はじめに
当方サイバーセキュリティ関連の仕事に携わっている。
セキュリティエンジニアは技術的な勉強ばかりでなく、国語的な勉強も必要であることを何回も痛感したことがある。特にロジカルシンキングに課題を感じ、論理思考や論理トレーニングに関する本を何冊も読んできた。(現在も絶賛勉強中)
そして最近出会った本が「大人のための国語ゼミ」(野矢茂樹 著)である。大変学びの多い本書を読み終えた後、たまたまホリエモンとある女性がギャンブルについて話しているYoutubeのショート動画を見つけた。まさにこの動画は、「大人のための国語ゼミ」でレクチャーされている内容と強くリンクしていると感じた。
せっかく見つけたこの材料をアウトプットせずにはいられず、本記事を書くことにした。
1.「大人のための国語ゼミ」の内容
本書の著者である野矢茂樹さんは、「論理トレーニング101題」「新版 論理トレーニング」等の論理思考に関する著書を多く出版されている。
私自身、過去に論理思考に課題を感じた際、「論理トレーニング101題」と「新版 論理トレーニング」読んだことがあった。そして野矢茂樹さん関連の本を探した結果、「大人のための国語ゼミ」に出会った。
本書では、大人が国語を学び直すことを目的に
・どのように分かりやすく伝えるのか
・どのように文章を作るのか・読むのか
・どのように主張・質問・反論するのか
といったことが書かれている。
「どのように主張・質問・反論するのか」を述べられている章は大変興味深い内容だった。
特に興味深かった内容として、「相手の主張に対してどう反論するか」のコツが複数書かれている。
全て書くのは控えるが、1つ例を挙げると「類比論法に対しては相違点を考える」というアドバイスが書かれている。
2.類比論法について
本書では類比論法を以下のように説明している。
Aを相手に認めさせるときに、それとよく似たBを持ち出して、まずBについて認めさせる。そしてAもBと同様なのだから、Aも認めるべきだと論じる。
本の中では例として、「遺伝子組み換え作物」と「飛行機や車の利用」が類比論法で使われている。
主張A:遺伝子組み換え作物の安全性が完全に立証されていないので、危険性はゼロではない。なので遺伝子組み換え作物は認められるべきではない。
主張Aへの反論 (類比論法):飛行機や車も危険性はゼロではないが、大きな利便性があるからこそ使う。遺伝子組み換え作物も農薬を使わないで済むという大きな利点がある。そのため、遺伝子組み換え作物も認められるべきだ。
飛行機も車も危険性はゼロではないけど、それらの利用を認めないわけにはいかないですよね、という論法である。
上記の反論ができただけでも上出来のように思えるが、本書ではこの類比論法を使った反論に対して、さらに批判する(=論証の不備を示す)余地があるか検討されている。
そこで使われるのが、上記で述べた「類比論法に対しては相違点を考える」という点である。
「遺伝子組み換え作物」と「飛行機や車の利用」の相違点を見出し、先ほどの反論には不備があることを指摘する。
最終的に先ほどの反論にどうやってさらに反論するか。ざっくり言うと、「遺伝子組み換え作物は毎日の食事に関わっているため、危険性は飛行機や車よりもはるかに深刻である」という内容となる。
恥ずかしながら私はこの本を読むまで類比論法という単語すら知らなかったので、ここで述べられていた内容は目から鱗だった。身近で行われている議論や、ネット上でよく見かけるディベート対決のタネが1つ明かされたような気持ちになった。
3.ホリエモンの反論を考察してみた (その1)
※以下考察は、頑張って書いてみたもののあまり自信がない。論理的な部分は初学者であることを了承いただいた上で、「いやそれは変だろ」と思った人はぜひコメントいただきたい。
「大人のための国語ゼミ」を読み終えた後に以下の動画を見かけた。
会話の内容としては、以下のような感じだろう。
女性:「ギャンブルなんてやめた方がいい。すぐお金がなくなるから。」
ホリエモン:「なくならないよ。」
女性:「じゃぁ、なぜギャンブルの協会やJRAは儲かっているのか。それはみんな(=ギャンブルをやる人)のお金が取られているからだ。」
