季節が変わり始めて、景色が白く色づき始めた頃、カナはいつもと同じように食べ物を持ってルナの所へやってきた。


変わらず、ルナは威嚇の様子を辞めずにいたが、大きくなったお腹がどうにも気がかりになった。


「……あなた、お腹、大きい?

もしかして……赤ちゃんいるの?」

そう言って手を伸ばしたカナの手に牙を向いた。


「イタッ……」

ルナは噛み付いた牙を離さず、カナを睨む。


「大丈夫だよ?

嫌なら触ったりしないから……

ごめんね。

……でもね。お母さん?


んー、この寒い時にここで出産は産まれてくる子も可哀想だよ?


せめて、うちのアパートの屋根の下くらいに引っ越さない?」

ルナはカナが話す間もずっと噛み付いたところからピクリとも動かなかった。


「……お母さん?

この手を離してくれるかな。


さすがに結構痛い……

でね、もし気が向いたらでいいから、うちに来ない?


あ、屋根の下くらいに。」


噛み付いていたカナの手から、ゆっくりと口を離すルナ。


どこか、この人間ならと思い始めていた。


カナは持っていたキャットフードを数粒づつ自分の歩く後に落としていった。自宅アパートまでの道しるべにしたのだ。


カナが歩いていって、姿が見えなくなると重くなり始めたお腹でルナは足を進めた。

元々怪我のために片方の足は引き釣りながら歩いていたから、周りの猫に比べて歩く速度が遅い。

そんなこともカナは当に知っていて、寒空の中ゆっくりと道しるべを付けながら歩いた。


自宅アパートにたどり着くと、屋根のあるところ、そして人目に付きにくい辺りにカナはダンボールと毛布を置いて、そこにルナがいられるようにした。


それから、そこを寝床にし始めたルナは間もなくして、5匹の子猫を産んだ。