日本農民新聞 2024年8月15日号|日本農民新聞社

日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年8月15日号

2024年8月15日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 今後の農政の取組み方向
 農林水産省 農林水産事務次官 渡邊毅 氏

■JA共済連 令和5年度の取組みと成果

■第18回 森林組合トップセミナー・森林再生基金事業発表会
 全森連・農林中金が開催

■JA全農 令和6年度事業のポイント
 JA全農 総合エネルギー部 土屋敦 部長

■家の光協会の 読書ボランティア関連講座


このひと

 

今後の農政の取組み方向

 

農林水産省
農林水産事務次官

渡邊毅 氏

 

 

 農林水産事務次官に7月5日、渡邊毅氏が就任した。改正食料・農業・農村基本法の施行という大きな節目にあって、持続的な食料・農業・農村づくりに向けて次期基本計画の策定に向け走り始めた農政の舵取りをどう進めていくのか、新次官に方向を聞いた。


 

食料安保、環境対応、人口減対応の具体策を

就任にあたって。

 食料・農業・農村基本法の改正に向けた検討が約2年間かけて進められ、5月29日に改正基本法が国会で成立、6月5日に公布・施行され、関連法も成立した。基本法ゆえに、様々な施策の具体化はこれから。この非常に大きな節目に、次官の任命を受け、あらためて気を引き締めている。

 基本法制定からこの25年間の大きな情勢変化に、農業政策も対応し変える必要が生じていたことを受け今回改正された。重点は、▽食料安全保障の確保、▽環境対応、▽人口減対応。これらに共通する要素は「持続性」だ。食料・農業・農村の持続性をきちんと担保することが農政の大きな目標となる。

 政府の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部第7回会合(6月12日)において岸田総理から、改正基本法に基づく基本計画の今年度中の策定に向け、今夏から議論を開始するよう指示をいただいた。これに基づき、来年3月中までに次期食料・農業・農村基本計画を策定していく。まずは、政府として食料・農業・農村審議会に諮問して専門家の先生方にご議論いただき、秋頃からは与党でも並行してご議論いただくことになろうかと思う。これにしっかり対応していきたい。

 

基本法関連法施行へ基本方針づくり

基本法関連法については?

 基本法関連法としては、「食料供給困難事態対策法」「農振法等改正法」「スマート農業技術活用促進法」が6月14日に国会で成立した。

 「食料供給困難事態対策法」は、公布日(6月21日)から1年以内に施行することとなっている。同法では、いざ食料が本当に足らなくなった時の対応手順を大きな枠組みとして規定しており、兆候が出た段階から必要があれば本部を立ち上げいち早く対策を始めることや、事態の深刻化に応じてとることができる措置などを定めている。これに加え、具体的な手順は基本方針で決めることになっており、施行に向け検討を進めていく。

 6月21日公布・施行の「農振法等改正法」については、食料安全保障を確保するために目標とすべき農地面積などについて定めていく必要があり、基本計画と同じタイミングでお示しすることになろうかと考えている。

 「スマート農業技術活用促進法」は10月1日施行予定。それまでに、スマート農業を導入する分野、機械や技術の研究開発等について重点をどこに置くかなどを、基本方針として決めていく。

 

5年間で農業の構造転換を集中的に

骨太方針が、5年間で農業の構造転換を集中的に推し進めるとしたが。

 政府の「骨太の方針2024」では、「初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進められるよう、2024年度中に基本計画を改定し、施策を充実・強化するとともに、それを確実に進めるための体制を確保し、農林水産業の収益力向上の実現を通じた所得の向上を図る」ことが示された。

 食料安全保障の確保に向けては、農業の持続的な発展を引き続き図りつつ、輸入と備蓄を組み合わせた安定的な供給体制を構築していく。

 まず農業生産面では、人口や農業者の減少が進む中でも効率的にしっかり農業生産できる状態とするような構造転換が必要となる。また、肥料など輸入に頼ってきた生産資材を国産で賄えるようにするため、耕畜連携や下水汚泥資源を活用した肥料製造などの構造転換を引き続き追求していく。

 次に輸入に関しては、輸入先を多角化するということに加え、安定的な輸入のための調達網を確保するために、有望な案件への投資を促していくような取組みも求められると考えている。

 備蓄については、食料供給困難事態対策法などの制度の中で、いざ何か起きた時のために、どこまで確保しておけば対処できるかという議論を、あらためて行っていく。

 こうした課題をきちんと解決していくための予算を、この5年間しっかり確保していけるよう力を入れていきたい。

 

川上~川下の「食料システム」確立へ

合理的な価格形成に関しては。

 「合理的な価格」という文言は旧基本法にもあり、需給と品質に基づいて価格が決定されるとの考え方がベース。このベースは今回も変わらないが、資材価格の高騰という新たな事態に対応するため、農業者、食品産業の事業者、消費者その他の「食料システム」の関係者により、「持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」と新たに明示した。持続的な食料供給のため、食料システム関係者が相互の立場をよく理解し、負担がどこかに偏ることのないよう負担し合うなどの連携をしていただく。

 どう具体的に進めるかについては現在、来年の法改正に向けて検討しているところだ。

みどりの食料システム戦略に関わる環境対応については。

 農業の環境対応については、改正基本法では第3条「環境と調和のとれた食料システム」としてしっかり位置づけられた。

 現在、令和9年度の本格実施を目標に、農水省の全ての補助事業等に対して最低限行うべき環境負荷低減の取組みの実践を義務化する「環境負荷低減のクロスコンプライアンス」を導入していくこととしている。実践状況はチェックシートに記入し提出いただくことになる。

 価格形成上も配慮が必要となる。環境対応型の農業はどうしても、従来からの慣行農法よりコストがかかる場合が多い。取組みを進めるうえでは、このことに対する川下側からの理解が不可欠だ。環境配慮を行っていることを生産側からしっかり示し、納得いただくことが必要となる。加工・流通・消費側の方々に、環境負荷低減の農業生産を行っているので値段が上がるのも仕方がないよねと理解いただく。クロスコンプライアンスのチェックシートはこの際にも有用だと考えている。

 

協同組織の本領発揮のタイミング

JAグループへの期待を。

 望ましい農業構造の確立にむけて改正基本法第26条2項には「地域における協議に基づき、効率的かつ安定的な農業経営を営む者及びそれ以外の多様な農業者により農業生産活動が行われることで農業生産の基盤である農地の確保が図られるように配慮する」と「多様な農業者」が明示された。農業者が減少する中で、多様な農業者のカバーなくしては地域の農地は縮小していってしまう。担い手とも協力し合いながら農地を適切に保全していく役割が期待されている。

 農協は、こうした方々を含む地域の農業者にとって、非常に身近な存在だと思う。元々農業者が集まってできた、農業者を助けるための組織なので、構造改革をしっかり進めていく上でも、農家を支援する組織として非常に重要な役割を果たすことになる。その意味でも、協同組織のまさに本領発揮のタイミングが来ている。農協の方々にはしっかり、これから頑張ろうとする農業者を支える役割を果たしていただきたい。

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