正社員になってもひたすら体を使う重労働
仮社員から正社員へランクアップしたことで、まず変わったのが勤務形態だ。ボクが勤めた農業法人での正社員の勤務形態は、こんな感じだった。
仮社員の時は自由に休みが取りやすかった一方、正社員は月6日と休日数が少ないことに加え、他のスタッフと休みが被らないよう配慮する必要があった。とはいえ、親方から「この日は休まないでほしい」と、お願いされたことは一度もない。
業務については、正社員になったからといって大きく変わらず、体に仕事の基礎をたたき込む日々だ。キャベツの収穫期であれば、8玉入りの段ボール1000ケースにも上る数をほぼ毎日出荷する。「切る・詰める・運ぶ」といった手作業をひたすらこなすので、包丁を握る手には力が入らず、足腰までプルプル震えてくるのだ。作業をこなす中、自分のベストな体勢や力の入れ具合を探すことで徐々に楽にはなるが、それでも体はしんどい。
ちなみに機械やトラックを使う業務は、親方もしくは先輩社員が担当している。後にボクがすべてを担当することになるので、期待してほしい。
この他にもぬかるむ田んぼの中に入って草取りしたり、1つ20キロの肥料を背負って丸1日畑にまいたりなどと、農業の洗礼をお見舞いされた。しかし、これらの業務を体験するからこそ、それぞれの工程が理解でき次のステップに上がることができる。身をもって現場を知ることが何より大切なのだ。
作業の段取り・農機具の扱いは仕事終わりにノートへアウトプット
農業法人の仕事は、多種多様で覚えることが多い。除草剤の散布に使う農薬の種類や使用量、10アールあたりに散布する肥料の量、農機具の使い方からオイル交換や修理の方法までと、挙げきれないほどだ。ボクの居た農業法人は“百姓”ではなく“百商”ともじっていたくらいだ。
仕事を覚えるときはメモを取るのが一般的かもしれないが、そんな余裕はなかった。作業をすれば全身汗や土まみれになり、メモ帳なんかポケットに入れておこうものなら、フニャフニャにふやけて黒ずんだ紙になるからだ。加えて、1日に達成するノルマがあるのだから、ぼやぼやメモなんか取っていられない。
そこでボクは仕事終わりに、その日覚えた作業をノートへ書き出すことにした。作業しているときは忘れないと思っていても、シーズンをまたぐとすっかり抜けている。このセルフ残業的な取り組みにより、作業の段取りや農機具の扱い・修理などを身につけられたといっても過言ではないだろう。
また、可能であるならスマホで作業を録画して、手元に残しておくこともおすすめしたい。いつでも見返せて社内で共有できるからだ。このことは昔の自分にも伝えたい。
トラクターやコンバインなどを使った機械作業への“あこがれ”
入社してからは手作業がメインになりつつも、トラクターやコンバインなどを使った機械作業へのあこがれも抱いていた。これには大きな理由が2つある。まず1つ目は、単純に楽そうに見えるからだ。座りながらやれる作業環境ってだけでうらやましい。そして2つ目は、シンプルにカッコいいから。農業法人が所有する機械は、個人農家とスケールが違う。トラクターは80馬力以上。コメ専用の自脱コンバインは6条刈り。これらの機械を使って作業している姿は「農業やってんなあ!」感があるのだ。このような個人的すぎる思いを胸に秘めながら、毎日体を動かして目の前の草取りや作物の栽培に向き合っていた。
入社当時のボクは機械を運転するのに伴う責任やリスク、メンタルの疲労などについて知る由もなかったのだ。「雇われ農家の奮闘記#3」では命の危機を感じた機械作業についても紹介する。
天候に左右されず仕事するのも農業法人
農業法人は雨が降ろうと強風が吹こうと、雪が背中に積もろうと休むことなく仕事をこなす。
