人気のキーワード
★隙間時間にコラムを読むならアプリがオススメ★
今年もクリスマスの時期がやってきました。クリスマスはご存じの通り、イエスの誕生を祝うキリスト教の祝祭の一つです。私たち日本人もこれに便乗。チキンを食べたりプレゼントを選んだり、家族や恋人と聖なる夜を満喫します。
ではこのクリスマス、イスラム教徒はどうしているのでしょうか?今回はイスラム教徒と国際結婚していた私が伝えるイスラム教徒とクリスマスです。
前回の記事はこちら
Lucia Travel連載一覧はこちら
イエスは馬小屋で生まれたことで有名ですが、ではその馬小屋がどこにあったのかはご存じですか?馬小屋で生まれたイエス。その生誕の地は、イスラエルのベツレヘムにあります。当然ながらベツレヘムはキリスト教の聖地になっており、毎年この時期には盛大な祝祭が行われます。
でも今年のベツレヘムは静かなまま。クリスマスを祝う雰囲気はありません。理由はもちろん、イスラエル軍によるパレスチナの壊滅的な攻撃。民家だけでなく病院、学校、避難所が攻撃の的となり、僅か2ヵ月足らずで2万人に近い死者がでています。
ガザ地区は今、埋葬布に包まれた遺体の山であふれています。山の中には、子どもサイズの遺体もあちこちにあり。中には赤ちゃんの姿も…。昨日は生まれたその日に、両親と共に殺された新生児の遺体がBBCで流れていました。イスラム教徒が圧倒的に多いガザですが、キリスト教徒も犠牲になっています。
こんな状況でクリスマスをお祝いできる訳がない。ベツレヘムに住むキリスト教徒たちはそう考えているようです。
かつて私が結婚していた相手はイスラム教徒でした。この時期によく質問されたのが
「クリスマスってどうするの?」です。
「イスラム教だからクリスマスはなしだよね」と、クリスマスがない前提で話を進められたこともあります。
また、結婚した最初の年には友人から謝罪を受けました。その友人は、12月の半ばにステキなクリスマスカードを送ってくれたのですが、年の瀬には「本当に悪い事しちゃって、ごめんね。イスラム教徒はクリスマスなんてしないよね。無知だったごめん。嫌がらせだって思わないでね」と謝りのメールをもらいました。
私に謝罪してきた友人は、職場でこんな会話をしたそうです。
「国際結婚した友人にクリスマスカードを送ったんだ。今まで年賀状しか頭になかったけど、クリスマスカードも良いものだよね」
「ステキだね!外国人と結婚したらクリスマスも本格的でしょ?」
「よく分かんないけど、相手はイスラム教徒だから教会に行ったりはしないんじゃないかな?」
「えー!イスラム教徒はキリスト教と仲悪いよね?そんな人たちにクリスマスをお祝いするカードなんか送ったらダメだよ。クリスマスってイエスが生まれた日なんでしょ?絶対にダメなんじゃないの?カードなんか送って大丈夫?謝った方がいいんじゃない?」
そして謝罪へ繋がりました。
でもご存じですか?キリスト教とイスラム教、そしてユダヤ教は兄弟のようなもの。物凄く簡単にいえば旧約聖書までは同じでそこから枝分かれをしているだけなんです。
特にイスラム教徒たち。誤解されがちですがイスラム教は、キリスト教やイエスを受け入れている部分が多々あります(全部を受け入れている訳ではありません!)。しかしユダヤ教は別。ユダヤ教はイエスを救世主として認めてはいません。それどころか、異端者として拒絶しています。だから、クリスマスを祝うこともしません。
それなのになぜか日本では、イスラム教だけがクリスマスを嫌うという謝った認識が、浸透してしまっています。
結婚している期間、私たちは毎年クリスマスをたっぷり楽しんでいました。美味しい料理やケーキを食べ、プレゼントを贈り合う。ツリーや讃美歌こそ登場しませんが、私たちが楽しむクリスマスは、日本人が楽しむクリスマスのそれと大差ないものでした。
また、私はカトリックの教育を受けて育ったので習慣として、聖夜にはクリスマスミサにも参加していました。ミサへの参加を夫にとがめられることもありませんでした。いわゆる一般的なクリスマスを過ごしながら、いつも思っていました。
「なぜイスラム教徒=クリスマスはNGと誤解されているんだろう?」と。
知人にジハードという名前を持つ人がいます。私自身はカッコいい高貴な名前だと思っているのですが、ある時、聞いてしまいました。
