青山学院大学の
海外学習プログラム
豊かな国際感覚を育む、本学の多彩な海外学習プログラム
開校以来、豊かな国際性を特色とする青山学院大学。派遣交換留学などの長期留学から海外経験の入り口となるような短期プログラムまで多様な海外体験プログラムが充実しています。今回は、留学をはじめとする海外学習の意義から、学びをより有意義なものにするためのポイントなどをご紹介します。
留学を実りあるものとするために
国際センター 所長、文学部 日本文学科 教授
小松 靖彦
1961年、栃木県宇都宮市生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。博士(文学)。専攻は『萬葉集』を中心とする日本文学、書物学、比較文学。現在は、特に、文学を通じて海外の人々との相互理解を深める「文学交流」の研究を進めている。著書に『萬葉学史の研究』(上代文学会賞、全国大学国語国文学会賞、青山学院学術褒賞受賞)、『万葉集と日本人』(古代歴史文化賞(優秀作品)受賞)、『戦争下の文学者たち―『萬葉集』と生きた歌人・詩人・小説家』など。編著書に『文学交流入門』(2023年7月刊行予定)など。アメリカ合衆国、インド、ポーランドなどの大学に招かれ、講演や研究発表をしている。2017年に大英図書館で客員研究員として敦煌写本を調査。
今、世界では戦争や環境破壊、貧困、人権侵害などによって、いたるところで分断が進んでいます。ロシア連邦によるウクライナ侵攻のように、時に戦禍にまで至るこれらの分断を越えるためには、留学に代表されるような、「自分の目と心」を通じた他者理解が必要です。
現代ではメディアを通じて多くの知識を得ることができます。そのような時代に、なぜ「自分の目と心」が必要なのでしょうか。それは、現実社会には、メディアの報道からはこぼれ落ちてしまう微妙なニュアンスを持つ文化や人間関係が存在しているからです。現地に身を置いて、異なる言語や文化を持つ相手と直接語り合い、時にぶつかることは、互いの妥協点を見いだしたり、人間に共通する問題をさまざまな角度から考えたりするための大きな助けとなります。この「身体性」が留学の大きなメリットです。
メディアのネットワークに載らない出来事は他にもあります。たとえば、2020年の初めに、新型コロナウイルス感染症の拡大によってヨーロッパでは多くの人が亡くなりました。ロンドンに留学していた学生からは、Private Ambulanceという「白い救急車」のあまりの多さにショックを受けたという話を聞きました。Private Ambulanceとは、主に亡くなった人を運ぶ私設の「救急車」です。学生は新型コロナウイルス感染症拡大による死者の多さを、身近なこととして強く実感し、自分の身を自分で守る必要性について改めて考えたそうです。イギリス政府の対応を含め、こういった状況は日本にはほとんど伝えられておらず、現地にいるからこそ得られた体験です。この留学生のように、実体験を通じて新たな視点を得ることが自らの命を守る判断材料にもなるのです。
また、留学を通じて、新たなものの見方を身に付けることもできます。たとえば、私の専門は日本文学ですが、日本文学研究はとかく海外からの影響、という点に目が行きがちです。しかし現地の文化に触れ、日本文学が海外でどのように受容されているのか、という視点を持つと、日本文学についての見方が変わります。これまでとは違うものの見方を身に付けることで、さまざまなことに対する柔軟な対応力を得られると思います。
しかし、漠然と留学するだけでは多くの学びを得ることはできません。留学を実りあるものとするためには「目的意識」を明確にし「事前準備」をしっかりと進めることが大切です。
■「目的意識」について
本学では、多彩な海外体験プログラムを用意していますので、学生は「何を学びたいか」という目的に合わせてプログラムを選ぶことができます。外国語習得を目的として海外を目指す学生も多くいますが、「ことば」とは、他者との相互理解の第一歩です。そのため、学生には「外国語を学ぶための留学」にとどまらず、ぜひ「外国語を使って何かを学ぶための留学」を考えてほしいと思います。海外には、日本ではなかなか学ぶことのできない、学問、研究テーマ、研究方法があります。たとえば、表象文化やメディア芸術、環境学、ジェンダー研究などです。War Studies(戦争学)もそのひとつと言えます。平和を守るためには、戦争について深く知ることも必要です。
また、留学先でも忘れないでほしいのは、本学のスクール・モットー「地の塩、世の光」という言葉です。塩と光は、誰もが必要とするものです。自分を生かし輝かせることを目的にするのではなく、他者の存在を生かし輝かせる存在であれ、ということです。つまり、留学は自分探しではなく、海外で自分にできることは何かを考え、他者への貢献を試行錯誤する機会なのです。経験を重ねると、自分とは何者かが見えてくるはずです。貢献相手である他者を知るためには、その人と背後にある文化を「自分の目と心」で知ることが大切です。貢献の志に基づく「グローバル・サーバント・リーダーシップ」を心に留めて行動することでさらなる成長が得られるでしょう。