ホリエモン「じゃ、お金が儲かっている会社の商品を買ってはいけないということか。」
女性: (沈黙)
ここで私は、「ホリエモンが使っているのは類比論法だ!!」と考えた。
「ギャンブルで儲かっている会社」と「何か商品を売って儲かっている会社」を比較して女性の論証を批判しているのだと思い、早速本で学んだことを活かしてホリエモンへの反論を考えてみた。
しかし考えれば考えるほど、ホリエモンの批判は至極真っ当であり、女性の論証に不備がありそうだと分かってきた。
当初の女性の主張は以下と読み取れる。
主張A:ギャンブルやめた方がいい
根拠A:すぐお金がなくなるから
そしてホリエモンが「(ギャンブルでお金は)なくならないよ」と返すが、さらに女性は以下のように主張を続けた。
主張B:ギャンブルの会社が儲かっている
根拠B:みんな(ギャンブルをやる人)のお金がとられているから
この主張Aと主張Bの流れだと以下のように、「ギャンブルの会社が儲かるから、ギャンブルはやめるべきだ」という論証で主張しているように受け止められかねない。
ギャンブルをやる人はお金がなくなる
↓
だから、ギャンブルの会社が儲かっている
↓
だから、ギャンブルはやめるべきだ
その論証の形をホリエモンは瞬時に批判した。上記のように主張するなら、「お金が儲かっている会社の商品を買うべきではない」と言えるのではないか、と。
個人的な考えだが、このような批判をされないために女性は、ギャンブルをやめるべきと主張する根拠を「ギャンブルをやるとお金がなくなるから」と一貫しておけば良かったのかもしれない。もしくは、ホリエモンの「(ギャンブルでお金は)なくならない」という主張に対してすかさず根拠を求めるべきだったのかもしれない。
4.ホリエモンの反論を考察してみた (その2)
ちなみに当初私がやろうとしていた「類比論法に対する相違点を考える」についても少し書き残しておきたい。
※ここも自信があまりないので、ぜひご意見お聞きしたい。
仮に女性が「いやいや、ギャンブルの会社が儲かってもろくなもんじゃない。だから、やっぱりギャンブルなんてやめるべきだ」と本気で主張して、ホリエモンが同じように批判をしたとしたらどうか。
この場合、「ギャンブルで儲かっている会社」と「何か商品を売って儲かっている会社」の相違点を見出し、その相違点から類比論法が成立しないことを指摘する必要がある。自分なりに、ホリエモンに対する2つの反論例を考えてみた。
反論例1:
日用品や食料品のような人が生活する上で必要な商品の場合、消費者は対価を払って物やサービスを手に入れたり利用することができる。一方ギャンブルでは、お金が増える可能性を期待して消費者がお金を払うが、支払ったお金はほとんどの場合返ってこない。
このような商品の性質に違いがあるので、ギャンブルを商品として売っている会社と、ギャンブルではない商品を売っている会社を同じようには述べられないのではないか。
→ 「映画やキャンプみたいにエクスペリエンスに対して対価を払う場合もある。競馬や競艇のようにレースを楽しむこともエクスペリエンスであるから、『同じように述べられない』とは言えないのではないか」と反論が来そう。
反論例2:
日用品や食料品といった商品を買うことで、借金を抱えたり依存症なる、などの深刻な状況に陥ることは一般的には考えにくい。そのため、そのような商品を売る会社とギャンブルで儲かっている会社を同等に述べるのはおかしいのではないか。
→ 「ギャンブル以外でも、アルコール依存症やホスト依存症のように深刻な状況に陥る人もいるのでは?」と反論が来そう。
5.最後に
「大人のための国語ゼミ」で学んだことを活かして、「大人のための国語ゼミ」の感想と、実際の例を用いた考察を書いてみた。学んだことをできる限り活かそうと意識したが、まだまだ訓練が必要そうだ。
セキュリティエンジニアであることを冒頭で話したが、国語力が必要とされているのは業種・職種には関わらいだろうし、私と同じように課題に感じている人も多くいるかもしれない。
そのような人たちにはぜひ「大人のための国語ゼミ」という本をおすすめしたい。