「ジハード?なんか怖い~」
若い日本人女性が2人、何の悪気もなく喋っています。そして気付きました。日本では、イスラム過激派のニュースしか流れないのだと。ジハードは本来、非暴力で抗うという意味。良き名前ですし、アラビア語を使う人々にとってそこまで珍しくはありません。でもここ日本では過激派の暴力行為と結び付けられ、その名は自爆テロを連想させてしまうのです。自分の名前を怖いと口にされてしまった知人。申し訳なくて耳を塞いであげたくなったのを覚えています。
でも、これが日本におけるイスラム教の立ち位置。アラブ諸国の絢爛豪華な暮らしぶりや穏やかな日常、陽気な人々にはスポットライトが当たりません。過激な事件ばかりが報道されるうちに、暴力的で破壊的なイメージばかりが広がってしまい、イスラム教徒=暴力的・他宗教は受け付けない=当然クリスマスもNGとなってしまったのでしょう。
さて、ここまでイスラム教徒の意外と寛大な面ばかりお伝えしてきましたが、それでは自宅にクリスマスオーナメントを飾ったり、イエスの誕生を祝福するのがOKかというと、そうではありません。
イスラム教は一神教。アッラー以外は神とは認めていません。そして偶像崇拝も禁止です。だから、イエスを神の子=神と扱う行為やそれに通じることはしません。オーナメントも偶像にあたるからNG。そこは、譲れない一線です。その一線は一緒に暮らしていた私からしても理解しがたい微妙なラインでした。
クリスマスを楽しみにするのもOK。クリスマスのプレゼントもOK。サンタさんの衣装もOK。でも、飼い葉桶にイエスが入った置物はダメ。フェスティバルとしてライトにクリスマスは楽しむけれど、イエスの誕生は祝福しない。日本人にはちょっと分かりにくいのですが、これがイスラム教徒の考えるクリスマスです。面白くて、でもちょっと面倒なイスラム教徒たちのクリスマス。皆さんの新しい発見に繋がれば嬉しいです。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
今年もクリスマスの時期がやってきました。
クリスマスはご存じの通り、イエスの誕生を祝うキリスト教の祝祭の一つです。私たち日本人もこれに便乗。
チキンを食べたりプレゼントを選んだり、家族や恋人と聖なる夜を満喫します。
ではこのクリスマス、イスラム教徒はどうしているのでしょうか?
今回はイスラム教徒と国際結婚していた私が伝えるイスラム教徒とクリスマスです。
前回の記事はこちら
Lucia Travel連載一覧はこちら
目次
イエスの生まれた場所はどこ?
イエスは馬小屋で生まれたことで有名ですが、ではその馬小屋がどこにあったのかはご存じですか?
馬小屋で生まれたイエス。その生誕の地は、イスラエルのベツレヘムにあります。当然ながらベツレヘムはキリスト教の聖地になっており、毎年この時期には盛大な祝祭が行われます。
でも今年のベツレヘムは静かなまま。クリスマスを祝う雰囲気はありません。
理由はもちろん、イスラエル軍によるパレスチナの壊滅的な攻撃。民家だけでなく病院、学校、避難所が攻撃の的となり、僅か2ヵ月足らずで2万人に近い死者がでています。
ガザ地区は今、埋葬布に包まれた遺体の山であふれています。山の中には、子どもサイズの遺体もあちこちにあり。中には赤ちゃんの姿も…。昨日は生まれたその日に、両親と共に殺された新生児の遺体がBBCで流れていました。イスラム教徒が圧倒的に多いガザですが、キリスト教徒も犠牲になっています。
こんな状況でクリスマスをお祝いできる訳がない。
ベツレヘムに住むキリスト教徒たちはそう考えているようです。
イスラム教徒はクリスマスが嫌い?
かつて私が結婚していた相手はイスラム教徒でした。この時期によく質問されたのが
「クリスマスってどうするの?」です。
「イスラム教だからクリスマスはなしだよね」と、クリスマスがない前提で話を進められたこともあります。
また、結婚した最初の年には友人から謝罪を受けました。
その友人は、12月の半ばにステキなクリスマスカードを送ってくれたのですが、年の瀬には
「本当に悪い事しちゃって、ごめんね。イスラム教徒はクリスマスなんてしないよね。
無知だったごめん。嫌がらせだって思わないでね」
と謝りのメールをもらいました。
イスラム教はイエスが嫌い!?
