世田谷の等々力渓谷に行った。
仕事の帰りに立ち寄ったのだ。
このところ人と接する機会が多かった。
普段、一掃除二勤行の範囲で暮らしている。
だから、世間さまの中にいる時間が長いと疲労してしまう。
木々が生い茂り、水辺があり、人けのない所へ身を置きたくなる。
まずは、等々力不動尊をお参りした。
渓谷の谷の上にお堂が建っている。
夕方だったので参拝者は少なかった。
それから、お堂に向かって左側の崖を降りる。
(おおっ)
結構な急勾配である。
深さ20メートルくらいだろうか。
様々な経過の中、水が10万年くらいかけて台地を削って出来た谷らしい。
あまりの時間の長さに実感がわかない。
谷底では川が流れている。
底から上を見上げると、うっそうとしている。
お陰で辺りは薄暗い。
水の流れの音をききながら上流へ向かう。
予想よりも多くの人がいた。
しかも若い女の子の割合が高い。
意外だった。
(おっ)
歩いているとヒグラシの声がきこえてきた。
カナカナカナカナ……。
(ん~)
これをきけただけでも渓谷に来たかいがあった。
さらに進むとお墓があった。
等々力渓谷3号横穴となっていた。
崖面に彫られた横穴の墓である。
古墳時代の墓らしい。
長さは13メートルもあるそうだ。
室内には3人以上が埋葬されていた。
副葬品には静岡や奈良の産の土器やイヤリングもあった。
(1400年程前の人たちはこの辺りでも暮らしていたのか)
ノスタルジーである。
更に上流へと水辺を進んで行く。
すると、2人の若い女の子が前を歩いていた。
2人はゆっくりと歩いている。
こちらのペースはそれより速い。
側を追い抜く。
「あたしさ~、渋谷なんかにいるよりもこういうところの方が好きなんだよね~」
「それ、わかる~」
若い子の抑揚で交わされる会話が聞こえてきた。
カラフルに染められた髪、ヒラヒラとした服、短いスカート、厚底のサンダル。
都会のお洒落な街に似合いそうな子達である。
(それなのに……)
想定外の言葉に驚いてしまった。
(人事の世界にいると、若い子でも疲れるのかな)
思わぬ同朋を得たようで微笑んでしまった。
お釈迦さまのお弟子様のお言葉です。
『(修行者が)一人でおれば、梵天のごとくである。二人でおれば、二人の神のごとくである。三人でおれば、村のごとくである。それ以上おれば、雑踏のごとくである』
【岩波文庫 仏弟子の告白 中村元先生訳P71】
ありがとうございました。