収穫期であれば、雨が降るなかでも畑へ繰り出す。段ボールで出荷予定のキャベツの場合、いつもなら畑で段ボールに詰めていくが、雨の日は畑でプラスチックのコンテナに詰めて事務所(農園の倉庫兼作業場)へ持ち帰り、段ボールへ詰め替えるなんてことも日常的だった。
強風が連日続くときも大変である。畑の土は乾燥してカラカラになり、ひとたび風が吹けばすぐに舞う。そしてこの舞った土や砂は、作物に付いて汚れるのだ。土まみれの作物を収穫するときは、タオルで拭いたり水洗いしたりなどと、やっかいなひと手間が増える。そのままで作物を出荷しようものなら、クレームは必至だ。
一方で、閑散期は機械のメンテナンスやビニールハウスの整備、草取りなどといった仕事がしっかり用意されている。「農家は天気が悪ければ休みになる」と思っている人は、要注意だ。
体育会系ではない。飲みに付き合わされることもない
ボクが勤めた農業法人は体育会系ではまったくなく、飲み会なんて年1〜2回ほどしかなかった。あるとしても新年会や新入社員・実習生の歓送迎会くらいである。パワハラやモラハラにも意識が高く、時代の変化に柔軟に対応している農業法人だった。
たまの飲み会なら楽しいが、頻度が高いのは嫌だという人も多いだろう。ボクもその一人だ。農業法人を見学・体験するときは、社内の雰囲気や飲み会などの行事の頻度を聞いてみるといいかもしれない。飲み会が苦手な人やプライベートの時間を大切にしたい人は要チェックだ。
また、飲み会があまりなかった背景には、皆日々の業務にくたびれていることが関係している。少しでも体力を回復するために、日をまたぐような飲み会なんて誰もやりたくないのである。
前回の記事「雇われ農家の奮闘記#1」で紹介したレタス農家の親方も体育会系でなく、プライベートに干渉することもほとんどなかった。
ボーナスは夏・冬。昇給は年1回
ボーナスの有無や昇給の回数は、農業法人によっても異なる。そしてボクが居た農業法人は、夏・冬の年2回もボーナスを出してくれる優良企業であった。雇われ農家ながらも「ボーナス出るのスゴイ……」と感じていた。ボーナスの内訳に関して、夏は全員一律の金額(給与の2〜3カ月分)。そして冬は個人の評価によって変動する。仕事ぶりによっては5カ月分ほどもらえることもあった。
昇給に関しては年1回であり、金額は各々の評価で異なる。
農業法人へ勤めるなら、ボーナスの有無と昇給に関しては必ずチェックしてほしい。ボクは運良くボーナスを出してくれる農業法人へ勤めることができていた。ただし、ボーナスを初めてもらったのは勤めてから2年目の夏であり、その間は目の前にニンジンをぶら下げられた感覚だった。
フォークリフト・農業用大特・準中型免許の費用はすべて会社負担
機械作業は勤続年数に比例して任されるようになることから、免許がおのずと必要になる。この免許の取得費用についてもボクが勤めた農業法人はすべて負担してくれ、「農耕車限定大型特殊免許」を取得する際はホテル代まで出してくれた。だが、これは当たり前ではない。業務に必要な免許でも、折半や自己負担でとお願いしてくる農業法人もあるだろう。なので、福利厚生の面もしっかり確かめて、費用を負担してくれるのかチェックしておくべきだ。
また、免許を取得するなら、自分からも業務へ携わりたいことを積極的にアピールしよう。やる気のある姿勢は、人の心を動かす力を持っている。
農業法人に入社してからの3年間は体に業務内容をたたき込みながら、初めてのボーナスをもらい、免許も徐々に取得していった。これにより業務の幅がますます広がっていく。次の記事では、農業法人で命の危機に瀕(ひん)した業務やつらかったことにフォーカスした内容をお届けする。雇われ農家の厳しい一面を垣間見ることができるだろう。
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