私に謝罪してきた友人は、職場でこんな会話をしたそうです。
「国際結婚した友人にクリスマスカードを送ったんだ。今まで年賀状しか頭になかったけど、クリスマスカードも良いものだよね」
「ステキだね!外国人と結婚したらクリスマスも本格的でしょ?」
「よく分かんないけど、相手はイスラム教徒だから教会に行ったりはしないんじゃないかな?」
「えー!イスラム教徒はキリスト教と仲悪いよね?そんな人たちにクリスマスをお祝いするカードなんか送ったらダメだよ。クリスマスってイエスが生まれた日なんでしょ?絶対にダメなんじゃないの?カードなんか送って大丈夫?謝った方がいいんじゃない?」
そして謝罪へ繋がりました。
イエスの存在~認めますか拒絶しますか~
でもご存じですか?キリスト教とイスラム教、そしてユダヤ教は兄弟のようなもの。物凄く簡単にいえば旧約聖書までは同じでそこから枝分かれをしているだけなんです。
特にイスラム教徒たち。誤解されがちですがイスラム教は、キリスト教やイエスを受け入れている部分が多々あります(全部を受け入れている訳ではありません!)。
しかしユダヤ教は別。ユダヤ教はイエスを救世主として認めてはいません。それどころか、異端者として拒絶しています。だから、クリスマスを祝うこともしません。
それなのになぜか日本では、イスラム教だけがクリスマスを嫌うという謝った認識が、浸透してしまっています。
クリスマスのご馳走もプレゼントもOK
結婚している期間、私たちは毎年クリスマスをたっぷり楽しんでいました。美味しい料理やケーキを食べ、プレゼントを贈り合う。ツリーや讃美歌こそ登場しませんが、私たちが楽しむクリスマスは、日本人が楽しむクリスマスのそれと大差ないものでした。
また、私はカトリックの教育を受けて育ったので習慣として、聖夜にはクリスマスミサにも参加していました。ミサへの参加を夫にとがめられることもありませんでした。いわゆる一般的なクリスマスを過ごしながら、いつも思っていました。
「なぜイスラム教徒=クリスマスはNGと誤解されているんだろう?」と。
誤解を生む報道の数々
知人にジハードという名前を持つ人がいます。私自身はカッコいい高貴な名前だと思っているのですが、ある時、聞いてしまいました。
「ジハード?なんか怖い~」
若い日本人女性が2人、何の悪気もなく喋っています。そして気付きました。日本では、イスラム過激派のニュースしか流れないのだと。
ジハードは本来、非暴力で抗うという意味。良き名前ですし、アラビア語を使う人々にとってそこまで珍しくはありません。でもここ日本では過激派の暴力行為と結び付けられ、その名は自爆テロを連想させてしまうのです。
自分の名前を怖いと口にされてしまった知人。申し訳なくて耳を塞いであげたくなったのを覚えています。
でも、これが日本におけるイスラム教の立ち位置。アラブ諸国の絢爛豪華な暮らしぶりや穏やかな日常、陽気な人々にはスポットライトが当たりません。
過激な事件ばかりが報道されるうちに、暴力的で破壊的なイメージばかりが広がってしまい、イスラム教徒=暴力的・他宗教は受け付けない=当然クリスマスもNGとなってしまったのでしょう。
ライトに楽しむならOK
さて、ここまでイスラム教徒の意外と寛大な面ばかりお伝えしてきましたが、それでは自宅にクリスマスオーナメントを飾ったり、イエスの誕生を祝福するのがOKかというと、そうではありません。
イスラム教は一神教。アッラー以外は神とは認めていません。そして偶像崇拝も禁止です。だから、イエスを神の子=神と扱う行為やそれに通じることはしません。オーナメントも偶像にあたるからNG。そこは、譲れない一線です。
その一線は一緒に暮らしていた私からしても理解しがたい微妙なラインでした。
クリスマスを楽しみにするのもOK。クリスマスのプレゼントもOK。サンタさんの衣装もOK。でも、飼い葉桶にイエスが入った置物はダメ。
※注釈フェスティバルとしてライトにクリスマスは楽しむけれど、イエスの誕生は祝福しない。日本人にはちょっと分かりにくいのですが、これがイスラム教徒の考えるクリスマスです。
面白くて、でもちょっと面倒なイスラム教徒たちのクリスマス。皆さんの新しい発見に繋がれば嬉しいです。
イスラム教徒と一言でくくっていますが、スンニ派・シーア派など宗派があります。また住んでいる国・生まれた国によってとらえ方が大きく異なります。今回はあくまで体験談・一例としてお読みください。
前回の記事はこちら
Lucia Travel連載一覧はこちら
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel