JAが「農業協同組合」であり続けるために、経営危機を乗り越えるためにすべきことは? | AGRI JOURNAL

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JAが「農業協同組合」であり続けるために 経営危機を乗り越えるためにすべきことは?

アフターコロナの農業と将来のJAの在り方について、幅広な視点からの問題意識・解決すべき課題を中央大学教授の杉浦宣彦氏に聞く連載。今回はJAの経営の危機の問題に迫る。

JAをめぐる
経営の危機

JAをめぐる経営危機の要因として、その信用事業の収益に大きな影を落としている超低金利の問題、他業態との競争激化、これらに伴う経営収益の悪化に加え、コロナ禍が挙げられると思います。

これに対して、事業モデルの転換や「農業のIT化」という言葉に象徴される事業のデジタル化の推進などという言葉は全国あちらこちらで聞かれますが、具体策は検討中の部分も多く、これからの状況にあるかと思います。

危機のうちで一番深刻なのは、今後の信用事業と共済事業でしょう。信用事業は、マイナス金利政策、他金融機関との競合激化、農中農林中央金庫奨励金引き下げの影響により利ザヤが低下していますし、共済事業は、保有契約高の減少とともに、付加収入は減少傾向にあります。

いくつかの試算では、今後、3年のうちに、多くのJAの信用事業が赤字になるのではというものもでてきており、何らかの対策を打つべき時であることは事実です。

他業態にみるこれからの方向性

これに対して、JAグループのライバルである銀行や保険会社はフィンテックなどの新しいトレンド・技術を活かして、新たな経営の方向へ向かっています

例えば、メガバンクや地方銀行の一部はすでに大規模な人員削減に着手していますし、大手生保は年金利回りの大幅な引き下げに踏み切っています。さらに、銀行法の改正などもあり、地方銀行の再編、地銀の子会社による地域総合商社の設立などが続いています。

特に最後の銀行の商社設立などの動きは、本来、JAが地方で担ってきた機能の一部ともバッティングしており、現在はまだトライアル的な部分が大きいですが、軌道に乗れば、JAの購買事業、販売事業にとっても大きな脅威になりうる可能性があります。

JAに迫る改革の必要性

このような比較をしてみると、他業態が急速に効率的経営を目指しているのに対して、JAグループ全体の動きが遅れているようにも見えます。

都市部JAや大規模JAといった、信用事業が収益のかなりのウエイトを占めているJAでは、近いうちに来る農中奨励金引き下げに伴う信用事業の赤字化への懸念から、アパートローンなどのさらなる強化や、支店の統廃合といった、あたかも地方銀行が今やっているようなリストラ策の検討・実施を進められているところが多いように見受けられます。

しかし、各金融機関が様々な業務の電子化による効率性強化を進めているのと比較すると、現状のJAの信用事業のビジネスモデルや設備などは、一般の金融機関と比較しても、10年ではきかないくらいの「旧態依然」な状況にあります。将来的な信用事業のサステナビリティを考えるのなら、小手先の対策でなく、組合員が支店に一切行かなくてもよいくらいの抜本的な業務のDX化を進め、経営のやり方を変えていかないと、今回の危機に対する根本的な解決にはつながらないでしょう。

また、現在の組合金融の構造(農林中金をトップにしたピラミッド構造)のまま進めていくなら、まず、トップ自体が現状から大きく変わることや、国際的な金融市場の状況変化も必要です。当然、一単協で解決できる問題ではなく、迫り来る時間との戦いの中、新たな方向性を考えるにしてもある程度の時間が必要であることも確かです。

JAが「農業協同組合」で
いるためには

さらに、現在、准組合員の事業利用規制の問題がどうなるかが大きな課題となっていますが、信用事業はまさにその中心的ターゲットの一つです。

信用事業と住民の連携

この問題をめぐっては、准組合員総代制度の導入などがすでに進められているJAもあるものの、信用事業・共済事業中心のJAにおける准組合員加入の方向は、准組合員制度の根幹と矛盾しており、やはり農業振興と結びつけていくより他に、一般の理解を得ることは出来ないでしょう。

都市型や都市近郊型JAがある地域では、農業そのものが地域の基幹産業でもなく、本当に細々と農業が展開されている地域も多いものの、今回のコロナ禍の影響で、都市型JAの直売場もいつになく盛況であったという事例などでもわかるように、都市住民と農業を結びつける存在にJAがなり得ることが明らかになっています。

それぞれの地域のJAでは十二分な作物量を産出できなくても、各地のJAと提携し、農業への融資や投資を行う、逆に作物の優先出荷などをしてもらうなど、農業関連の動きを活発化させることができるでしょう。

また、地域の農業のプロとして、組合員による品質の高い農産物生産を資金面でサポートし、その供給先となることで、農業協同組合の特性をアピールし、しばらくは問題解決策が見いだせないかもしれない信用・共済事業を含めた総合的なJAの事業展開を理解してもらい、ラディカルな事業利用規制の議論にならないような方策を検討していくべきです。

改めて農業ファーストの意識を

先日、ある都市型JAで、上記のような状況を受け、地域農家とJA職員、並びに地域住民まで入って農業との付き合い方をどうしていくのかという、近い将来の課題を考える会が開催された際、信用事業問題を第一優先に考える一部の理事達から、執拗な妨害や正組合員である農家との対話を拒絶するなどの動きがあるのを目の当たりにする機会がありました。

信用事業問題が直近の課題であることは理解できますが、同時並行的に将来のことを考えなければいけない時期でもあります。このような動きは、農協改革の流れや昨今の経営のサステナビリティの考え方にも逆行しており、由々しき状態だと思います。

順調な経営ができているJAほど、農業への意識が高いのは事実で、(すでにそのような展開をしているところも多くありますが)改めて、都市型・都市近郊型のJAには農業との関連性を意識した農協経営を考えていってもらえればと思います。

PROFILE

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

杉浦宣彦


現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。

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