Cside













『ちゃんみん遅刻しなかった?』

「…………………」

『ちゃんみん?』

「………ッあ、ごめん!何?」

『………今日遅刻しなかった?』

「あぁ、大丈夫だったよ。今日は起こしてくれてありがとう。助かったよ」

『うん!』

「……………………」




夕食。
いつもはユノの今日の出来事を聞きながら食事をするのが至福の時間。
でも今日は違う。




夕食後に正直に話そうと思う。
だから頭が耳が心がユノの話に集中できない。



ごめんねユノ。












『おなかいっっぱい』

「それは良かった…」

『…………ちゃんみん?』 

「………ユノ、お話しなきゃいけないことがあるんだ」

『???』

「聞いてくれる?」

『うん!!!』




可愛い。
黒目が大きなユノの瞳。
小学生になっていっきに丸かった頬がシュッとしてきた。
それでも笑顔いっぱいに笑うユノの表情はとても可愛い。









「ユノはパパのパパ…つまりユノのおじいちゃんを覚えてる?」

『………おじいちゃん?おぼえてない』

「そっか…実はねユノのおじいちゃんがユノと暮らしたいって言ってるんだ」

『………………』

「ユノはどうしたい?」

『………………』

「………………」




沈黙が続く






「今度会ってみる?おじいちゃんに」

『………………』

「………どう…かな?」





『………ちゃんみんは?』

「ん?」

『そのおじいちゃんと暮らすのにちゃんみんも一緒?』

「僕は……一緒じゃないよ。ユノだけ」

『ちゃんみんはオレのこといらないの?』

「そんなことない!!!!」

『………ッう、ほんとに?』

「本当!絶対に!」




ギュッ




「不安になるような言い方してごめんね。僕はユノがいてくれて幸せだよ。離れ離れなんてなりたくないよ」

『ちゃんみん…ッ』


ユノは涙を堪えながら、
肩を竦め少し震えている。

涙を流したいのを我慢しているようだ。



ユノにこんなことさせてしまうなんて、
僕はなんてバカなんだ。




「ユノの人生をより良くするためにおじいちゃんが提案してくれたんだ。
でもユノの気持ちが1番大切だから、ね?」

『……おじいちゃんが暮らしたいって?』

「うん」

『……………オレは暮らしたくない。ちゃんみんがいい』

「そっか。わかった。おじいちゃんには断っておくね」

『…………うん』

「ユノ大好きだよ」

『オレもちゃんみんが大好き!!!』




僕の服をギューっと握り鼻を啜るユノ。
僕は何度も心の中でごめんとユノに謝った。


本当にごめんね。

















それから僕はユノの祖父へ断りの手紙を送った。
これで一件落着だと思っていたら、
今度は僕のスマホに見知らぬ先から着信があった。


なんとなくユノの祖父ではないかと勘が働き恐る恐る出てみると、案の定ユノの祖父であるチョンドヒョンだった。


「お断りをしたはずですが」

"孫に会わせてもらえませんか?"

「それは……」

"私たちには会う権利があります"



そう言われると断れない。
だって確かに権利はあるから。



「…………わかりました。私も同席でもよろしいですか?」

"もちろんです"

「では……」




そうして今度の休みの日に会うことになった。
少し遠い場所だったが、昔ながらの喫茶店を先方は指定していた。


ユノにはきちんと説明した。
変に不安にならない為に、
ただ会うだけだからと、おじいちゃんに元気な姿を見せるだけと。


ユノは最近ではあまり手にしていなかったトラのぬいぐるみをギュッと握り、
『わかった』
とだけ返事をした。

トラのぬいぐるみは
姉さん…つまりユノの母親が買ってあげたぬいぐるみだ。

不安やストレスがかかると、
無意識にトラのぬいぐるみを求めてしまうのかもしれない。


「僕も一緒だからね」

『うん』






















"久しぶりだね、ユンホ。元気にしてたか?"

『……………うん』

"いくつになったんだ?"

『………10才』

"大きくなったな"

『……………うん』




指定された喫茶店につくと、
既にユノの祖父は席についていた。
あと祖母もいっしょに。




ユノにはイチゴのパフェとオレンジジュースを、僕はブラックコーヒーを注文。


"早速ですが、もう一度考え直してくれないですか?"

「え?」

"私たちにはユンホが必要なんです"

「断ったはずです」

"そこをなんとか"

「…………何故ですか?何故そこまで」

"跡取りなんですよチョン家の"

「跡取り?」

"我がチョン不動産の跡取です。
息子のドフンは長男で跡取りだった。しかし駆け落ちをし、その上早くに亡くなるなんて…だからユンホは立派なチョン不動産の跡取りなんです"




はい?

ちょっと待ってよ。
あのお葬式の時の邪魔者扱いはなんだったんだ?
ユノを邪魔者にし、誰かに擦り付けていたじゃないか。





「あの…だったら何故あの時…引き取らなかったのですか?」

"あの時?"

「姉とドフンさんのお葬式の時……」

"あの時は裏切ったドフンの息子なんぞ見たくもなかったんだ"



は?



"それに我がチョン家にはドフンの妹がいます。だから安心しきっていたんです。でも妹は結婚どころか恋人もいない状況。すぐに跡取りを産むなんてことは無理なんです。そこでユンホの存在を思い出しご連絡しました"

「…………………」

"我々なら経済的に何ら不自由なくユンホを育てられる。欲しい物も我が儘も全部叶えてあげられます。そして良い学校を卒業させ、良い家庭環境を約束します"

「…………………」

"どちらがユンホにとって幸せか、シムさんならわかりますよね?"