■「事前準備」について
入念な「事前準備」も留学の成果に直結します。どの大学でどのような科目を提供しているか、どのような先生がいるかなど、自分の目的と並行してリサーチすることによって、留学先に選ぶべき地域や大学も大きく変わってきます。
学術的な英語や英語を母語とする国の文化を学びたいと望む場合は、英語圏への留学が最適です。一方、本学では、協定校派遣交換留学に関する新しい取り組みとして、2022年度からは中・東欧や北欧といった非英語圏における協定校を増やしています。学生が多角的な視点を養うには、英語圏以外の国にも視野を広げることが有益であると考えたためです。たとえばセルビアは東西の架け橋として興味深い国です。複雑な歴史的背景を持つポーランド、日本古来の自然崇拝などと共通した宗教観を持つノルウェーなど、学びの切り口は多彩です。特に非英語圏の国においては、諸地域のトップ校が協定校となっています。各国の未来を担うことになる学生層との交流を通じて、大きな刺激を得ることもできます。
留学先の国について調べる際には、専門書籍はもちろん各国の文学や音楽といった文化・芸術も大いに参考になります。また、留学先の国と日本、さらに本学との関係などについても十分な知識を得ておいてください。留学希望者の多いサンフランシスコでは、本学創設期の卒業生・松本ゑい子が地震被災者救済活動を行っていました。このように、本学には、協定校のあるさまざまな地域と分厚い交流の歴史があります。
また、留学先では日本の文化について必ず質問されます。自国の文化についても存分に学んでおきましょう。表層的なジャポニズムではなく、日本文化の特質まで見つめることが大切です。たとえば、化粧に興味があるなら、日本伝統の口紅である「紅」に関心を寄せ、大学の近隣にある資料館を訪れたりして知識を深めてみると、その背景にある「自然との共生」といった観点まで掘り下げることができます。伝統文化だけでなく、自分の研究分野における日本の特徴などを考えてみるのもよいでしょう。
私は日ごろ、学生たちに、音楽でも絵でもスポーツでも料理でも、なにか自分が得意なものを留学先に携えていくことを勧めています。そこから会話が生まれて相互理解のきっかけとなったり、海外で学び続けてゆく自信につながったりするからです。学生の皆さんには、留学の目的意識を明確に持ち、現地で出会った人々と信頼関係を育めるような豊かな留学経験を得てほしいと願っています。
明石書店『~を知るための…章 エリア・スタディーズ』
例:『セルビアを知るための60章』(柴 宜弘 編著/山崎 信一 編著) など
2. 世界各国(地域)の知るに価いする知識だけを選びだして提供するシリーズ
中央公論社(中公新書)『物語 ~の歴史』
例:『物語 ポーランドの歴史』(渡辺 克義 著) など
国際センターの役割
国際部 国際交流課 国際センター
坂田 博希
大学進路・就職部進路・就職課を経て、2022年より現職。
国際センターは、海外で学びたい本学の学生と、本学で学びたい海外の学生双方の支援を行っています。本学の学生への具体的な支援内容は、海外留学に関する個別カウンセリングや、IELTS対策講座の実施、留学前・中・後のサポートなどです。また本学では、短期から長期まで多彩な海外プログラムを用意しています。これらのプログラムも活用し、学生の皆さんにはぜひ在学中から海外に目を向けていただきたいと思います。
というのも学生時代の留学には大きなメリットがあるからです。社会人になってから留学することも可能ですが、グローバル化社会を担う同年代の学生たちと海外で共に学ぶ機会を得られるのは、学生時代だけの特権です。長期留学のハードルが高く感じるようでしたら、短期プログラムに目を向けてみてはいかがでしょうか。私自身もフィリピン・セブ島への短期語学留学が初めての海外体験でした。以降、20ヵ国を訪れ、さまざまなバックグラウンドを持つ人々と接することで、海外の人々が日本に向ける興味や関心の高さ、国や地域によって異なる価値観を身をもって感じることができました。これらの経験は今の私を形づくる、かけがえのない経験です。海外という新しい世界へ最初の一歩を踏み出すのは勇気のいることですが、一歩踏み出してしまえば、柔軟な思考を持つ学生の皆さんにとって将来への大きな原動力となるはずです。
■多彩な海外学習プログラム
留学先の選び方はさまざまです。しかし、留学を有意義なものにするために最も重要なことは「何を目的に留学するのか」という目的意識を明確にすることです。期待したような手応えを得られないまま帰国を迎えてしまうことがないよう、留学を考え始めたら、早いうちから十分に調査検討し、計画を立ててから留学に臨むことが重要です。留学先の大学は自分の目的に本当に適しているのか? 帰国後は留学経験をどのように生かすのか? など長期展望をもって、じっくり考えて留学に備えましょう。
留学のバリエーションは、留学目的によって多岐にわたります。例えば「英語か非英語か」×「留学期間」×「専門を突き詰めるのか・幅広く学ぶのか」×「渡航先」といった要素の組み合わせが考えられます。
