殺し屋をめぐるブラックコメディをひさびさに観ました。
監督は岡本喜八。予告編はコチラ。
地球の人口最適化のために無駄な人間を殺すことを目的とした「大日本人口調節審議会」という秘密組織を率いる溝呂木(天本英世)が経営する精神病院に元ナチスのブルッケンマイヤーがやって来ます。狂人こそ真の人間だと言う溝呂木は、入院患者たちに英才教育を施して一流の殺し屋に育て上げています。ブルッケンマイヤーは電話帳からランダムに選んだ3人の殺害を依頼。まず、松葉杖の男、義眼の女がターゲットを殺害。残る標的は犯罪心理学を専門とする大学講師の桔梗信治(仲代達矢)。持病の水虫に悩んでいるむさ苦しい男です。トランプのカードを武器にする男に自宅で襲われた桔梗は、偶然に危険を回避して退治することに成功。バカ正直に警察に通報して自宅に戻ってくると、殺し屋の死体は消えていました。桔梗はたまたま知り合った雑誌記者の鶴巻啓子(団令子)、車泥棒の大友ビル(砂塚秀夫)と事件の謎の解明に乗り出します。
その後も次々と送り込まれた殺し屋に襲われるも、悪運の強い桔梗はことごとく返り討ちに成功。溝呂木がブルッケンマイヤーを拷問して今回の依頼の真意を問いただすと、本当に殺害したいのは桔梗だけであり、桔梗が第二次大戦中にナチスが紛失した300万ドルのダイヤモンド『クレオパトラの涙』を取り戻すためのキーマンであることを自白します。溝呂木は啓子を拉致して、桔梗をおびき寄せる作戦を実行。桔梗は啓子を救出するために監禁場所である富士山の麓にある溝呂木のアジトに向かいます。なぜ自分が襲われるのか分からずに、たまたま殺し屋を退治していたと思われた桔梗は、少年時代にナチスに派遣された過去を持ち、ダイヤを体に隠し持つ存在であり、殺し屋を計算ずくで始末していたヤリ手の男でありました。全ての企みを最初から把握していた桔梗は、溝呂木との正面対決で最終決着をつけるのであった・・・というのが大まかなあらすじ。
劇場公開は1967年2月4日。併映は勅使河原宏監督の「インディレース 爆走」。同日に日活では殺し屋モノのハードボイルド「拳銃は俺のパスポート」を公開。本作はミステリー作家の都筑道夫『飢えた遺産』が原作で、もともとは日活で企画されたシナリオが流れ着いて、東宝の岡本喜八監督で作られた経緯があるそうです。一度お蔵入りとなった後にひっそりと公開されるも史上最低の興行成績となった逸話もあり。他に類を見ないタイプのブラックコメディなので、観客はついていけなかった気持ちも分かります。その分、いま観てもカルトムービーとして十分通用する作品になっていて、岡本喜八監督らしいスピーディーなテンポとクールな画面構成でありえない世界観を上手くビジュアライズしています。かといって、そんなに笑える代物でもなく、珍品を愛でる感覚で楽しむ内容かなという印象です。
仲代達矢がトボけた青年役で登場。最初から仮の姿を演じているかのようで、案の定、後半からはダンディな男に変身。そんな芝居がかった存在とは対照的に、怪優天本英世のルックスは本作の世界観にピッタリ。ヒトラーを真の狂人と崇拝するキャラはハマリ役だと思います。小賢しい子分肌が似合う砂塚秀夫もイイ感じ。元祖ケミストリー田畑ファッションともいえるメガネ使いも見どころ。さわやかなお色気を発する団令子も魅力的。終盤には意外な真相を打ち明けます。とにかく、一つ一つの映像にひと手間掛かっている点は素晴らしく、キレのある編集もあって、最後まで飽きずに楽し気な時間を過ごせる怪作だなと改めて思いました。戦争は狂人をあぶり出す装置で最大の愚行だということをブラックな笑いで包み込んでいるところには監督の戦争に対する考え方が出ているとも思えます。