「…………………」



『ちゃんみん…?』






初めてだ。
ここまで怒りを覚えたのは。


今すぐ殴ってやりたいが、
ここで僕が犯罪者になるわけにはいかない。
















『オレちゃんみんと暮らしたい』

「………………ユノ」

"ユンホ、我々と暮らせば幸せになるよ?"

『オレ今すごくしあわせだもん。
ちゃんみんがいるからだもん』

「………ユノ…」

『ちゃんみんがいないとオレしあわせじゃない。だからおじさんとは暮らさない』

"…………………なんてことを"




ユノ
僕もだよ。僕もユノがいないと幸せじゃない。ユノがいてくれないと、僕は……




「ユノはあなた方の会社の道具ではありません。ユノを愛せない方にユノを渡すわけにはいきません」

"…………………"

「失礼します!」

『しつれいします!!』


僕は左手に荷物、右手にユノの手を握り店をあとにした。










「あーーーお腹減ったね」

『減った!イチゴパフェ食べてないもん』

「そうだったね。
よし、美味しいもの食べて帰ろう!」

『やったーーー』




そうして僕たちは家の近くのファミレスで食事をし家に帰ってきた。
ユノはファミレスでイチゴパフェが食べられたことがすごく嬉しかったのか、
黒目をきゅるるんっと丸くし喜んでいた。


たまには外食も悪くないな。


















「ユノ〜寝よう〜」

『うーもう少しぃぃぃ』

「また明日見たらいいでしょ?」

『うーーーーーー』

「僕が先に寝ちゃうよ?ユノ真っ暗の中1人になっちゃうよ?」

『え…………』



ニヤリ



『オレも、もう寝る!!!』




ふふ、焦ってYouTubeを切ってまっすぐに寝室へ向かった。
まだまだ子どもだな。





「よし、お布団に入ったね?」

『おう!』

「電気消すよー」

『おう!』



パチッ



「ユノ……今日はごめんね」

『???』

「嫌な気持ちになったよね?会いに行かなければユノを傷付けずに済んだのに」

『ちゃんみん悪くないよ?』

「ユノ……」

『ちゃんみんと一緒だったからオレ大丈夫だぞ!』

「……………ユノ。
そっか。よかった……………………おやすみ」

『………………』




ん?
隣で布団を被りなんだかモジモジと動くユノ。


「ユノ?どうした?トイレ行きたい?」

『ちゃんみん……』

「ん?」

『………………』




ブチュッ



「え…」


今…ユノ…………何した?



『へへへへッ/////』

「………………」

『キャーちゃんみんとチューしちゃった!』

「ちゅー?」

『ふふふ…♡』

「ユノ?」

『ボアちゃんがね、大好きな人とはチューをするんだって言ってたんだ。
オレちゃんみんが大好きだからチューしちゃった♡』

「………………」



ボアちゃん…
動物園のときに会った大人びた少女か。
そっか小学生になっても仲がいいんだ。



ってそれよりも!
なんてマセたことをユノに教えるんだよ?!
女の子に軽々しくしたら駄目だって教えないとぉぉ



「あのね、キ…っちゅーっていうのは好きな人同士がするものなんだ」

『好きな人どうし?』

「そ、しかもちゅーをする時は相手の気持ちを確認しないとダメ!」

『おう!』

「相手の子もちゅーをして良いよってなったらするもの。わかった?誰にでもしていいものじゃないよ?」

『…………ム、オレ誰にでもしないよ?』

「これからできる好きな人にってこと」

『…………オレちゃんみんしか好きじゃないから、これからも好きな人はちゃんみんだけだもん』

「えーーっと……」




まだユノには難しい話なのかもしれないなぁ



『ちゃんみんもオレが大好きだって言ってたからちゅーしてもいいでしょぉ!?
それともちゃんみんはオレのこと好きじゃないのぉぉぉぉぉ?!!?!!!?』

「そんなわけないでしょう!
いつも伝えてるでしょ?大好きだって」

『ふふ、じゃあちゅーしていいんだね♡』

「え、」

『ちゃんみんおやすみのちゅーう!』

「………………」



えっと…今の説明で伝わらなかったら、
どう説明し直せばいいんだ?

まだ恋心を知らないユノに説明は難しい。
世のお父さんお母さんはどう切り抜けてきたんだろうか。


そう頭の中でグルグルと考えていたら、




『もう!ちゃんみん早くちゅーしよ』

「………………」



ブチュッ



『ふふふ、幸せだね』

「……………うん……………ん?」

『俺たちけっこんしよーね』

「結婚っ?!」

『ボアちゃんが好きな人とはけっこんするって言ってたよ?』

「……………ボアちゃん…」グッタリ…

『ぷろぽーしょん?あれ?なんだっけ?』

「プロポーション?」

『えーと、えーと……………ぷろぽーず!
そうだプロポーズだ!』

「………………それもボアちゃんが?」

『おう!俺ちゃんみんにプロポーズしたんだからね!』



なんてことを教えちゃうんだよボアちゃん!



『プロポーズしたらずっと一緒にいるんだよ?』

「えーと、なんか色々端折り過ぎてるんだけど」

『ん〜??』








ユノは満足気な笑顔を僕に向け、
そして眠った。


すごく幸せだって表情が瞳を閉じていても伝わってくる。
これはこれで暫くはいいかも知れない。
歳を重ねると教えなくても分かってくるだろうし。







「…………大好きだよユノ。おやすみ」





チュッ





僕はユノの頬にキスをして眠った。






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ホミンのプロポーズ記念日。
何年経ってもこの記念日はホミンペンにとって大切な日ですよね。



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