アカデミックな英語力(文法・発音・語彙)を身に付けたいと考える場合は、「英語圏」の大学をお勧めしています。一方、「非英語圏」の大学には、私たち日本人と同様に英語を母語としない学生が多く集まるため、英語を母国語とする「英語圏」の大学に比べると、留学に求められる英語力のハードルが多少は下がります。そして「非英語圏」の大学には世界中から多国籍の学生が集まるため、多種多様な違いを持った人々が共存するダイバーシティの環境を体験することができます。将来的にグローバルな環境で働くことを考えるなら、「非英語圏」の大学で英語で学ぶ留学も適しています。
ここでは本学の海外プログラムをご紹介します。
【長期プログラム】
計画的に留学・履修すれば4年間での大学卒業が可能となります(休学留学を除く)。
(1)協定校派遣交換留学(半年または1年間)
(2)認定校留学(半期または1年) 留学の目的(習得したい言語や教育内容)が本学の協定校では果たせない場合や、「協定校派遣交換留学」の選抜に漏れてしまった場合は、「認定校留学」という選択肢があります。留学先を自ら選定する分、出願資格を満たした上で、留学に関する一連の準備(情報収集・出願・選抜・入学手続き)などをすべて各自で行う必要があります。また、授業料は本学と留学先大学の双方に納める必要があります。
(3)学部のカリキュラムによる留学(半期) 地球社会共生学部では、東南アジアへの留学をカリキュラムの柱としています。留学期間は半年間で、2年次後期に実施されます。学生時代に、経済成長の中心とも言えるアジアのエネルギーを体感し理解を深めることで、将来の活躍のフィールドを大きく広げることが目的です。
(4)休学留学(半期から原則2年まで) ※4年間での卒業不可 本学の出願資格に関わらず、大学を休学して個人で留学することも可能です。自分の興味や目的にもっとも合致する大学や語学学校を選べ、ワーキング・ホリデーも活用できる等、さまざまな自由度があります。ただし、休学留学期間は在学期間に換算されないため、4年間での卒業は不可となります。
【短期プログラム】
(1)海外語学・文化研修(約3~5週間)・海外文化体験(約1週間)
(2)海外インターンシップ(約4~5週間) 一定の英語力を持ち、海外での就労を経験したい学生には、「海外インターンシップ」へのチャレンジをお勧めしています。海外企業での無償インターンシップの経験を通じてキャリア形成に必要なスキルを習得することができますし、将来は海外で働きたいという学生には大変有意義な機会となります。所定条件を満たせば単位認定(2単位)の対象にもなります。
また、国際センターが用意するプログラムの他にも、国際政治経済学部や文学部英米文学科など、学部独自のプログラムを準備している学部もあります。
留学のチャンスをつかんだら、「留学までの過ごし方が留学先での学びの質を変える」ということも忘れないでください。渡航後に現地で行動する姿勢と同じくらい、渡航前の事前準備が重要です。語学力は一朝一夕で身に付くものではありません。留学前に、外国語力4技能(読む・聞く・話す・書く)をできるだけ強化しておけば、渡航後の行動が変わります。そして、海外では日本を説明する機会が増えるため、日本に対する知識をインプットしておくことも重要です。
■拡大を続ける留学チャンス
本学では積極的に各種海外プログラムの拡充を続けています。特に協定校派遣交換留学に関しては、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大を受けて渡航を一時的に停止していた時期にも、着々と協定締結校を増やし、非英語圏を中心に学生の選択肢は広がり続けています。留学生の人数から見ても、新型コロナウイルスの感染症拡大以前の2018年度には100人だったものが、2023年度(内定者)は128人となっています。このように、本学における留学の門戸は広がり続けています。学生の皆さんにはぜひ積極的に海外留学にチャレンジしていただきたいと思います。
留学とは、慣れ親しんで居心地の良い「コンフォートゾーン」を飛び出して、新たな環境に飛び込むことです。日本では常識とされている考え方や物の見方が、海外では全く異なるという体験に戸惑うこともあるかもしれません。そんなアウェイの環境こそ、今までの固定概念を考え直す絶好の機会です。留学先ではとにかく積極的にさまざまなことに挑戦してください。一つ一つの新たな経験を積み重ねていくことで、いつの間にか「コンフォートゾーン」が広がっているはずです。時には困難や葛藤も伴う、留学という新たな経験を通じて、多様性理解力やバイタリティ、自己肯定感などが得られるでしょう。これらの力は学生の皆さんが社会に出た後にも大いに役立ってくれます。
そして留学先の大学では、海外における“青学広報大使”として本学を積極的にアピールしていただくことを期待しています。特に協定校派遣交換留学生は「ぜひ海外で学んできてほしい」と本学の代表として選ばれた学生です。先輩の活躍が、後輩たちにもさらなる留学の道を開くことになるため、留学先では学びに加え、現地のコミュニティなどにも積極的に貢献していただきたいと思います。