21:38

‘'御袈裟箱袋''(おんけさのはこのふくろ,Wrapper for a Kesa Box)は正倉院に収蔵されている御袈裟箱を包む布袋である。

概要

臈纈で霞襷・魚鳥文を染めた長方形の袷裂を、筒状に縫いつける。表に霞襷魚鳥文﨟纈絁、裏に浅緑絁を用い、それぞれ二幅ずつ継いで袷にし、風呂敷風に四角にして、対角を折り返して、縫い綴じる。熨斗形の形状であり、両口があいているため、箱を一方の口から差し入れ、両方の開口部をたたむと、袈裟箱を包むことができる。

展示歴

  • 御袈裟箱袋
  1. 1956年 - 第10回
  2. 1965年 – 第18回
  3. 1983年 – 第35回
  4. 2006年 – 第58回

管理

  • 名称 :御袈裟箱袋  第1号
  • 倉番 :北倉 1
  • 用途 :収納具
  • 技法 :染織
  • 寸法 :縦144cm,幅102cm
  • 材質:緑臈纈絁 裏は黄緑絁

参考文献

  1. 奈良国立博物館(2008)「正倉院展60回のあゆみ」奈良国立博物館

最勝王経帙2023年06月13日 21:37

‘'最勝王経帙''(さいしょうおうきょうのちつ,Sutra Wrapper for the Golden Splendor Sutra)は正倉院に収蔵されている経巻を巻いて束ねた帙である。「織成最勝王経帙」ともいう。

概要

帙は書物を保護するために包みこむ覆いである。「最勝王経」は仏教の経典の一つで、金光明最勝王経のことである。経巻を十巻まとめて保管するための長方形の包みである。 「天下諸国毎塔安置金字金光明最勝王経」「依天平十四年歳在壬午春二月十四日勅」の文字を編み表す。紫紙金書金光明最勝王経十巻を収めていた。本品は東大寺に金光明最勝王経を奉納したときに使われた包みと推測される。 続日本紀には国分寺設置の勅は天平十三年三月十四日とし、類聚三代格、政事要略、院蔵の勅書銅板には天平十三年二月十四日と書かれており、以前から発勅の年次に議論があった。喜田貞吉博士、竹内理三博士は本銘をもってもっとも正しい年次とした。しかし帙銘だけで多くの資料を否定することは不合理である、とする説もある。 経典は天平十二年、天平十三年からはかなり降って製作されている。帙も同様と推測される。時代が下った製作段階で年次を1年間違った可能性もある。

構成

竹ひごを緯の芯とし、紫と白の絹糸を捩り編みみし、文様と文字を織り出す。裏の中ほどに巻子を括るための内帯を縫い付ける。縁の一端に山形の帙帯を付け、そこに外帯を取り付ける。文様は迦陵頻伽(かりょうびんが)を葡萄唐草で囲んだ円文を主文とし、これを二つ並べて、その間に覗花文を並べる。

材質

竹と絹。竹帙の本体部に縁裂や裏裂を付ける。

展示歴

最勝王経帙

  1. 1947年 - 第2回
  2. 1964年 – 第17回
  3. 1974年 – 第27回
  4. 1980年 – 『東大寺展』(東京国立博物館)
  5. 1994年 – 第46回
  6. 2006年 – 第58回
  7. 2017年 – 第69回

管理

  • 名称 :最勝王経帙
  • 倉番 :中倉 57
  • 用途 :文房具
  • 技法 :木竹工
  • 寸法 :縦30cm,横53cm
  • 材質:竹ひごを絹糸(白・紫)で編んだもの、縁は黄地錦、裏は緋綾 帯・山形は表黄地錦、裏緋綾 組紐帯、内帯は緋綾

参考文献

  1. 松嶋順正(1980)「銘識より見た正倉院宝物」([正倉院年報]2号 p.31
  2. 奈良国立博物館(2008)「正倉院展60回のあゆみ」奈良国立博物館

七条褐色紬袈裟2023年06月13日 21:36

‘'七条褐色紬袈裟''(しちじょうかっしょくのつむぎのけさ,Priest's robe in seven strips of brown pongee)は正倉院に収蔵されている聖武天皇が使用した袈裟である。

概要

国家珍宝帳所載の品である。袈裟は『国家珍宝帳』の筆頭に掲げられており、仏教に深く帰依した聖武天皇の信仰を伝える宝物である。 中国密教の祖である金剛智三蔵(741年没)が使用した袈裟である。名称は「紬」であるが、黄褐色に染めた羅製である。

構成

展示歴

  1. 1983年 – 第35回
  2. 1997年 - 第49回
  3. 2015年 - 第67回

管理

  • 名称 : 七条褐色紬袈裟 第2号
  • 倉番 :北倉 1
  • 用途 :服飾品
  • 技法 :染織
  • 寸法 :幅297cm, 縦144cm
  • 材質:褐色羅(表・裏) 畔・縁は共裂

参考文献

  1. 奈良国立博物館(2008)「正倉院展60回のあゆみ」奈良国立博物館