藤田真央 ピアノ・リサイタル

ピアノ界を席巻する俊英の ”今” を聴く

~ショパン×リスト~
 
プログラム*****
 

ショパン:ポロネーズ

第1番 嬰ハ短調 op.26-1

第2番 変ホ短調 op.26-2

第3番 「軍隊」イ長調op.40-1

第4番 ハ短調 op.40-2

第5番 嬰へ短調 op.44

第6番 「英雄」変イ長調op.53

第7番 「幻想」変イ長調op.61

 

 

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

 

2023年10月15日

ザ・シンフォニーホール

ピアノ スタインウェイ

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バッハ好きの友人と、藤田真央さんの演奏会へ行きました。 

ショパンあまり知らないからとポロネーズを予習してきてくれました。

満席の客席は、はじまる前からすごい熱気です。
 
 
真央さんは飄々と登場し、座るとすぐに弾きはじめました。
ポロネーズ1〜7番、間を入れず続けます。
こうして一連の流れでポロネーズを聴くと、それぞれの作品に込められた、ショパンの祖国への想いの変遷が感じられました。
 
「軍隊」「英雄」の小気味よく誇り高きポロネーズは、低音の響きとやや速めのテンポで軽やかに。
 
陰鬱で不安気な4番は、あまり聴いてなかった曲でした。だんだん重石が乗せられ、それを振り払おうとする突然のフォルテ。心の葛藤が物語になって見えるような演奏でした。
 
印象に残ったのは第5番。ドラマティックな構成でもあり、鼓舞するような力強さと緩徐部の対比が聴きどころかと思います。
中間部のマズルカ部分が、とても美しく切なかった…
目を閉じると、潤いのある音色が天井から降ってくるようで夢心地でした。もったいないから、目を開けて舞台を見てしまいますが。
 
アタッカで「幻想」がはじまったとき、先月聴きに行ったプレトニョフの演奏会が頭をよぎりました。
ピアノと演奏者の世界。その対峙をそっと覗いているような不思議な感覚になりました。
願いは遠く現実から逃避した「幻想」世界は、淡い音のグラデーション。
 
50分以上の演奏で、聴衆にも集中力が求められるプログラムでした。
 
 
女性客が多いため、休憩時間は30分ほどとられましたが、友人と感想を話してたらあっと言う間です。
 
後半は1曲のみです。
着席して、しばらく間をおいて演奏がはじまりました。
 
悪魔と天使がせめぎ合う、難解なリストのソナタ。手元は見えない席でしたが、低音から高音へと幅広い音域にオクターブ、鋭いリズムで超絶技巧の真剣勝負を感じました。
緩徐部の甘いささやきにうっとりしすぎ、邪悪な要素をあまり感じなかったのは、真央さんだからかも。
 
最後の音を弾き終えて、席を立つまでしばらく時間がありました。
放心状態ののち、割れんばかりの拍手が送られ、にこやかに四方の客席に挨拶する真央さん。
ブラボーにスタンディングオベーションがあちこちで起こりました。
 
 
アンコール
グリーグ:抒情小品集 第3集 op.43
 
1曲だけね、の仕草で弾きはじめたアンコール。
北欧の澄んだ空気、鳥たちのさえずりや木々のざわめき… 次々と情景が浮かび、美しい旋律はすっと心に触れ、自然に涙がこぼれました。
 

 

2022年1月に初めてソロを聴いた時から、まだ2年経っていないんだ…

 
この間、世界へ大きく羽ばたかれ、今年はカーネギーホールにはじまり、アムステルダム・ミラノ・ベルリン…
夏はスイス・イタリアでの音楽祭に出演。
10月は日本公演でも、月末には韓国での公演を挟む超過密スケジュールの真央さん。
そんな中、大阪へ来てくれてうれしいです。

チケット取りもさらに難しくなり、聴ける機会が少ないかもしれない…

 

 

 

web別冊文藝春秋 に連載中のエッセイ「指先から旅をする」は、多忙な演奏活動の日常がユーモアと知的センスのある文章で綴られています。

12月に書籍化、刊行されます。