定年退職直後の2013年春から2年がかりで四国遍路(区切り打ち)を行ったが、そのとき、本書の元となった著者のブログには大いに助けられた。
一例をあげれば、リュックにチェストバッグを併用したのは、負荷を背中だけでなく前後に分散させる振り分け荷物方式がよいという著者の主張に共感したからだし、2度目の区切り打ちから金剛杖をやめてトレッキングポールに変えたのも「金剛杖は使いづらい。1本よりも2本の方がいい」という著者の考えが正しいと分かったからである。
四国遍路の成り立ちと社会的な意味について語る前半部も卓見に満ちて興味深いが、なんといっても本書の真骨頂は後半の実践編にある。
本書の素晴らしさは、既成概念にとらわれない独創的でユニークな、それでいてバランスの取れた考え方にある。
遍路にとって優秀な靴とは、足に負担をかけず、マメができにくい靴のことだと定義したうえで、著者は安物のスニーカーを推奨する。高くていろいろな機能がついた靴は重くて体力を消耗させるだけだという。そのうえで、ここからがすごいのだが、靴の前方両側に2カ所の大きな切り込みを入れて、水が入りやすく出やすい構造にすることによりマメをできにくくする。さらには靴紐の結び方も独創的な方法を提案する。このあたり詳しく書くと長くなるので、関心のある方はぜひ本書をご覧になっていただきたいのだが、要するに、西洋式靴の「足と靴の一体化」を避け、「靴のゲタ化」を図るのである。
これは、理屈は納得がいくものの、少し大胆すぎて私の四国遍路では採用する勇気が出なかったが、先日行った山陽道歩きで大きなマメを二つ作り難儀したので、次回はこれを試してみたいと思う。
その他、先に書いた振り分け荷物方式や2本杖方式、お遍路グッズのいる・いらない、など装備に関するノウハから、「決まった遍路道などない。少しでも楽な道が遍路道だ」「逆打ちコースのデマ」、おすすめの道といったルートに関するノウハウ、持っていくべき地図や宿の取り方など、文字通り「既成概念にとらわれない独創的でユニークな」、そして目から鱗のアドバイスに満ちている。
これから遍路に行く方は、そしてすでに始めている方も、目を通しておく価値のある本である。
付け足しになるが、著者はあとがきで、「日本中どこへ行っても同じような街ばかりになって面白くない」というよくある感想に反論して、「旅の楽しみとは旅先の土地の(表面的な顔の下にある隠れた)正体を見破ることにある」と言う。これにも大いにうなづかされた。