突然のけたたましいおばちゃんの声に、驚いて肩が跳ねた。
「何?
どうしたの?」
「思い出したっ!
あなたっ!
えっとぉー、確か……
ま、ま、ま、魔性の女!」
「……」「魔性の女?」
「雑誌で見たのよ!
その、夜の世界にいる人で……買われたり……
その中に、確か、アイドルグループの子も餌食にとか……なんとか……」
「……」
いのりさんが、言葉を発しなくなったことが気になった。
……魔性とか、買うとか……アイドルグループ、餌食……
「……それって、デマか何かでしょ?」
「……いいえ。
私のことは本当です。」
「まっ」「……」
いのりさんの声のトーン。
さっきまでの明るい感じは消えていて……
ただ、『本当』の言葉の解釈に苦しさが感じられる。
「……いのりさん?」
「……はい」
「……周りが何を言おうと、今のいのりさんがホソクさんの奥さんで、その奥さんを選んだのはホソクさんですよ。」
「…………」
「そ、そうね……あんな雑誌の記事、ほとんどが作り話みたいなものだし!
気にしちゃダメよね!……ハハハ、忘れてっ!」
「……」
いのりさんはそれでも黙ったままだった。
「……ねぇ?教えてあげてっ!
ヨンジェちゃん、結婚は愚か、恋人も創る気ないなんて、寂しいこというのよ?
女の人生、誰かと添い遂げることが出来ないなんて、勿体ないと思わない???」
必死にその場を繕おうとするおばちゃん。
「……ヨンジェさんは、その…
今まで誰ともお付き合いしたことないんですか?」
いのりさん、慎重な言葉を選んで問いかけてくる。
「……うん。
誰かに迷惑かけたくないっていうか…。」